単発の不祥事として片付けてよいのか
税務署や国税局は、納税者の申告内容を確認し、申告漏れや所得隠しがあれば調査し、必要に応じて追徴課税を行う立場にあります。
その「税を執行する側」にいる職員による脱税の疑い、納税者情報の漏えい、勤務中のギャンブル、無申告といった事案が、この1年ほどの間に相次いで報じられています。
人事院が公表した資料によれば、2025年(令和7年)中に懲戒処分を受けた国税庁職員は37人。前年の43人からは6人減少しており、件数そのものが急増しているわけではありません。
しかし2026年に入ってからも、勤務時間中の公営競技、納税者情報の漏えい、巨額の所得税脱税の疑いなど、税務行政の根幹にかかわる事案が相次いで公表されています。国税当局の幹部自身が、税務行政への信頼を揺るがす事態だとして危機感を示していると報じられました。
問われているのは、件数ではなく内容の重大性です。
税理士として日々納税者と接する立場から見ると、この問題の核心は、金額の大きさや行為の悪質さだけではありません。
申告納税制度を支えている「納税者からの信頼」が損なわれつつあることです。
今回は、報道された主な事案を事実関係を整理しながら振り返り、納税者としてこの問題をどう受け止めるべきかを考えてみたいと思います。
事案1:調査対象者から1億5,000万円、競艇に8億円超、脱税1億3,500万円の疑い
2026年8月7日、関東信越国税局は、茨城県の竜ケ崎税務署に勤務していた20代の職員を懲戒免職処分としました。
報道によれば、事実関係は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資金の受領 | 以前の勤務署で税務調査を担当した高齢女性宅を訪問し、2022年11月〜2026年1月に計約1億5,000万円を受領 |
| 使途 | 受領した現金を含め、計約8億6,000万円を競艇に投入 |
| 無申告 | 2023〜2025年分の払戻金など約3億3,400万円を申告せず、所得税約1億3,500万円を免れたとされる |
| 刑事手続 | 所得税法違反の疑いでさいたま地検に告発。うち約86万円については、修正申告に関する虚偽の説明で受領したとして詐欺の疑いでも立件手続 |
注意しておきたいのは、受領した1億5,000万円の全体が詐欺として立件されたわけではないという点です。詐欺の対象とされているのは、税務手続に関する虚偽説明で受け取った約86万円の部分と報じられています。事実関係は今後の捜査で確定していくことになります。
【解説】「負けていても税金がかかる」一時所得の構造
この事案は、税理士の視点から見ると制度の説明材料にもなります。
競馬・競艇の払戻金は、原則として一時所得に該当します。一時所得の計算では、収入から差し引けるのは「その収入を得るために直接支出した金額」、つまり当たった分の購入代金だけです。外れ馬券・外れ舟券の購入代金は、原則として控除できません。
そのため、
8億6,000万円を投じて3億3,400万円しか戻ってこなかった=トータルでは大負け
という状態でも、税務上は多額の所得が生じ、納税義務が発生します。
「儲かっていないのだから申告は不要」という誤解は、実は一般の納税者にも少なくありません。皮肉なことに、その誤解が生じにくいはずの立場の職員が無申告だったとされています。
購入の期間・回数・頻度・態様や利益発生の状況などを総合的に判断した結果、一連の購入行為が「営利を目的とする継続的行為」に当たるとして、払戻金が雑所得とされ、外れ馬券の購入代金が必要経費と認められた最高裁判例もあります。ただし、いずれも特殊な事実関係の下での判断です。通常の娯楽としての購入であれば、払戻金は一時所得として扱われるのが原則とお考えください。
事案2:納税者情報259件の漏えい(性質の異なる事案として)
2026年4月13日、大阪国税局課税1部の国税実査官だった30代の男性職員が、納税者情報259件を外部に送信する事案が発生しました。同局は6月19日付で停職6カ月の懲戒処分とし、職員は同日付で退職しています。
経緯は次のとおり報じられています。
- 出張先の税務署で勤務中、私用スマートフォンに千葉県警の警察官を名乗る人物から電話があった
- 「捜査の過程で嫌疑がかかっている」と告げられ、職業を明かしたところ業務関係書類の送信を要求された
- 業務用パソコンの画面をスマートフォンで撮影し、メッセージアプリで送信。個人・法人あわせて259件の情報が流出した
- 送信された情報には氏名、法人名、電話番号、申告状況などが含まれていた
- その後、一部の納税者に詐欺とみられる電話が延べ14回確認された(金銭被害は確認されていない)
- 懲戒処分は国家公務員法違反(信用失墜行為等)、書類送検は国税通則法違反(守秘義務違反)の疑い
この事案は、他の3件とは性質が異なります。
職員自身も、警察官を装った第三者に欺かれた側面があるからです。「嫌疑がかかっている」と告げられて動揺し、身の潔白を証明しようとして相手の指示に従ってしまった、という趣旨の説明がなされています。
私的な利益を目的とした不正とは、明確に区別して考えるべきでしょう。
ただし、区別したうえでなお重いのは、結果として納税者の情報が外部に流出し、二次被害が生たことです。
税務署には、民間企業とは比較にならないほど詳細な情報が集まります。氏名、住所、所得、売上、取引先、預金、不動産、家族関係――。税務調査ともなれば、通帳や契約書など通常は他人に見せない資料まで提出します。
納税者がそうした情報を提出できるのは、「国は厳格に管理してくれる」という信頼があるからです。
したがって国税当局に求められるのは、個人の不注意を責めることではなく、
- なぜ業務用パソコンの画面を私用スマートフォンで撮影できたのか
- 職員が特殊詐欺の標的になり得ることを前提とした研修・手順があったか
- 同種の手口に対する組織的な防御をどう設計するか
といった、仕組みのレベルでの検証と説明ではないでしょうか。
事案3:勤務時間中に馬券・舟券を2,251回購入
2026年4月3日、大阪国税局は、兵庫県内の税務署に勤務していた30代の上席国税調査官を停職1カ月の懲戒処分としました。職員は同日付で依願退職しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 2022年7月〜2025年4月 |
| 行為 | 勤務時間中にトイレ内などで、スマートフォンから馬券・舟券を計2,251回、約710万円分購入 |
| 無申告 | 払戻金による一時所得について、申告を行わなかった年があった |
| 共済組合 | 実施予定のない自宅工事の見積書を業者に作成させるなど虚偽書類を提出し、2度にわたり計140万円を不正に借入 |
公営競技の払戻金が一時所得となる場合、払戻金から当たり券の購入代金などを差し引き、さらに年間最高50万円の特別控除を適用して所得金額を計算します。総所得金額に算入されるのは、その2分の1です。申告が必要かどうかは、この金額と他の所得の状況によって決まります(給与所得者について、給与・退職所得以外の所得が20万円以下であれば原則として確定申告を要しない、といった取扱いもあります)。
いずれにせよ、調査官という職にあれば当然に理解しているはずの内容です。
勤務時間中のギャンブル自体も公務員として問題ですが、納税者の目から見て引っかかるのは、やはり自らの所得を申告していなかったという点でしょう。
事案4:無許可の副業と無申告(2025年10月)
問題は今年に始まったわけではありません。
2025年10月、東京国税局は、都内の税務署に勤務していた50代女性の上席国税調査官を懲戒免職処分としました。
- 2017年4月〜2024年1月、許可を得ずにイベントスタッフやエキストラとして計219回勤務し、計約222万円を得ていた
- このうち申告義務があった2019年・2022年・2023年分について申告していなかった
- 副業先に偽の住所を届け出るなどしていたことから仮装・隠蔽があったと認定され、重加算税約11万6,000円を含む約33万7,000円が追徴課税された
- ほかに、部内システムで納税者情報を私的に31回検索、行政文書101件を自宅等へ持ち出し、勤務時間中に77回の株取引
重加算税は、仮装・隠蔽が認められる場合に、過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される、より重い附帯税です。それが職員自身に課されたという点に、この事案の象徴性があります。
なぜ国税職員の不祥事は、これほど重く受け止められるのか
全国の税務署・国税局で誠実に職務を遂行している大多数の職員を、一連の事案と同列に扱うべきではありません。これは明確に区別すべきです。
そのうえで、国税職員には一般の公務員とは異なる特殊性があります。それは、
国民に税法の遵守を求め、他人の申告内容を調査し、場合によってはペナルティを課す側にいる
ということです。
だからこそ、職員自身による脱税や無申告は、制度そのものへの疑念に直結します。「同じことを一般の納税者がしたらどうなるのか」「内部のチェックは機能しているのか」――こうした疑問が生じること自体が、税務行政にとって深刻な事態です。
日本の所得税・法人税は、納税者自身が所得と税額を計算して申告する申告納税制度を基礎としています。この制度を支えているのは、法律の強制力だけではありません。「多くの人がルールを守っている」「当局も公平に仕事をしている」という相互の信頼が、その基盤にあります。
一連の不祥事が重い意味を持つのは、この基盤を直接傷つけるからです。
納税者としてできること――「税務署を名乗る電話」への対応
事案2は、私たち納税者にとっても他人事ではありません。流出した情報をもとに、実際に詐欺とみられる電話がかけられています。
国税庁は、税務職員が電話で問い合わせる場合には、提出された申告書等をもとに本人に内容を確認することを原則としている、と案内しています。そのうえで、不審な電話を受けたときの対応として次を求めています。
- 即答を避ける
- 相手の所属部署・氏名・電話番号を確認する
- いったん電話を切る
- 最寄りの税務署の総務課、または国税局の納税者支援調整官に問い合わせる
また国税庁は、税金の還付や納付のためにATMの操作を求めたり、国税の納付のために特定の金融機関口座への振込みを求めたりすることはない、と明確に注意喚起しています。口座番号などの個人情報を聞き出そうとする不審な電話も確認されています。
少しでも不審に感じたら、折り返す前にご相談ください。
顧問先の皆さまであれば、まず当事務所にご一報いただければ、確認いたします。
税理士自身への問いでもある
守秘義務は、国税職員だけの話ではありません。
税理士にも税理士法上の守秘義務があり、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすことは禁じられています。私たちも、通帳、契約書、家族関係に至るまで、極めて機微な情報を預かる立場にあります。
そして、事案2の手口――「警察を名乗る電話で動揺させ、判断力を奪う」――は、税理士事務所に向けられても不思議ではありません。
今回の一連の報道を、当局を批判して終わりにするのではなく、自らの情報管理体制を点検する機会として受け止める必要があると考えています。
求められるのは「謝罪」で終わらせないこと
不祥事が公表されるたび、国税当局からは信頼を損ねたことへのお詫びが表明されます。謝罪は当然に必要です。
しかし、これだけ事案が続いている以上、次に問われるのはその先でしょう。
- なぜ起きたのか
- 内部監察は十分だったのか
- 納税者情報へのアクセス権限は適切だったのか
- 私用スマートフォンによる画面撮影を技術的に防げなかったのか
- 職員自身の所得・副業・投資についてどのようなチェック体制があるのか
- 過去の再発防止策は機能していたのか
- 同種の問題が他に存在しないことを、どう確認するのか
納税者が知りたいのは「処分しました」という結果だけではありません。
組織として何が問題だったのか、そして何を変えるのか。
そこまで示されて初めて、信頼回復の第一歩になるのだと思います。
おわりに
租税は、法律に基づいて国民に負担を求め、納付がなければ滞納処分による強制徴収にも至り得る制度です。それだけ強い権限を伴うからこそ、権限を行使する側には、公平性・透明性、そして高い倫理観が求められます。
納税者には正しい申告を求める。税理士には高い職業倫理を求める。それならば、税務行政を担う側にも、それ以上の水準が求められるはずです。
残念なのは、ごく一部の行為によって、誠実に働く多くの職員までが疑いの目で見られ、そして何より、制度そのものへの信頼が失われかねないことです。その損失は極めて大きい。
私たち納税者の側も、感情的な批判で終わらせるのではなく、国税当局が今後どのような検証と対策を示すのかを、冷静に見ていきたいと思います。
主な出典・参考資料
公的資料
- 人事院「令和7年における懲戒処分の状況について」(2026年3月13日公表)
- 国税庁 タックスアンサー No.1490「一時所得」
- 国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」
- 国税庁「不審なメールや電話にご注意ください」
- 国税庁「納税者支援調整官についてのご案内」
報道
- 事案1(竜ケ崎税務署・所得税法違反等):2026年8月7日、毎日新聞、時事通信、テレビ朝日ほか各紙報道
- 事案2(大阪国税局・納税者情報259件の漏えい):2026年6月19日、朝日新聞、共同通信ほか各紙報道
- 事案3(勤務時間中の公営競技購入等):2026年4月3日、読売テレビ、MBSほか報道
- 事案4(無許可副業・無申告等):2025年10月17日、朝日新聞、日本経済新聞、時事通信ほか報道
※懲戒処分の件数は、人事院「令和7年における懲戒処分の状況について」(2026年3月13日公表)によります。
※本稿は2026年8月8日時点で公表・報道されている情報に基づいて作成しています。捜査中の事案については、報道された容疑・疑いと確定した事実を区別して記載しています。今後の捜査・裁判等により事実関係が更新される可能性があります。処分内容・金額等は報道各社により表現が異なる場合があります。

