そもそも「慰安旅行」って何?
慰安旅行の「慰安」ということばの意味は“労をねぎらうこと”。 つまり、日ごろ会社の業績に貢献してくれている社員に対し、その労をねぎらうために旅行に行く、という意味になります。
これに対し、 社員間のコミュニケーションアップやスキルアップ、外部視察など、一定の目的がある場合は「社員研修旅行」となります。 つまり社員研修旅行は、ただ楽しむのではなく、職場環境の向上や社員達の知識や経験の向上など、仕事の延長線と捉えることができます。
従業員慰安旅行の税務上の取り扱い
従業員慰安旅行として支出したお金は、基本的にはその従業員に対する給与となります。従業員にとっては、タダで旅行に行けるという経済的利益を得ているので、給与として課税され、会社側は忘れずに源泉徴収をしなければなりません。
ただし、従業員慰安旅行の内容(旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合など)が世間一般で行われている慰安旅行の範疇であれば、給与として課税せず、福利厚生費として処理しても良いとされています。
ただし、福利厚生費に計上するにあたり、従業員慰安旅行が会社としての恒例行事となっている場合などは、一定の「福利厚生規程」を作成しておくほうが良いと思います。これは、法人保険や施設の利用などその他の福利厚生に係る項目と同様に、書面により労使間で取り決めをしておくことで、税務だけでなく労務トラブルも回避することができるからです。
福利厚生費にするための条件
従業員慰安旅行費用の全額を福利厚生費として費用計上するためには、以下の条件をクリアする必要があります。
旅行費用の会社負担分が少額であること
明確な規定はありませんが、会社負担分が10万円程度までとされています。この金額の範囲内であれば、100%会社負担でも大丈夫です。
旅行の内容・目的が社会通念上一般的なものであること
従業員全員が参加するゴルフ旅行や季節ごとに行う慰安旅行などは、たとえ格安でも社会通念上一般的ではないとされています。
旅行の期間が4泊5日以内であること
海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内(飛行機内での寝泊まりを含まず)とされています。
従業員全体を対象とし、参加割合が全体の50%以上であること
工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要。なお、成績優秀であった支店のみを慰安旅行の対象とするようなことは、その支店の参加者が50%以上であっても経済的利益の供与があったものと考えられます。
もちろん、経営者の主観的な判断で一部の従業員を参加させないなどということはNGです。
経費にならないその他の事例
- 上記の要件を満たしていても、自己都合による不参加者に金銭を支給する場合は、その金銭相当額が、不参加者を含む全員に給与支給があったものとされます。
- 役員だけで行う旅行・・・役員賞与となります。
- 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行・・・接待交際費となります。
- 実質的に私的旅行と認められる旅行・・・役員賞与または給与となります。
- 金銭との選択が可能な旅行・・・役員賞与または給与となります。
社員研修旅行の税務上の取り扱い
社員研修旅行は慰安旅行と異なり、会社の業務遂行條必要な研修や視察を行うためのものなので、原則その全額を旅費交通費や研修費として経費処理することができます。
ただし、研修旅行であったとしても、会社の業務に関係ない部分の費用については、参加者の給与として課税されます。
例えば、次のような研修旅行は、原則として、会社の業務を行うために直接必要なものとはなりません。
- 同業者団体の主催する、主に観光旅行を目的とした団体旅行
- 旅行のあっせん業者などが主催する団体旅行
- 観光渡航の許可をもらい海外で行う研修旅行
慰安旅行に不参加者がいる場合
このご時世ですから、プライベートまで上司・同僚と一緒に居たくないという社員や、業務の都合上、どうしても参加できない社員がいる場合もあります。このような場合に、不参加者に旅行代金相当額の金銭を支給してしまうと、給与課税の問題が生じます。
自己都合により参加しなかった社員に金銭を支給した場合
参加しなかった社員はもちろん、参加した社員全員に対し、不参加の社員に支給した金銭と同額の給与課税が行われます。
会社都合により参加しなかった社員に金銭を支給した場合
例えば、業者支払のために休めない経理職員や、お客様との重要な商談のために出張する社員など、会社都合で旅行に参加できなかった社員に対し金銭を支給した場合は 、その不参加者に対して、支給された金銭相当分の給与課税を行います。ただし、この場合は他の参加者に対する給与課税は生じません。
従業員の家族も参加できる慰安旅行の場合
従業員慰安旅行の内容が、社会通念上妥当なものであったとしても、従業員が自身の家族を伴って参加した場合には、「従業員本人分」+「従業員家族分」の旅行費用がその従業員の給与として課税されます。
ただし、家族を伴って参加した従業員がいたとしても、旅行そのものが一般的な慰安旅行であれば、従業員単身で参加した者についてまで給与課税されることはありません。
また、取引先の社員などを招待した場合、これに係る費用は全額接待交際費となります。
家族従業員だけの会社で行う慰安旅行の場合
ご夫婦だけで経営されている会社は山ほどありますが、このような会社が行う慰安旅行はどうでしょうか?
実は、法律の条文のどこにも、夫婦2人だけで行う慰安旅行費用は経費として認められないとは書かれていません。
この場合、論点となるのは「福利厚生」と「家族」をどう捉えるかということです。
通常、福利厚生費というのは従業員や役員に対し、広く一律に支給されるものであり、常識的な金額の範囲内で、一定の基準により支給されるものです。ここで言う一定の基準とは、先に述べた福利厚生規程のような書面のことです。
これについては、夫婦であったとしても、福利厚生規程を作成して常識の範囲内で行えば問題ないように思えます。
しかし配偶者の場合、従業員や役員の肩書があったとしても、同時に「家族」という側面が付随します。この部分が先に述べた「実質的に私的旅行と認められる旅行」に該当するため、法律に明確に規定してなかったとしても、おそらく税務調査等で否認されることになると思います。
実際の現場では
私が大手税理士法人に勤務していたとき、私が担当していた従業員50名ほどの会社様から従業員慰安旅行のご相談をいただきました。
このとき社長様にお願いしたのは、請求書や領収証はもちろん、旅行の全行程がわかる日程表と行程表、宿泊する旅館やアトラクションのパンフレット・団体バスの予約表、従業員に配布する「旅のしおり」の作成、旅行当日のスナップ写真、従業員向けの参加確認表、不参加者の不参加届、etc…
これらを準備してください、とお伝えしたときの社長様の微妙な表情を今でも覚えています。こんなものまで必要なの?と思われるかもしれませんが、税務調査を確実に乗り切るためには必ず必要になります。
ちなみに、この会社の税務調査の際、調査官に、「この旅のしおりはよくできていますね。私の息子の小学校のものより何倍も良いです」とお褒めをいただき、和やかな雰囲気で終えたのを覚えています。
いかがだったでしょうか。昨日のGPT-4の回答と比べて、どちらがわかりやすかったですか?
「GPT-4がわかりやすかった」と言われるとショックなので、その場合は内緒にしておいてくださいね。