電子帳簿保存法 #5:電子取引に係るデータの保存義務について

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電子取引とは?

電子取引とは、取引に必要な情報を紙ではなく電子データでやり取りする取引を指します。具体的には、電子メールで送られてきた請求書のPDFや、ECサイトなどからダウンロードした購入物品の領収証、クラウドサービスを利用した取引情報のやり取りなどがこれに該当します。令和5年10月1日から始まるインボイス制度に伴う電子インボイス化や電子契約書など、向こう数ヶ月の間に、従来の紙取引を電子化する動きが加速すると見られています。

2023年12月31日までの対応

電子帳簿保存法は大きく3つの区分ごとに電子保存の方法について定められた法律ですが、これまでに解説したように、「電子帳簿保存」と「スキャナ保存」については対応は任意とされています。一方、「電子取引」を行った際の電子データ保存については、他の2つと異なり、対応は「義務」とされていますが、2023年12月31日まではその対応が猶予されています。

ちなみに、電子取引における電子データ保存義務が猶予される要件は以下の通りです(猶予を受けるための税務署長への届出や承認は不要)。

  • 保存要件に従うことができないやむを得ない事情(注)があると認められた場合
  • 電子データを書面で出力して適切に保存し、提出の求めに応じられること

2024年1月1日以降の対応(令和5年度税制改正)

令和5年度税制改正において、電子取引における電子データ保存の要件がいくつか緩和されました。

検索要件のすべてが不要となる対象者の変更

税務調査等があった際に、調査担当者にデータをダウンロードして提供する事ができる場合、電子データの検索要件のすべてを不要にすることができる措置について、対象者の範囲が変更されました。

改正前:基準期間(2期前)の売上高が1,000万円未満
改正後:基準期間の売上高が5,000万円未満

また、新たに以下の要件が追加されました。

改正後:対象者に「電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている保存義務者」を追加。

従来の書面での保存を容認するように見えますが、あくまでも電子データでの保存が前提ですので、電子データの検索要件を不要とする代わりに、紙ベースでの検索(確認)ができることを想定しているのだと思います。

電磁的記録の保存を行う者の情報確認要件の廃止

スキャナ保存の記事でも説明しましたが、電子取引データにタイムスタンプを付与して保存する場合、保存を行った者とその者を直接監督する者の情報を確認できるようにしておくという要件が、2024年1月1日以降は廃止されます。

新たな宥恕措置の整備

上記記載の宥恕措置は、2023年12月31日の期限をもって廃止されますが、令和5年度税制改正により、必要な改変を行い、新しい宥恕措置として電子帳簿保存法の「本則」に組み込まれることになりました。なお、猶予措置を受けることができるのは、以下の2つの要件を満たす事業者となります。

  • 納税地等の所轄税務署長が、保存要件による保存ができなかったことについて、相当の理由があると認めること
  • 税務調査等の際に、電子データののダウンロードに応じること、および求められた書面の提出に応じること

最後に

電子取引について、令和5年度税制改正において要件が緩和されたり、新たな宥恕措置が講じられたりしましたが、国税側が、「電子保存に対応しなくてもいいよ」とお墨付きを与えたわけではありません。

特に、新たな宥恕措置に掲げられている「相当の理由」の詳細については今なお不明な部分が多いため、会社の方針としては、システムや事務体制を整え、電子取引データ保存に積極的に取り組む方向で進めていっていただきたいと思います。

なお、電子取引に係るデータ保存については、次回の記事で更に深掘りしていきたいと思います。

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