本日のテーマ
生成AIの利用が広がる中で、各士業の事務所や小規模事業者でも「お客様の情報をAIに学習させていません」と明記すべきか、迷う場面が増えています。結論からいえば、AIを利用する可能性があるなら、データの取扱方針は明記した方がよいでしょう。ただし、「学習させていません」と一文で断言するより、どのような環境・設定・ルールでAIを使うのかを説明する方が、実務上は安全です。
確認ポイント
生成AIサービスに情報を入力する場合、その入力情報がどのように扱われるか知っておかなければなりません。
個人情報保護委員会も、生成AIサービスの利用にあたり、個人情報の取扱いについて注意喚起を行っており(注1)、特に、個人情報や機密情報を安易に入力しないこと、利用目的や第三者提供に関する整理を怠らないことは、事業者側が確実に守るべき事項として挙げられています。
一方で、すべてのAIサービスが入力データを学習に使うわけではありません。たとえばOpenAIは、ChatGPT Enterprise、ChatGPT Business、APIなどについて、初期設定では組織の入力・出力をモデルの学習や改善に利用しないと説明しています(注2)。Microsoft 365 Copilotについても、プロンプト、応答、Microsoft Graphを通じてアクセスされるデータは、基盤モデルの学習には使われないとされています(注3)。
ただし、ここで大切なのは、同じサービス名でも契約プランによってデータの取扱いが異なる場合があるという点です。たとえばChatGPTについても、Enterprise、Business、APIといった法人向けサービスと、無料版・Plusなどの個人向けプランでは、設定や利用条件が異なることがあります。「ChatGPTだから安全」「生成AIだから危険」と一括りに判断するのではなく、どのプランを、どの設定で利用しているのかを確認することが重要となります。
また、生成AI各社のデータ利用方針やサービス仕様は、継続的に更新されています。現在は学習に利用されない契約形態であっても、将来にわたり同じ条件が維持されるとは限りません。そのため、プライバシーポリシーにおいても「AIに学習させていません」と固定的に表現するより、利用するサービスの選定基準や安全管理措置を説明する方が、長期的には実態に即した運用を続けやすいでしょう。
つまり、問題は「AIを使うかどうか」だけではありません。どのサービスを、どの契約・設定で、どの情報に対して使うのかが重要になります。そのため、プライバシーポリシーに書く場合も、単に「AIに学習させていません」と断定するだけでは、将来のサービス変更や設定変更に対応しにくくなるおそれがあります。
現場での対応は?
実務上は、プライバシーポリシーや情報セキュリティ方針の中で、生成AIの利用方針を一項目として設けるのが一般的です。
特に私自身の業界である税理士事務所では、決算資料、給与情報、相続資料、金融機関情報など、顧客にとって非常に慎重な管理が求められる情報を扱います。顧問先から見ても、「AIを使っているのか」「入力した情報が学習に回らないのか」は、今後ますます重要となってくるでしょう。
また、実際にプライバシーポリシーなどに記載する場合の例としては、次のような表現が考えられます。
当事務所では、業務効率化およびサービス品質向上のため、生成AIサービスを利用する場合があります。利用にあたっては、顧客情報の保護を最優先とし、入力情報がAIモデルの学習に利用されない契約・設定のサービスを選定するとともに、必要に応じて匿名化その他の安全管理措置を講じます。
このように書くと、「AIを使わない」と言い切るのではなく、AIを適切に管理して使う姿勢を示せます。現場では、AIそのものよりも「何を入力してよいか」の判断で迷いやすいため、内部ルールもあわせて整えておくと安心です。
確認しておきたい項目は、たとえば次のようなものです。
- 利用しているAIサービスの契約プランとデータ利用条件
- 入力情報がモデル学習に使われない設定になっているか
- 顧客名、個人名、マイナンバー、金融情報などの入力禁止ルール
- 匿名化・要約化してから利用する運用
- 職員が個人アカウントで業務情報を入力しないための管理
- AIサービス各社の公式情報や更新日を定期的に確認する運用
プライバシーポリシーは、外部向けの説明文です。しかし、その裏側に実際の運用ルールがなければ、単なる安心材料で終わってしまいます。「書くこと」と「守れる運用にすること」はセットで考える必要があります。
本日のまとめ
AI時代には、「AIを使っていません」と示すよりも、「AIを使う場合に顧客情報をどう守るか」を明確にする方が現実的です。プライバシーポリシーには、学習利用されない環境の選定、匿名化、入力禁止情報、内部管理体制を簡潔に記載しておくと、顧客への説明もしやすくなります。
参考資料
注1:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
注2:OpenAI「Business data privacy, security, and compliance」
注3:Microsoft Learn「Data, Privacy, and Security for Microsoft 365 Copilot」

