団信付き住宅ローンにより購入した住宅を相続する場合の注意点

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団信付き住宅ローンとは?

住宅ローンを使ってマイホームを購入された方の多くは、団体信用生命保険(以下「団信」)に加入されています。相続が起きたときの取扱いを正しく理解するには、まず団信そのものの仕組みを押さえておく必要があります。

団体信用生命保険(団信)とは何か

団信は、借入人が亡くなったり所定の高度障害状態になったときに、保険会社から金融機関へ保険金が支払われ、その保険金で住宅ローンの残債が一括返済される仕組みの生命保険です。万が一のとき、残されたご家族にローン返済の負担を負わせないことを目的としています。

団信の契約関係

団信の契約関係は、一般の生命保険とは少し違います。民間の住宅ローンに付帯する団信では、金融機関が保険契約者および保険金受取人となり、借入人が被保険者となるのが一般的です。借入人が亡くなったときは、保険会社から金融機関へ保険金が支払われ、金融機関はその保険金を住宅ローン債権の回収に充てます。

ここで押さえておきたいのは、保険金を受け取るのはあくまで金融機関であり、相続人ではないという点です。相続人は保険金そのものを手にするわけではなく、結果としてローンの返済義務から解放される、という形になります。この契約構造は、このあと触れる相続税の取扱いを理解する前提となりますので、しっかり押さえておきましょう。

民間住宅ローンとフラット35の団信の違い

フラット35の団信(機構団信)は、住宅金融支援機構が保険契約者および保険金受取人となり、借入人が被保険者となる仕組みです(注1)。基本的な契約構造は民間住宅ローンの団信と大きくは変わりませんが、制度の変遷にいくつか特徴があります。

かつてのフラット35では、団信は任意加入で、利用者が毎年特約料を別途支払う方式でした(注2)。これが2017年10月1日申込受付分から改正され、特約料を別払いする方式から、団信の負担を金利に上乗せして毎月の返済に組み込む方式へと変わっています(注2)。現在の新機構団信もこの仕組みを引き継いでいます。

過去にフラット35を利用していた被相続人の相続案件では、契約時期によって団信加入の有無が異なることがあります。あとで詳しく触れますが、加入状況の確認は実務上の重要ポイントです。

団信で完済された住宅ローンは債務控除できるのか

団信付きの住宅ローンを抱えていた方が亡くなったとき、相続税の計算上、住宅ローン残債は債務控除の対象になるのでしょうか。結論から申し上げると、団信で完済される住宅ローンは、相続税の債務控除の対象にはなりません。以下、順を追って解説していきます。

相続税法上の「債務控除」の基本ルール

相続税の計算では、被相続人が残した財産の価額から、被相続人が負っていた債務の額を差し引くことができます。これが債務控除です(注3)。

ただし、どのような債務でも控除できるわけではありません。相続税法では、債務控除の対象となる債務は「確実と認められるもの」に限るとされています(注4)。具体的には、相続開始の時点で債務が現に存在しており、かつ相続人が実際に負担することになる債務であることが要件です。

団信で完済されたローンが債務控除の対象外となる理由

団信付きの住宅ローンの場合、被相続人が亡くなった瞬間にはローン残高が確かに存在しています。形式だけ見れば「相続開始の際に現に存する債務」に該当しそうにも見えます。

しかし国税庁の質疑応答事例では、団信契約により返済が免除される住宅ローンは、保険金で返済が補てんされ、相続人が支払う必要のない債務であるため、債務控除の対象にならないとされています(注5)。

債務控除の可否は、「相続開始時点に借入があったかどうか」ではなく、「相続人が最終的に負担することになる債務かどうか」で判断されます。団信で完済される住宅ローンは、形式上は債務であっても、実質的には相続人の負担にならない債務であるため、債務控除の対象となりません

「亡くなった時点ではまだローンが残っているのだから、債務控除できるのではないか」という疑問を持たれる方は少なくありませんが、団信が機能する以上、相続人が返済を続けることはなく、保険金による完済が確実に予定されている点が決定的な違いです。

団信保険金そのものは相続税の対象になるのか

もう一つよくいただく質問が、「団信から支払われる保険金は、生命保険金として相続税の課税対象になるのではないか」というものです。

相続税法では、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金のうち、被相続人が保険料を負担していたものは、みなし相続財産として相続税の課税対象になります(注6)。ただ団信の場合は、保険金受取人が金融機関(フラット35なら住宅金融支援機構)であって、相続人ではありません。保険金は金融機関へ直接支払われ、住宅ローン債権の回収に充てられるだけで、相続人が保険金を受け取る場面はそもそも存在しないのです。

そのため、団信保険金は相続人が受け取る死亡保険金には当たらず、みなし相続財産にも含まれないという扱いになります。ローンが消えるという経済的な効果はありますが、税務上は保険金を相続人が受け取ったとは見ない、というのが基本的な考え方です。

なお、保険料を実質的に負担しているのは借入人本人ですが、保険金受取人が金融機関であるという契約構造のため、団信の保険料は所得税法上の生命保険料控除の対象にもなりません。この点は意外と見落とされがちです。

団信に加入していなかった場合の取扱い

ここまでは団信に加入している前提でお話を進めてきましたが、すべての住宅ローンに団信が付いているわけではありません。団信なしの場合は、相続税の取扱いが大きく変わってきます。

住宅ローン残債が債務控除の対象となるケース

団信に加入していない状態で借入人が亡くなった場合、住宅ローン残債は団信で完済されることなく、相続人が承継する債務になります。

この場合の住宅ローン残債は、相続開始時点で現に存在する債務であり、かつ相続人が実際に返済する債務でもありますから、相続税の債務控除の対象になります(注3、注4)。団信付きのケースとは正反対の結論になる点に注意してください。

団信の有無で相続税の計算結果が変わるだけでなく、相続人の手元に残るお金の流れも大きく変わります。団信ありなら債務控除はできませんが、ローン返済の負担はなくなる。団信なしなら債務控除はできるけれど、相続人が長期にわたって返済を続けなければなりません。どちらが一概に有利・不利という話ではなく、相続税評価とその後の家計キャッシュフローの両面で影響が大きく異なる、ということです。

フラット35(旧制度)など任意加入だったケースの確認方法

特に注意したいのは、フラット35の旧制度を利用していたケースです。先ほど触れたとおり、2017年9月以前のフラット35では団信は任意加入でしたから、被相続人がフラット35を利用していたとしても、団信に加入しているとは限りません。

加入状況を確認する手がかりとなるのは、次のような書類です。

加入状況を確認する書類
  • 住宅ローンの契約書類(借入申込書、金銭消費貸借契約書)
  • 機構団信特約の申込書控えや契約概要書
  • 毎年送付されていた団信特約料の請求書・領収書
  • 通帳に記録された特約料の引き落とし履歴

被相続人の書類が整理されておらず、手元の資料だけでは加入状況が判然としないこともよくあります。そういうときは、ローンを借り入れている金融機関に直接問い合わせて、団信加入の有無と残債の処理方法を確認するのが確実です。

「団信に入っていると思い込んでいたが、実は未加入だった」という事態は、相続税申告だけでなく、その後のご家族の家計運営にも影響します。相続が発生したら、なるべく早い段階で加入状況を確認しておかれることをお勧めします。

相続発生後に必要な手続き

団信付き住宅ローンを抱えていた方が亡くなったとき、相続税の取扱いだけでなく、金融機関への連絡や不動産登記など、いくつかの実務的な手続きが必要になります。期限が決まっているものもありますから、早めに全体像をつかんでおきましょう。

金融機関への連絡と団信保険金請求の流れ

まずは、ローンを借り入れている金融機関に連絡し、借入人が亡くなったことを伝えます。金融機関では、団信の保険金請求に必要な書類の案内を行い、保険金請求の手続きを進めてくれます。フラット35の場合は、保険契約者である住宅金融支援機構を通じて手続きが進みます。

請求にあたって必要となる書類は、金融機関や団信の種類によって異なりますので、金融機関の案内に従って進めることになります。保険金の支払いが認められると、金融機関がその保険金を住宅ローン債権の回収に充当し、ローンが完済されます。

抵当権抹消登記

住宅ローンを組むときには、その住宅に金融機関を抵当権者とする抵当権が設定されています。団信でローンが完済されても、抵当権の登記は自動的には消えません。完済後に、所有者側で「抵当権抹消登記」の申請を法務局に行う必要があります

団信による完済が確認されると、金融機関から抵当権抹消登記に必要な書類が交付されます。具体的には、登記原因証明情報(弁済証書等)、金融機関の登記識別情報または登記済証、金融機関の委任状などです。あわせて、金融機関の会社法人等番号を申請書に記載することで、資格証明書の添付を省略できる扱いになっています。これらの書類と登記申請書をそろえて、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。

抵当権抹消登記の申請には法令上の明確な期限はないものの、放置すると交付された書類を紛失したり、後の不動産売却や次の相続のときに余計な手間が生じたりします。完済の手続きが終わったら、なるべく早めに抹消登記まで済ませておくのが実務上の鉄則です。

相続登記(令和6年4月から義務化)

相続によって不動産を取得した場合は、所有権の名義を被相続人から相続人に変更する「相続登記」が必要です。従来、相続登記は任意で、申請期限も罰則もありませんでしたが、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました(注7)。

法務省の案内では、次のように案内されています(注8)。

相続登記の義務化について
  • 相続(遺言による取得を含む)によって不動産を取得した相続人は、所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある
  • 遺産分割が成立した場合は、その成立日から3年以内に登記を申請する義務がある
  • 正当な理由なく申請義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される
  • 令和6年4月1日より前に開始した相続も義務化の対象であり、原則として令和9年3月31日までに登記が必要

団信付き住宅ローンで購入した自宅も、当然この義務化の対象です。抵当権抹消登記と相続登記は別の手続きですが、団信完済後に相続登記を行うケースでは、両方を同じ時期に進めることになります。司法書士にまとめて依頼するのも、実務上はよくある進め方です。

被相続人の住宅ローン控除と準確定申告

被相続人が住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けていた場合、亡くなった年の所得税の取扱いをどうするかが問題になります。所得状況によって準確定申告が必要となる場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行うのが原則です(注10)。

ここで論点になるのが、団信で完済された年分の住宅ローン控除の取扱いです。住宅ローン控除は、各年の年末時点におけるローン残高を基準に控除額を計算するのが原則です(注9)。ただし、住宅ローン控除の適用を受けていた方が年の中途で亡くなった場合、死亡した日まで引き続きその住宅を居住の用に供していれば、死亡した年分についても住宅借入金等特別控除の適用を受けられる、とされています(注11)。この場合、死亡日における住宅ローン残高を基準に控除額が計算されます。団信による完済は死亡後に進むため、死亡日時点ではローン残高が存在することになります。

なお、住宅ローン控除はあくまで借入人本人の所得税から控除する制度で、被相続人が受けていた住宅ローン控除を相続人がそのまま引き継ぐことはできません。相続人がその住宅に住み続け、自分の名義で新たにローンを組み直した場合などは、相続人側で新規に住宅ローン控除の適用を検討する余地がありますが、これは別の制度の話と切り分けてお考えください。

よくある誤解と注意点

ここまでの内容を踏まえて、団信付き住宅ローンと相続をめぐって特に誤解されやすいポイントと、注意したい特殊なケースをまとめておきます。

「団信で完済されたから相続税は関係ない」という誤解

団信で住宅ローンが完済されると、「ローンが消えたのだから、相続税についても気にしなくていい」と考えてしまう方がいらっしゃいます。これは正確ではありません。

団信で完済されることで影響を受けるのは、あくまで「住宅ローン残債を債務控除できるかどうか」という論点だけです。相続した自宅そのものは、当然ながら相続財産として相続税の課税対象になります。自宅の評価額は他の相続財産と合算され、相続税の計算に組み込まれます。

特に都市部の自宅は評価額が高くなりやすく、自宅だけで相続税の基礎控除額を上回るケースも珍しくありません。団信でローンが消えたことと、自宅が相続税の対象になることは、別の話だとお考えください。具体的な評価方法や適用できる特例については、相続税申告にあたって税理士にご相談されることをお勧めします。

連生団信・夫婦ペアローンでの落とし穴

夫婦で住宅を共有しているケースや、二人で住宅ローンを組んでいるケースでは、団信の取扱いが一段と複雑になります。

まず連生団信は、夫婦または共働き夫婦などを一つの保険でカバーし、どちらか一方が死亡または高度障害になった時点で、ローン残高が弁済される仕組みです。

連生団信には、一方の死亡等で残債が全額弁済されるタイプと、死亡した側の負担割合に応じて一定割合が弁済されるタイプがあり、商品によって取扱いが異なります。全額弁済型の場合は、生存配偶者にもローン返済の負担は残りません。

一方、一定割合弁済型の場合は、生存配偶者側の負担相当分の債務が残ります。死亡した側のローン部分が団信で消滅する場合、その部分は相続人が支払う必要のない債務として、債務控除の対象にはなりません。

ペアローンは、夫婦それぞれが別々に住宅ローン契約を結び、それぞれに団信が付くケースです。片方が亡くなったときは、亡くなった方のローン部分は団信で完済されるため債務控除の対象にならず、生存配偶者のローンはそのまま残って返済が必要です。

実務上ややこしいのは、住宅の持分割合とローンの負担割合が必ずしも一致しないケースです。たとえば持分は2分の1ずつだがローン負担割合は7対3、というような場合、団信で消滅する債務部分と、相続財産として評価する住宅の持分とを切り分けて考える必要があります。連生団信やペアローンの相続が発生したときは、契約書類で持分・債務・団信の保障内容を一つひとつ確認することが欠かせません。

【コラム】配偶者の返済が残るケースで銀行が見るポイント

ペアローンや、連帯債務型ローンで一定割合弁済型の団信が付いているケースなどで、一方が亡くなった後に生存配偶者のローンが残るときの話です。残された返済について、銀行融資の現場でどう見られるかを簡単にお話しします。

銀行が気にするのは、率直に言えば「これからも返済を続けられる方なのか」という一点です。返済原資となる収入の安定性、年齢と残りの返済期間のバランス、他の負債の有無といったところが基本的なチェックポイントになります。配偶者の死亡で世帯収入が大きく減るケースでは、当初の返済計画が成り立たなくなることもあります。

そういうときに選択肢として出てくるのが、返済条件の変更や借換えのご相談です。返済期間の延長による月々の返済額の圧縮、固定金利と変動金利の見直し、退職金や保険金を活用した一部繰上返済など、組み合わせはいくつか考えられます。ただし条件変更は信用状況の再審査を伴いますから、収入状況や勤続年数によっては希望どおりに進まないこともあります。

もう一つの選択肢として、自宅の売却を含めた住み替えの検討もあります。住宅を売却してローンを完済し、規模の小さい住宅に住み替えることで、月々の負担を大きく減らせるケースです。判断に迷ったときは、相続税の専門家だけでなく、ローンを借り入れている金融機関の担当者にも早めにご相談されると、選択肢の幅が広がります。

参考資料

注1:【フラット35】新機構団体信用生命保険制度(住宅金融支援機構)
注2:【フラット35】団体信用生命保険制度のご案内(住宅金融支援機構)
注3:相続税法 第13条(e-Gov法令検索)
注4:相続税法 第14条(e-Gov法令検索)
注5:団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン(国税庁・質疑応答事例 PDF)
注6:相続税の課税対象になる死亡保険金(国税庁タックスアンサー No.4114)
注7:不動産登記法 第76条の2(e-Gov法令検索)
注8:相続登記の申請が義務化されました(法務省)
注9:住宅借入金等特別控除(国税庁タックスアンサー No.1211-1)
注10:納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁タックスアンサー No.2022)
注11:住宅借入金等特別控除の適用を受けていた者が死亡した場合(国税庁・質疑応答事例)

本記事は2026年5月25日時点の法令等に基づいて執筆されています。

この記事を書いた人

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