能登半島地震:地震や津波・火災などで被災された個人・法人に係る税制上の取扱い

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災害に遭われた場合の税制上の特例は?

地震や台風などで自身が所有する家屋や事業用の資産に被害が出た場合、資力を喪失し、そのままでは事業継続が困難になったり、最悪生活環境そのものが失われてしまう可能性があるため、税制の面からも被災者やその支援者を救済する目的で、様々な施策が講じられています。

税法に規定する災害の範囲

税法に定める災害は以下の通りです。

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発生源災害の種類
自然災害震災、風水害、凍害、冷害、雪害、干害、落雷、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災又は火災その他の人為的災害で自己の責任によらないもの等に基因する災害
人為的災害鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害
生物による災害害虫、害獣その他の生物による異常な災害

法人税・所得税に共通する取り扱い

災害により滅失・損壊した資産等

商品、店舗、事務所等の資産が災害により被害を受けて、次に掲げるような損失や費用が生じたときには、その損失または費用の額は経費として処理することができます。

  1. 商品や原材料等の棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失または損壊した場合の損失額
  2. 損壊した資産の取壊しや除去のための費用
  3. 土砂その他の障害物の除去のための費用

被災した資産の復旧費用

災害により被害を受けた固定資産(被災資産)に係る支出が修繕費として処理できるかどうかは次の通りとなります。

  1. 被災資産を原状回復させるための支出は修繕費となります。
  2. 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水または土砂崩れの防止等のために支出する費用は修繕費とすることができます。
  3. 被災資産について支出する上記以外の費用の額のうち、修繕費として明確に区分できない部分については、支出金額の30%を修繕費とし、残額を資本的支出とすることができます。

従業員等に支給する災害見舞金品

災害により被害を受けた従業員やその親族に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として経費処理できます。

また、従業員と同等の事情にある専属下請先の従業員やその親族に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品についても、同様に経費処理できます。

法人税における取り扱い

取引先に対する災害見舞金

被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程において支出した災害見舞金や事業用資産の供与等のための費用は、交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。

取引先に対する売掛金等の免除等

災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金等の債権を免除する場合には、その免除することによる損失は寄附金や交際費等以外の費用として損金の額に算入されます。

また、契約中のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合や災害発生後の取引についてこれまでの取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。

取引先に対する低利または無利息による融資

災害を受けた取引先に対し、復旧支援を目的として低利または無利息による融資を行った場合における通常の利息額との差額は、寄附金に該当しないものとされます。

自社製品等の被災者に対する提供

不特定多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金または交際費等に該当せず、広告宣伝費に準ずるものとして損金の額に算入されます。

所得税における取り扱い

建物に被害を受けた場合

災害により被害を受けた建物の利用状況により、適用できる規定を選択します。

  1. 不動産賃貸業以外の事業用の建物(店舗や事務所、工場など)⇒「資産損失
  2. 不動産賃貸業用の建物(マンションやアパート)⇒「資産損失」または「資産損失と雑損控除」の有利選択
  3. 居住用の建物(マイホーム)⇒「雑損控除

事業用資産に生じた損失(資産損失)の必要経費算入

対象となる建物は、不動産所得(事業的規模)、事業所得、山林所得の起因となる建物です。また「事業的規模」の判定ですが、形式的な基準としてよく言われるのが、「5棟10室50台」基準です。これは、アパートやマンションなどについては、貸与できる独立した室数がおおむね10 室以上、独立した家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上、駐車場については、貸付台数がおおむね50 台以上であれば、原則として事業的規模で営まれていると判断されます。なお、この形式基準に当てはまらなくても、社会通念上事業と称するに至る規模であれば、「事業的規模」と判断されます。

適用については、青色申告・白色申告を問いません。また、損失を受けた原因については問われませんが、ここでは「災害」に限定します。

次の算式により計算した損失額の全額を、不動産所得・事業所得の必要経費に計上します。

災害直前の建物の帳簿価額 - 災害直後の建物の時価)- 廃材として処分できた金額 - 保険金で手当された金額

災害直前の建物の帳簿価額については、減価償却の明細から計算できますし、災害直後の建物の時価については、保険金の査定などで判明すると思います。なお、保険金については、災害に係る損害保険金は所得税法上非課税扱いになりますので、上記の算式により補填された保険金の方が大きい場合であっても、保険金に対して課税されることはありません。

なお、災害により支払われる保険金の取り扱いは、次のようになります。

  1. 火災保険金・損害賠償金等・・・資産損失の金額の計算上控除できます。
  2. 収益補償金等・・・総収入金額に計上し、資産損失の計算上控除できません。
  3. 人的損害に係る保険金等・・・資産損失の計算上控除できませんが、保険金自体は非課税となります。

次に、事業的規模ではない不動産所得または雑所得の起因となる建物についてですが、適用要件や損失額の計算は一緒です。違いは、必要経費に計上できる金額が「全額」ではなく「所得金額を限度」としている点です。つまり、いくら損失額が多くても不動産所得がマイナスにはならず、切り捨てられます。

雑損控除

先程の「資産損失」は、不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得の金額の計算上、必要経費にできるという規定なので、これらの事業を営んでいなければ対象とはなりませんが、「雑損控除」は全員が適用できる「所得控除」の仲間なので、多少考え方は異なりますが、災害というキーワードで考えると、両者には一定の関連があります。

雑損控除は、「災害・盗難・横領によって、資産について損害を受けた場合には一定の金額を所得から控除できますよ」という規定です(詐欺や恐喝による損害は対象外です)。

損害を受けた資産の所有者は、納税者本人かその年の総所得金額が48万円以下の同一生計親族(事業専従者可)でなければならず、対象資産も生活に通常必要な住宅や家具、衣類などに限定されており、事業用の資産や別荘などは対象となりません

次の算式により計算した金額のうち、いずれか多い金額を雑損控除の金額とします。

  1. (差引損失額)-(総所得金額等)✕ 10%
  2. (差引損失額のうち災害関連支出の金額)- 5万円

なお、損失額が大きくてその年の所得金額から控除しきれない場合は、翌年以後(3年間が限度)に繰り越して、各年の所得金額から控除することができます。

資産損失と雑損控除の有利適用

雑損控除の適用資産からは事業用資産を除くと説明しましたが、事業的規模で営んでいない不動産事業用の居住用賃貸物件が災害により損壊した場合には、 資産損失と雑損控除のどちらか有利な規定を選択して適用することができます。

ただし、災害関連支出(災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額をいいます)の有無により所得控除額の計算が異なることや、総所得金額等の10%の限度があることなどを踏まえ、資産損失と雑損控除のどちらの規定を適用するかは、十分に比較検討する必要があります。

雑損控除または災害減免法の有利選択

地震、火災、風水害などの災害によって、住宅や家財などに損害を受けたときは、確定申告を行う際、以下のいずれか有利な方法を選択することで、所得税の全部または一部を軽減することができます。

  1. 「所得税法」による雑損控除の方法
  2. 「災害減免法」による所得税の軽減免除による方法

住宅ローン減税の特例

住宅ローン控除を適用している家屋が災害により住めなくなった場合でも、引き続き住宅ローン控除の適用を受けることができます。なおこの特例を受けるための手続は、通常の確定申告または年末調整と同じです。

なお、「被災者生活再建支援法」の適用を受ける場合には、被災した家屋に加え、新たに取得した家屋についても重複して住宅ローン控除を受けることができます。

個人が支払を受ける災害見舞金

個人が支払を受ける災害見舞金で、その金額が社会通念上相当と認められるものについては、課税されません。

低利または無利息により生活資金の貸付けを受けた場合

災害により臨時的に多額な生活資金が必要になった役員または使用人が、会社から低利または無利息で貸付けを受けた場合に、その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける利息相当額の経済的利益は、課税されません。

被災事業用資産の損失の繰越し

個人事業主のその年の前年以前3年内の各年において生じた純損失の金額のうち、棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係るものがある場合には、その損失の生じた年分が青色申告書を提出しなかった年分であっても、その被災事業用資産の損失の金額に相当する金額は、その年分の総所得金額等の計算上控除することとされています。

買換資産の取得期間の延長の特例

居住用家屋の買換の特例の適用を受ける者が、災害により譲渡した年の翌年末までに買換家屋を取得することができない場合、買換資産の取得期間が最長2年間延長されます。

被災居住用財産の敷地に係る譲渡期限の特例

災害により滅失した家屋の敷地を災害発生後3年以内に譲渡した場合は、以下の居住用財産の譲渡の関する特例を適用することができます。

  1. 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
  2. 居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除
  3. 特定の居住用財産の買換え等の場合の長期譲渡所得の課税の特例
  4. 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
  5. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

申告などの期限の延長・納税の猶予

申告・納付期限の延長

災害等の理由により申告・納付などをその期限までにできないときは、その理由のやんだ日から2か月以内の範囲でその期限を延長することができます。また、届出書や申請書等の提出期限も同様に延長することができます。

申告・納付等の期限延長の申請は期限が経過した後でも行うことができますので、被災の状況に応じて税務署に相談してください。

納税の猶予

災害等により財産に相当の損失を受けたときは、所轄税務署長に申請をすることによって納税の猶予を受けることができます。

予定納税の減額・源泉徴収の徴収猶予

所得税の軽減免除は、最終的には翌年の確定申告で精算されますが、災害等が発生した後に納期限の到来する予定納税や給与所得者の源泉徴収税額などについて、確定申告の前にその減額または徴収猶予などを受けることができます。

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