家族経営の会社でも、株主総会は「不要」とは言い切れません
「株主は家族だけだし、実質的に社長が全部決めている。わざわざ株主総会なんて必要ないのでは?」──そう考えている方は少なくありません。
たしかに、株主が社長おひとりだけ、あるいはご夫婦だけという会社で、形式的に会議室に集まって議事を進行する場面はなかなか想像しにくいでしょう。しかし結論から言えば、家族経営であっても株式会社である以上、株主総会を「まったくやらなくてよい」とは言い切れません。
会社法上、株式会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集する建付けです。もっとも、ここで大切なのは、毎回きっちり会場を押さえて「総会らしい総会」を開くことではありません。会社として必要な意思決定を、適法な形で行い、あとから説明できるように記録を残すこと──これが本質です。株主全員の同意があれば、書面や電磁的記録による、いわゆるみなし決議を使える場面もあります。
ここでは、なぜそう言えるのか、そして実務上はどこに力点を置けばよいのかを整理します。
株式会社である以上、家族だけ・一人でも原則は変わらない
家族経営の会社では、「家族しかいないのだから、社長が決めれば十分」と考えられがちです。しかし、株式会社という法人格を選んでいる以上、会社法上のルールから完全に自由になるわけではありません。
ここで大事なのは、「開催しないこと自体に直ちに罰則が科される」という単純な話ではない、という点です。問題になりやすいのは、計算書類の承認、役員の選任・再任、配当など、本来きちんと決めておくべき事項について、必要な決議や記録が存在しない状態になることです。定時株主総会が予定されていることや、株主全員の同意で株主総会決議を省略できることは、会社法で確認できます。
実務で大事なのは「集まること」より「適法な決議と記録」
家族会社の社長が気にされるのは、「本当にわざわざ集まらないといけないのか」という点だと思います。
実務上の答えを先にお伝えすると、形式的に会議室に集まること自体が本質ではありません。大切なのは、「会社としていつ・何を・どう決めたか」を、適法な手続に基づいて記録に残すことです。
株主総会というと、大企業のように議長が壇上で議案を読み上げる場面を思い浮かべるかもしれませんが、家族経営の非公開会社では、そこまでの形式は必ずしも求められていません。重要なのは、会社法が予定する決議事項について、適法な方法で意思決定を行い、その内容を議事録や同意書面として残しておくことです。なお、株主総会議事録は会社法上、本店で10年間備え置く建付けです。
書面決議・みなし決議で対応できるケースも多い
「原則は分かったけれど、家族だけの会社で毎回総会を開くのは現実的じゃない」──そう感じた方も多いのではないでしょうか。
実はこの点について、会社法にはいわゆる「みなし決議」と呼ばれる仕組みが用意されています。これは、株主全員が書面または電磁的記録で議案に同意した場合、株主総会の決議があったものとみなすことができる制度です。この点も会社法で確認できます。
家族だけで株式を持っている非公開会社であれば、株主全員の同意を得ることは実務的にそれほど難しくないケースが多いでしょう。実際に、小規模な同族会社ではこの方法を活用して、毎年の決算承認や役員関係の決議を処理しているところも少なくありません。
ただし、みなし決議が有効に成立するには、あくまで株主全員の同意が必要です。また、提案の内容や同意の記録は、後から確認できる形で保存しておく必要があります。「口頭で家族に確認した」だけでは、万一のときに決議の存在を証明しにくくなりますので、書面やメールなど、形の残る方法で整備しておくことが大切です。
株主総会をしていないと起こりうる「法務上のリスク」
株主総会の話になると、多くの方がまず「税務署に何か言われるのか?」を気にされます。その気持ちはよく分かりますが、実は最初に問題になりやすいのは税務よりも法務のほうです。
具体的には、会社法上の手続が欠けていること、議事録が存在しないこと、登記との整合がとれていないこと──こうした会社の意思決定の土台が不安定になるリスクです。税務上のリスクについては次のセクションで改めて整理しますので、ここではまず法務面に絞って見ていきましょう。
計算書類の承認手続が欠けてしまう問題
株式会社は、毎事業年度の終了後に計算書類を作成し、会社として必要な承認・報告の手続を経ることが予定されています。
家族経営の中小企業では、この部分が「税理士が決算を組んでくれているから十分」と考えられがちですが、税務申告と会社法上の意思決定は別の問題です。決算承認や剰余金の配当等は、会社の機関設計や定款の定めによって決定機関が異なる場合がありますが、いずれにしても、会社としてどの機関が、いつ、どの内容を決めたのかを記録で残しておくことが大切です。この前提は会社法の建付けからも確認できます。
ここが曖昧だと、あとから配当や役員関係の処理を説明する場面で土台が弱くなります。
役員の選任・再任・任期管理と登記のズレ
家族経営の会社で特に見落とされやすいのが、役員の任期管理です。
非公開会社であれば、取締役の任期は会社法上、定款で最長10年まで伸ばすことができます。しかし、任期が満了すれば、たとえ同じ方が引き続き取締役を務める場合であっても、再任の決議と変更登記が必要になります。法務省も、設立後に登記した事項に変更が生じたときは2週間以内に変更登記をしなければならず、これを怠ると代表者等が100万円以下の過料に処される可能性があると案内しています(法務省「役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です」)。
家族会社では「役員は代わらないから放っておいてよい」と思われがちですが、人が同じでも、任期満了後の再任と登記は別問題です。この手続の起点になるのが、株主総会またはみなし決議です。
長期間放置すると、休眠会社整理の対象にもなり得ます
さらに注意しておきたいのが、長期間まったく登記が動いていない株式会社が、休眠会社整理の対象になり得るという点です。
法務省は、休眠会社・休眠一般法人の整理作業について案内しており、公告から2か月以内に必要な登記または「まだ事業を廃止していない」旨の届出がないときは、みなし解散の登記がされるとしています(法務省「休眠会社・休眠一般法人の整理作業について」)。
あわせて、年度ごとの整理作業案内では、最後の登記から12年を経過した株式会社が整理対象とされることも示されています(法務省「令和7年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について」)。
つまり、「長く放置したら直ちにみなし解散」というわけではなく、一定の手続を経てそうした状態に至り得る、という整理が正確です。家族会社では「事業は続いているから大丈夫」と思いがちなところ、登記の世界では事業の実態と登記の状態は別問題です。
ここでも、毎年の株主総会やみなし決議の運用が、役員任期と登記の確認につながってきます。
紛争時に「決議が存在しない」と争われるリスク
「うちは家族だけだから揉めることはない」──そうおっしゃる方は多いのですが、実務的にはこの前提が崩れるケースが一定数あります。
たとえば、兄弟で株を持ち合っている会社で経営方針の対立が起きた場合。あるいは、相続によって株式が分散し、もともとの家族関係とは異なる利害関係者が株主に加わった場合。こうした場面では、「あのときの役員報酬の決定は有効だったのか」「配当の決定は本当にあったのか」といった形で、過去の意思決定の有効性が争点になることがあります。
こうした場面で、議事録や同意書面が残っているかどうかは、会社側の主張を支える重要な資料になります。逆に、議事録がまったくない、あるいは日付や内容に不自然な点があるといった状況は、会社にとって不利に働きやすくなります。
家族間で関係が良好なうちは問題が表面化しにくいですが、万一揉めたときに「決議がなかった」と言われてしまうリスクは、平時に記録を残しておくことでしか防げません。
議事録の作成・保存義務と立証上の問題
株主総会を開催した場合はもちろん、みなし決議を使った場合でも、内容が分かる書面をきちんと残しておくことが重要です。株主総会議事録の作成や本店での備置きについては、会社法で確認できます。
家族経営の会社では、こうした閲覧請求や外部チェックを受ける場面は多くないかもしれません。しかし、問題は「議事録がない」という状態が固定化してしまうことです。議事録が存在しないと、紛争時の立証はもちろん、役員変更登記などの場面でも支障が出やすくなります。
また、元銀行融資担当の立場から一つ付け加えると、議事録が整備されていないことは、金融機関から見ると「数字以前の管理体制の問題」と映りやすいものです。融資審査の現場では、決算書の数字だけでなく、会社の内部管理がどの程度整っているかも見ています。議事録や株主名簿といった基本書類が整っていない会社は、それだけで信用面のマイナス要因になることがあります。
「小さい会社だから」と後回しにしがちなポイントですが、法務・融資の両面から見ても、議事録の作成と保存は最低限の基本動作として意識しておきたいところです。
税務上のリスクは「直接ペナルティ」より「証拠不足」に注意
法務面のリスクを整理したところで、次は多くの方が最も気にされる税務面です。
結論を先にお伝えすると、税務上のリスクの本質は「株主総会をしていなかったこと」そのものではありません。「会社として、いつ・何を・どう決めたかを証明できない」ことです。株主総会の未開催が即座に追徴につながるわけではないものの、意思決定の記録が欠けていれば、役員報酬や配当などの処理を税務調査で問われたときに説明が苦しくなります。役員給与や退職金の税務は、国税庁も「決定時期」や「具体的確定」を重視して整理しています。
株主総会未開催それ自体が直ちに税務否認になるわけではない
まず前提を押さえておきましょう。税法上、「定時株主総会を開催していないこと」それ自体を直接の理由として課税処分を行う、という一般的な規定があるわけではありません。
税務署が見ているのは、あくまで「課税所得の計算が正しいかどうか」「経費や損金の処理が税法の要件を満たしているかどうか」です。株主総会を開催したかどうかは、その判断の直接的な基準ではありません。
ではなぜ株主総会や議事録の話が税務と結びつくのか。それは、法人税法上のさまざまなルールが、会社としていつ・何を・どのように決めたかの証明を前提としているからです。その裏づけとなるのが、株主総会議事録や取締役の決定書、あるいはそれに代わる記録なのです。
役員報酬・賞与・退職金で問題になりやすい理由
税務上、この「証拠不足」が最も具体的に問題になりやすいのが、役員に対する報酬・賞与・退職金の取扱いです。
まず役員報酬についてです。国税庁は定期同額給与の考え方を示しており、各支給時期の支給額が同額であることを基本としつつ、通常改定は事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までの改定などが想定されています。ここで重要になるのが、報酬改定をいつ決めたのかを示す記録です。議事録や決定書類がなければ、「本当に期首から3か月以内の改定だったのか」を後から説明しにくくなります。
役員賞与についても、事前確定届出給与として損金算入するには、支給額と支給時期をあらかじめ定めて所定の届出を行う必要があります。ここでも、会社としての意思決定記録が土台になります。
役員退職金はさらに重要です。国税庁は、適正額の役員退職金の損金算入時期について、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度としています。つまり、退職金は「出したこと」だけでなく、「いつ、どのように確定したか」が大切なのです。
金額が大きくなりやすい退職金だからこそ、決定プロセスの記録が残っているかどうかは、税務調査で争いになった場合の結論を大きく左右し得るポイントになります。
配当や利益処分の根拠資料としての重要性
配当も、会社側で軽く扱わないほうがよい論点です。
配当には、株主側で配当所得や源泉徴収の論点が生じます。国税庁も、配当等の支払の際には所得税等が源泉徴収されることを案内しています。
そのため会社側でも、いくらを、いつ、どの株主に支払うことにしたのかを示す決定記録が大切です。議事録や同意書面がなければ、申告書や源泉事務との整合を後から説明しにくくなります。
ここでも問題は、「総会をしたかどうか」だけではなく、配当決定の根拠資料があるかどうかです。
なお、剰余金の配当等の決定機関は、会社の機関設計や定款の定めによって異なる場合があります。そのため、「どの会社でも必ず株主総会だけで決める」とは限らず、自社の定款や機関設計に沿って整理することが必要です。この点も会社法を前提に確認しておきたいところです。
税務調査で議事録・意思決定資料が確認される場面
税務調査の現場で議事録や意思決定資料が問題になりやすいのは、役員報酬の改定時期、退職金の決定経緯、関連当事者間取引の条件設定などです。
調査官から「この報酬改定はいつ決まったのですか」「退職金の算定根拠を見せてください」と聞かれたときに、議事録や決定書を示せるかどうかで、やり取りのスムーズさは大きく変わります。家族間で不動産を賃貸している場合や、関連会社との取引がある場合などは、「その取引条件は誰がどう決めたのか」という意思決定プロセスについて質問を受けることがあります。
税務調査で「議事録がないから自動的にアウト」というものではありません。しかし、議事録がない=説明材料が乏しいという状態は、会社側にとって不利に働きやすいのです。役員給与や退職金の基本的な考え方は、国税庁タックスアンサー No.5211およびNo.5208でも確認できます。
「うちは税理士に決算を頼んでいるから大丈夫」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、税理士が担当するのはあくまで税務申告の部分であり、株主総会の運営や議事録の作成は本来会社側の責任です。もちろん、顧問税理士に相談すれば対応を一緒に考えてもらえるケースは多いですが、「頼んでいるから自動的に整う」というものではない点は意識しておきたいところです。
家族経営で特に揉めやすい論点を整理します
ここまで、法務・税務それぞれのリスクを見てきました。このセクションでは、家族経営の会社で特に問題になりやすい具体的な論点を取り上げます。
いずれも、平時には「うちは家族だけだから問題ない」と思われがちですが、税務調査、相続、事業承継、あるいは家族間の関係変化といったタイミングで一気に表面化しやすいテーマです。
役員報酬の改定と定期同額給与のルール
家族経営の会社で最も身近な論点が、役員報酬の決め方です。
法人税法上、役員報酬を損金に算入するには、定期同額給与の要件が重要になります。毎月同額を支給し続けることが原則で、改定する場合にはその時期や理由が税務上の論点になります。そして、この改定の根拠として想定されているのが、定時株主総会やそれに伴う社内決定の記録です。
家族会社では、「社長が年度の途中で自分の報酬を上げた、あるいは下げた」というケースが起こりやすいのですが、改定の時期や手続に不備があると、変更部分の税務上の扱いが問題になり得ます。
ここで重要なのは、改定をいつ決めたのかを客観的に示す資料があるかどうかです。議事録も決定書も残っていなければ、たとえ実際には期首の時点で決めていたとしても、税務調査の場でそれを証明する手段がなくなってしまいます。
家族間で「なんとなく決めている」という状態を、年に一度、決議と記録に落とし込む。これだけで、定期同額給与をめぐるリスクはかなり下がります。
配当・剰余金の処分と記録の整備
配当を行っている家族会社では、剰余金の処分も注意が必要な論点です。
配当を出すかどうか、いくら出すかを家族内の口頭合意だけで処理していると、その支払いの法的・税務上の位置づけを後から説明しにくくなります。特に、申告書や源泉事務との整合を求められる場面では、決定記録があるかどうかの差は小さくありません。
配当を出すのであれば、計算書類の承認や利益処分の整理とあわせて、どの機関が、いつ、いくらを決めたのかを明確にしておくことが基本動作になります。
役員の任期満了と再任登記
よくあるのは、設立時に「取締役の任期は10年」と定款に定めたまま、10年目を迎えたことに気づかないケースです。任期が満了しても、同じ方が引き続き経営にあたっている限り、日常業務にすぐ支障は出ません。そのため、任期満了の事実自体が見過ごされてしまうのです。
しかし、再任決議をせずに登記を放置していれば、過料の問題が生じ得ますし、長期間未登記の状態が続けば休眠会社整理の対象にもなり得ます。
この論点は税務の守備範囲外なので、税理士が決算申告を担当していても自動的にはカバーされません。会社側が自ら意識していないと漏れやすいポイントです。
年に一度の定時株主総会(またはみなし決議)のタイミングで、「今期は任期満了に当たるかどうか」を確認する運用にしておけば、こうした見落としはかなり防げます。
役員退職金・事業承継での手続不備
役員退職金は、金額が大きくなりやすいだけに、手続の不備が税務上の大きな問題に発展しやすい論点です。
退職金の相当性は個別事情で変わりますが、少なくとも、いつ、いくらを、どのような根拠で決めたかを示す記録は極めて重要です。国税庁も、退職金の損金算入時期について、株主総会決議等により具体的に確定した日を基準に整理しています。
事業承継の場面では、退職金の支給は「先代から後継者へのバトンタッチ」に伴う大きな資金移動になります。承継後に親族間で「あの退職金は妥当だったのか」と議論になることもあるため、平時から決議記録を整えておく意味は大きいといえます。
自社株・相続・M&Aで議事録が効いてくる場面
家族会社では、社長の相続をきっかけに自社株が分散したり、後継者への株式移転が必要になったりするケースが少なくありません。こうした場面では、過去の株主総会議事録や決算承認の記録が、会社の意思決定の正当性を示す資料として意味を持つことがあります。
また、近年は中小企業のM&A(第三者への事業売却)も増えていますが、買い手側が行うデューデリジェンス(買収監査)では、議事録の有無や内容がチェックされることも多く、整備が甘いと「ガバナンスが弱い会社ではないか」という見方につながることがあります。
融資の場面でも同様です。元銀行融資担当の経験から申し上げると、金融機関は「数字」だけでなく「その数字がどのような意思決定のもとに作られたか」を見ています。議事録の有無は、その判断材料の一つになり得ます。
自社株の評価、相続対策、M&A、融資──こうした場面が「いつか来るかもしれない」と考えれば、平時から議事録を整備しておくことは、将来の選択肢を広げるための地味だけれど確実な備えになります。
家族経営の会社が最低限おさえたい実務対応
ここまで、法務・税務・周辺実務のリスクを幅広く見てきました。「思っていた以上にいろいろあるな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、大事なのは「全部を完璧にやらなければならない」と構えることではありません。家族経営の小規模会社にとって現実的なのは、毎年決まった時期に、最低限の決議と記録を同じ型で回す仕組みを作ることです。
ここでは、具体的にどう動けばよいかを整理します。
年1回、決算承認・利益処分・役員関係の確認をセットで行う
最もシンプルで効果が大きいのは、決算のタイミングに合わせて、必要な決議事項をまとめて処理してしまうことです。
多くの中小企業では、事業年度終了後に税理士と決算作業を行い、法人税の申告を済ませる、という流れが定着しているかと思います。この一連の流れの中に、株主総会(またはみなし決議)の手続を組み込むイメージです。
具体的には、次のような項目を毎年の定型作業として確認すると回しやすくなります。
- 計算書類の承認
- 剰余金の処分や配当の有無の確認
- 役員報酬の改定の有無
- 役員の任期満了の有無
これらをバラバラに処理しようとすると漏れが生じやすいですが、年1回、決算と同じタイミングでセットにしてしまえば、それほど大きな負担にはなりません。役員報酬については、通常改定の時期との関係でも、この運用は合理的です。
一人会社・夫婦会社では「みなし決議+決定書」をひな形化する
株主がおひとりだけの一人会社、あるいはご夫婦だけで株式を保有している会社の場合、みなし決議の活用が実務的に非常に有効です。
ポイントは、この手続を毎年同じフォーマットで行えるようにひな形を用意しておくことです。
たとえば、次のような書面を毎年作成・保存する運用にしておけば、最低限の体裁は整います。
- 株主総会みなし決議に関する提案書(または同意書):議案の内容、提案日、株主全員の同意の旨を記載
- 株主総会議事録(みなし決議の場合の記録):みなし決議があったものとみなされた事項と日付を記載
- 取締役決定書(取締役会非設置会社の場合など):取締役が決定した事項の記録
書式自体は複雑なものである必要はありません。日付、決議事項、同意者が明確になっていれば、基本的な役割は果たせます。大事なのは、毎年きちんと作成し、保存し、必要なときにすぐ取り出せる状態にしておくことです。法務局の登記関係の案内としては、商業・法人登記の申請書様式(法務局)も参考になります。
ひな形については、司法書士や顧問税理士に相談すれば、自社の状況に合ったものを用意してもらえるケースが多いです。一度ひな形を作ってしまえば、翌年以降は日付と金額を更新するだけで済みますので、最初の一歩さえ踏み出せば負担は小さくなります。
税理士・司法書士と連携し、年間運用をルーチンにする
ここまでの内容を読んで、「結局、毎年やらなければいけないことが増えるのか」と感じた方もいるかもしれません。しかし、実務的には既存の専門家との連携を少し工夫するだけで、かなりの部分をルーチン化できます。
たとえば、決算申告を依頼している顧問税理士に、「決算のタイミングで、株主総会関連の議事録も一緒に整備したい」と一言伝えておくだけでも、対応は大きく変わります。また、役員の任期管理や変更登記については司法書士の守備範囲ですので、「任期満了のタイミングで声をかけてほしい」と伝えておくと管理漏れを防ぎやすくなります。変更登記の2週間ルールや登記懈怠の過料リスクについては、法務省の案内でも確認できます。
大切なのは、「株主総会」「議事録」「登記」といった手続を特別なイベントとして捉えるのではなく、決算・申告・登記という既存の年間サイクルの中に自然に組み込んでしまうことです。そうすれば、家族会社であっても無理なく回せる運用になります。
最初は「何から手をつければよいか分からない」という方も多いと思いますが、まずは今年の決算時に、顧問税理士へ「議事録まわりを整備したい」と相談してみるのが一番確実な第一歩です。
まとめ ── 「何もしなくてよい」わけではないが、最低限の整備で十分守れる
家族経営の会社でも、株式会社である以上、株主総会が「まったく不要」とは言い切れません。ただし、大企業のように形式的な総会運営をしなければならないわけでもありません。
この記事のポイントを改めて整理しておきます。
株主総会が必要とされる理由は、「会議を開くこと」自体にあるのではなく、「会社の意思決定を適法な手続で記録に残すこと」にあります。 家族会社・一人会社であれば、みなし決議を活用することで、実務的な負担を大きく抑えることができます。
法務上のリスクとしては、計算書類まわりの手続のあいまいさ、役員の任期管理漏れ、登記とのズレ、そして紛争時に決議の存在を証明できないといった問題が挙げられます。特に登記の放置は、過料や休眠会社整理の問題につながり得ます。
税務上のリスクは、未開催そのものへの直接的なペナルティというより、意思決定の証拠がないことで間接的に不利になる構図です。役員報酬の改定時期、退職金の算定根拠、配当の決定記録などは、税務調査で問われたときに議事録の有無が結果を左右しやすいポイントになります。
銀行融資や事業承継、M&Aの場面でも、議事録の整備状況は会社の管理体制を測る材料のひとつとして見られています。
こうしたリスクに対して、家族経営の会社がまず取り組むべきことはシンプルです。
年に1回、決算のタイミングで、計算書類の確認、利益処分、役員報酬、任期確認をまとめて整理し、記録を残すこと。 一人会社や夫婦会社であれば、みなし決議のひな形を用意し、毎年同じ型で回す。そして、顧問税理士や司法書士と連携して、この流れを年間ルーチンに組み込む。
これだけで、法務・税務・融資・承継にまたがるリスクをかなりの程度まで下げることができます。
株主総会や議事録の整備について、「うちの会社はどこまで対応すればよいのか」「今の状態で問題がないか確認しておきたい」といったご相談は、世良税理士事務所でもお受けしています。会社法まわりの手続と税務の両面から、御社の状況に合わせた実務的な整理をお手伝いいたします。まずはお気軽にご相談ください。

