改正の趣旨
令和6年度税制改正大綱によると、デフレ脱却・賃金上昇・消費拡大・投資拡大の好循環を実現させるため、今回の改正により所得税と個人住民税の定額減税を実施するとしています。
今回は個人の口座に振り込まれる給付金という形ではなく、給与や公的年金から控除される源泉所得税や特別徴収住民税、個人事業主の予定納税額や普通徴収住民税を減額させることで、複数月に渡って減税を行うことになります。
「給付金」ではなく「定額減税」であることから、税額の発生しない低所得者層に対する手当などについては記載されていないため、現時点では不明です。
低所得者層に対する手当につきましては、関連記事をご参照ください。
特別控除額
納税者本人の所得制限
所得税・個人住民税ともに、納税者本人について以下の所得制限が課されています。
令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下であること。
(給与所得者であれば、給与収入金額2,000万円以下)
所得税
- 納税者本人・・・3万円
- 同一生計配偶者・・・3万円
- 扶養親族・・・1人につき3万円
ただし、配偶者及び扶養親族はその年の合計所得金額が48万円以下でかつ同一生計であるものに限ります。
個人住民税
- 納税者本人・・・1万円
- 控除対象配偶者・・・1万円
- 扶養親族・・・1人につき1万円
配偶者についてですが、「控除対象」配偶者と表記されていますので、以下の要件を満たす必要があります。
・合計所得金額が1千万円以下である個人住民税の納税義務者の配偶者であること
・同一生計配偶者であること
・配偶者自身の合計所得金額が48万円以下であること
扶養親族の要件は所得税と同様です。
適用時期
所得税
令和6年(2024年)分の所得税額から控除します。ただし、控除開始時期は所得の種類により異なります。
- 給与所得者
・・・令和6年6月1日以後最初に支給される給与・賞与に係る源泉徴収税額から順次減額 - 公的年金受給者
・・・令和6年6月1日以後最初に支払いを受ける公的年金等に係る源泉徴収税額から順次減額 - 個人事業主
・・・令和6年分の所得税に係る第1期予定納税額から減額
かなりややこしいですが、毎月の給与に係る源泉徴収税額が2万円と仮定すると、まず6月分給与に係る源泉徴収税額2万円から所得税の定額減税額3万円を控除します。すると控除しきれない1万円が残りますので、これを7月分給与に係る源泉徴収税額から控除することになります。給与に係る源泉徴収税額は従業員ごとに異なりますので、従業員ごとにどの月の給与でどれだけ控除したかを管理する必要があり、給与担当者にとってはまさに地獄です。
個人事業主の場合は、予定納税額が発生していれば最短で令和6年7月で対応できますが、予定納税額が発生していない場合は、令和6年分の確定申告書において特別控除額を記載することで対応しますので、実現するのは令和7年3月くらいになります。
個人住民税
個人住民税はもっとややこしく、こちらも給与担当者の頭を悩ませそうです。
- 給与所得者・・・以下の通り
令和6年6月分 ⇒ 特別徴収しない
令和6年7月分以降 ⇒(特別徴収税額の年額-特別控除額1万円)を11ヶ月で割り、令和6年7月から令和7年5月分給与で均等に徴収することで対応 - 公的年金受給者
・・・令和6年10月1日以後最初に支払いを受ける公的年金等に係る源泉徴収税額から順次減額 - 個人事業主
・・・令和6年分の個人住民税に係る第1期分の納付額から減額
最後に
税制改正大綱であるため今後詳細が明らかにされると思いますが、普通に考えて、給与を支払う会社や事業主に事務コストを押し付けすぎだろと思えるのですがいかがでしょうか?
源泉徴収税額や特別徴収税額の計算を会計ソフトや独自システムで行っている会社であれば、これらのためにシステムの見直しや改修が必要になるかもしれません。
インボイス対応のための改修⇒電子帳簿保存法対応ときて間髪入れずに源泉徴収事務の見直しとなると、改修コストもさることながら、人員の手当、業務フローの見直し、出力帳票の改定など様々な混乱が予想されます。
減税される側にしても、例えば我が家であれば、妻と子供2人で減税額は4万円✕4人=16万円となりますが、このようなやり方で減税されても、なかなか消費や投資に充てようとはなりにくいですね。。