2026年10月から!インボイス「50%控除」開始までに企業が実行すべき3つの対策

インボイス制度の「50%控除」が2026年10月より開始されます。

「実務(経理処理)はどう変わるのか?」「免税事業者との取引で、増える負担をどう交渉すればよいか?」といった不安はありませんか。

この記事では、迫りくる負担増に備え、企業が今すぐ実行すべき対策を「実務」「コスト」「将来」の3つの視点から具体的に解説していきます。

目次

負担が2.5倍に? 2026年10月から始まる「50%控除」が利益を圧迫する2つの理由

ポイント
  • 「80%控除」から「50%控除」への変更はいつ?
  • 控除割合50%で「納税負担」はどれだけ増えるか(80%控除時との比較)

インボイス制度の経過措置は、2026年(令和8年)10月1日から大きな転換点を迎えます。現在、免税事業者からの仕入れで認められている「80%控除」が「50%控除」へと引き下げられるためです。

これは、仕入税額控除が「できなくなる」割合が、現在の20%から50%へと2.5倍に増加することを意味します

この変更は、免税事業者と多くの取引がある企業にとって、見過ごすことのできない直接的な利益圧迫要因となり得ます。

この章では、まず変更スケジュールを正確に再確認し、次に具体的なシミュレーションを通じて、そのインパクトを明らかにします。

「80%控除」から「50%控除」への変更はいつ?

控除割合が80%から50%へ切り替わるタイミングは、2026年(令和8年)10月1日です

インボイス制度の経過措置では、免税事業者からの仕入れについて、仕入税額控除が可能な期間と割合が明確に定められています。

具体的には、以下のスケジュールとなっています。

  • 令和5年10月1日 ~ 令和8年9月30日 まで:仕入税額相当額の80%控除可能
  • 令和8年10月1日 ~ 令和11年9月30日 まで:仕入税額相当額の50%控除可能

この控除割合は、原則として「課税仕入れを行った日」で判断されます。例えば、役務提供の場合は「役務の全部が完了した日」です。

この切り替わりの日付を正確に把握し、取引のタイミングによって適用される控除割合が変わることを認識しておく必要があります。

控除割合50%で「納税負担」はどれだけ増えるか(80%控除時との比較)

控除割合が50%になると、企業が実質的に負担する消費税額(控除できない額)は、80%控除期間中と比較して2.5倍に増加します。

これは、仕入税額控除として認められない金額の割合が、現在の「20%(100%-80%)」から「50%(100%-50%)」へと大幅に上昇するためです。

具体例

免税事業者に、消費税10%の税込11,000円(本体10,000円、消費税1,000円)の業務を委託した場合

控除期間控除できる額 (A)実質負担額 (B)
80%控除期間
(~R8.9.30)
1,000円 × 80% = 800円1,000円-(A) = 200円
50%控除期間
(R8.10.1~)
1,000円 × 50% = 500円1,000円-(A) = 500円

このように、同じ11,000円の取引であっても、実質的なコスト(納税負担)が200円から500円へと跳ね上がります。免税事業者との取引が多ければ多いほど、この差額が積み重なり、企業の営業利益を直接圧迫する要因となるでしょう。

経理担当者が今すぐ確認すべき「50%控除」対応の3ステップ

ポイント
  1. 会計ソフトの「経過措置設定」を50%用に更新・確認する
  2. 「仕入税額控除50%」の仕訳・記帳方法の具体例
  3. 消費税申告書への記載(税額計算)の変更点と注意点

「50%控除」への移行は、単なる税率の変更ではなく、日々の経理実務に直接的な影響を及ぼします。

負担増という事実を認識した次に必要なのは、「ミスなく実務を遂行する」ための具体的な準備です。特に、会計ソフトの設定ミスや仕訳ルールの誤解は、申告漏れや過少申告に直結しかねません。

この章では、経理担当者が2026年10月1日を迎える前に「今すぐ」確認し、実行すべき実務的な対応を3つのステップに分けて解説します。

特に「短期前払費用」のような、控除割合の判断に迷う特殊なケースについても触れていきます。

会計ソフトの「経過措置設定」を50%用に更新・確認する

2026年10月1日の「50%控除」移行に向け、経理担当者が最優先で行うべきは、現在使用している会計ソフトの設定確認です。

80%控除への対応は済んでいても、50%控除への切り替えが自動で行われるとは限りません。手作業での税額計算は入力ミスや集計漏れの原因となるため、ソフト側で正しく制御する体制が求められます。

まずは、お使いの会計ソフトのベンダー(開発元)に、以下の点を確認してみましょう。

  1. 50%控除の経過措置に標準対応しているか
  2. 80%から50%への切り替えは自動か、手動設定が必要か
  3. 手動設定の場合、どのマスタ(税区分、勘定科目、取引先マスタなど)を変更すべきか

特に、クラウド型ソフトは自動更新される場合が多いですが、インストール型(オンプレミス型)のソフトは、アップデートプログラムの適用が必要になる可能性があります。制度開始の直前になって慌てないよう、遅くとも2026年の夏ごろまでにはベンダーへの確認と、必要な場合は社内テストを完了させておくのが賢明です。

「仕入税額控除50%」の仕訳・記帳方法の具体例

会計ソフトの設定と並行し、「50%控除」を適用した場合の具体的な仕訳(記帳方法)を再確認することが重要です。

控除割合が50%になるということは、消費税額のうち残り50%は「控除対象外」となり、その分は仕入本体の価格に含める必要があります。

具体例

免税事業者に税込11,000円(本体10,000円+消費税1,000円)を支払う場合(税抜経理)

  1. 80%控除期間(~R8.9.30)
    • 控除できる消費税:1,000円 × 80% = 800円
    • 控除できない額:200円
      【仕訳例】
      (借方)仕入高 10,200円 / (貸方)現金預金 11,000円
      (借方)仮払消費税 800円 /
  2. 50%控除期間(R8.10.1~)
    • 控除できる消費税:1,000円 × 50% = 500円
    • 控除できない額:500円
      【仕訳例】
      (借方)仕入高 10,500円 / (貸方)現金預金 11,000円
      (借方)仮払消費税 500円 /

実務上は、会計ソフトに「経過措置50%」といった専用の税区分コードを設定し、取引入力時にそれを選択することで、上記の仕訳が自動で計上されるようにするのが一般的です。

消費税申告書への記載(税額計算)の変更点と注意点

最終的な消費税の申告書作成においても注意が必要です。日々の仕訳が正しくても、申告時の集計や特定の取引の扱いで誤りがあれば、納税額に影響します。

特に、2026年10月1日をまたぐ取引は、控除割合の判定に迷うケースが出てくるでしょう。

注意すべき例として「短期前払費用」の扱いがあります。

通常、10月1日をまたぐサービス(例:保守契約)は、10月以降の分が50%控除の対象です。

しかし、法人税法上の「短期前払費用」(支払日から1年以内の役務提供)の適用を受ける取引では、2026年9月30日までに代金を支払った場合、弾力的な取扱いが可能とされています。

例えば、3月決算法人が2026年1月に、2026年1月~12月分の保守料金を支払い、短期前払費用として処理した場合を考えます。このケースでは、支払った日の属する課税期間(2026年3月期)の課税仕入れとして計上できるため、10月~12月の50%控除期間を含む保守料金の全額について、80%の控除割合の適用が認められます。

免税事業者との取引で損しないための2つの実践的アプローチ

ポイント
  1. 角を立てずに「価格交渉」を進めるためには?
  2. 取引継続か見直しか?「取引先リスト」の棚卸しと判断基準

「50%控除」による実質的な負担増(コスト増)は、社内の経理実務の整備だけでは解決できません。

自社の利益を守るためには、取引先である免税事業者との間で行われている既存の取引条件を見直す必要も出てきます

しかし、仕入先への価格交渉は、今後の関係性にも影響を与えかねないデリケートな問題です。

この章では、「負担は減らしたいが、取引先と揉めたくはない」という点に配慮し、円滑な交渉と、冷静な経営判断(取引継続の見極め)という2つの実践的なアプローチを具体的に解説します。

角を立てずに「価格交渉」を進めるためには?

価格交渉を円滑に進めるための最大のポイントは、感情論ではなく「客観的な事実」に基づいて対話することです。

まずは、免税事業者との取引において、50%控除移行後に自社がどれだけの実質負担増(=コスト増)を被るのか、具体的な金額を取引先ごとに正確に算出します。

その上で、「インボイス制度のルール変更により、双方に影響が出ている」という共通の課題として提示することが大切です。

交渉準備

  1. 現状把握:現在の取引額(税抜・税込)と、80%控除下での実質負担額(20%相当)を算出します。
  2. 影響額の算出:50%控除になった場合の実質負担額(50%相当)を算出し、その差額(=コストアップ額)を明確にします。
  3. 着地点の用意:「コストアップ額の全額を値下げてほしい」ではなく、「一部を価格に反映させてもらえないか」など、現実的な着地点を用意しておきます。

交渉例

「(影響額を提示した上で)2026年10月からは制度変更により、弊社が負担すべき消費税コストが〇〇円増加してしまいます。御社との取引は継続したいと考えておりますが、このコスト増について、例えば〇〇円(差額の半分など)を今後の取引価格へ反映させていただく形で、ご相談させていただくことは可能でしょうか。」

取引継続か見直しか?「取引先リスト」の棚卸しと判断基準

50%控除、さらに2029年の0%控除(控除廃止)を見据え、すべての免税事業者と画一的に取引を継続することが本当に妥当か、冷静に判断する時期に来ています。

まずは現在取引のある免税事業者をリストアップし、「自社への影響額」と「取引の重要度」の2軸で棚卸し(仕分け)を行うとよいでしょう。

【取引先の棚卸し 3つの分類】

  1. 影響額が小さく、取引継続が妥当な相手
    • 年間の取引額が少ない、または負担増を許容できる範囲の仕入先。無理な交渉はせず、良好な関係を維持します。
  2. 影響額が大きく、価格交渉を優先する相手
    • 取引額は大きいが、代替も可能(または交渉の余地がある)仕入先。前述のアプローチで価格交渉を試みます。
  3. 影響額が極めて大きく、取引見直しを検討する相手
    • 交渉の余地がなく、自社のコスト負担が許容限度を超える仕入先。この場合は、課税事業者である代替の取引先を探すことも選択肢に入ります。

全ての取引先を一律に扱うのではなく、影響額と重要度に応じて優先順位をつけ、アプローチを変えることが、現実的なコスト対策の鍵となります。

2029年(控除0%)も見据えた「取引方針」を決定する3つの判断基準

ポイント
  1. その取引先は「代替不可能」か?(業務への影響度)
  2. 相手(免税事業者)の「課税事業者転換」の可能性は?
  3. 自社の「コスト負担」の許容限度額はいくらか?

「50%控除」への対応は、あくまで中間地点に過ぎません。インボイス制度の経過措置は、2029年(令和11年)10月1日には「控除0%」、つまり免税事業者からの仕入れに係る消費税は全額が控除できなくなります

したがって、今行うべき対策は、「50%」の短期的な対応と同時に、「0%」になった時にも耐えられる中長期的な取引戦略を立てることです。

目先の対応に追われるだけでなく、将来の経営判断として「どの取引先と、どのような条件で付き合っていくのか」を決定する必要があります。

この章では、その最終判断を下すための3つの具体的な基準を提示します。

その取引先は「代替不可能」か?(業務への影響度)

中長期的な取引方針を決定する上で最も重要な基準の一つは、その取引先が「代替不可能」かどうかです。

将来、控除割合が0%(=消費税負担が全額)になったとしても、その仕入先でなければ自社の業務が成り立たないケースは存在します。例えば、特殊な技術を持つ職人、独自のノウハウを提供するコンサルタント、長年の信頼関係で結ばれたパートナーなどです。

これらの取引先は、単なる「コスト」としてではなく「戦略的パートナー」として位置づける必要があります

もし代替が利かないと判断した場合は、取引停止という選択肢は現実的ではありません。その際は、将来のコスト増(控除不可額)をあらかじめ自社の予算や価格設定に織り込むか、インボイス登録を依頼する以外の方法(例:本体価格での調整)で負担を分かち合う交渉を検討するのがよいでしょう。

相手(免税事業者)の「課税事業者転換」の可能性は?

次に考慮すべき基準は、相手先(免税事業者)が将来的に「課税事業者へ転換する可能性」です。

もし相手がインボイス発行事業者(課税事業者)に登録すれば、自社は適格なインボイスを受け取ることができ、仕入税額控除の問題(50%や0%)は根本的に解決します。

相手の売上が1,000万円を超えそうな場合や、他の主要取引先からも登録を強く要請されている場合、相手が転換に応じる可能性は高まります。

もちろん、独占禁止法や下請法の観点から、登録を一方的に強要することはできません。しかし、自社が「2029年以降は控除が0%になり、取引継続の判断が非常にシビアになる」という客観的な事実を丁寧に伝え、相手の意向や将来の方針を確認することは、中長期的な関係性を構築する上で重要な対話となります。

自社の「コスト負担」の許容限度額はいくらか?

最終的な判断基準は、自社が「いくらまでならコスト負担(控除不可額)を許容できるか」という経営的な限度額です。

「代替が可能」であり、かつ「相手の課税事業者転換も見込めない」場合、その取引を継続するか否かは、純粋なコストシミュレーションにかかっています

具体的には、2029年10月以降に控除が0%になった場合(例:消費税10万円の仕入れに対し、10万円全額が自社の負担増)でも、自社の利益率でそのコストを吸収できるのか、あるいは赤字になってしまうのかを試算します。

この「許容限度額」を超えてしまう取引については、継続は困難かもしれません。「50%控除」が適用される2029年9月30日までに、段階的に取引を縮小する、または代替となる課税事業者の開拓を本格化させるといった、具体的な行動計画へ移す決断が求められます。

まとめ

重要ポイントのまとめ
  1. 2026年10月1日より、免税事業者からの仕入れ控除割合が「80%」から「50%」に変更され、実質的な納税負担は2.5倍になります。
  2. まずは会計ソフトが「50%控除」に対応しているかを確認し、新しい仕訳ルールを確立することが急務です。
  3. 控除割合の判定が難しい「短期前払費用」などの取引は、弾力的な取扱いが可能とされているため、専門家と確認し申告ミスを防ぐ必要があります。
  4. 取引先ごとに「50%控除」によるコスト負担増を算出し、客観的なデータに基づいた価格交渉や取引リストの棚卸しを実行します。
  5. 2029年の「控除0%」時代も見据え、「代替可能性」や「コストの許容限度額」に基づき、中長期的な取引方針を決定することが最終ゴールです。

インボイス制度の「50%控除」への移行は、単なる実務変更ではなく、企業の利益に直結する重要な経営課題です。2026年10月1日に向けて、今から準備を進める必要があります。

「50%控除」への対応は、将来の「控除0%」時代を乗り切るための第一歩です。経理実務の整備と取引先との対話を両輪で進め、今すぐ具体的な行動を開始しましょう。

この記事を書いた人

京都市北区で「世良税理士事務所」を運営しています。
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