税務調査はAIでどう変わる?個人事業主が知るべき「アルゴリズムが見抜く」3つの事例と回避策

「税務署がAIを導入して調査が厳しくなった」という噂を聞き、不安を感じていませんか。実際、データ分析の高度化により追徴税額は増加傾向にあります。しかし、AIは感情を持たず、一定のルールで「データの異常値」を判定しているに過ぎません。仕組みさえ理解すれば、リスクはコントロール可能です。本記事では、AIを含めた最新の調査選定の傾向を紐解き、個人事業主が知るべき具体的な回避策を解説します。

目次

データが語るAI調査の脅威と個人事業主が抱えるリスク

ポイント
  • 国税庁のAI導入や効率化で「追徴税額」が高水準にある背景
  • KSKシステムとデータ連携で可視化される「お金の流れ」

国税庁は近年、デジタル技術を駆使した税務調査への転換を急ピッチで進めています。これまでの「勘と経験」に加え、蓄積されたデータを活用する「科学的な調査」へとシフトしました。

その結果、調査効率は向上し、私たち納税者を取り巻く環境は大きく変化しています。まずは、データが示す最新の実態と、その裏にあるシステムの仕組みを見ていきましょう。

国税庁のAI導入や効率化で「追徴税額」が高水準にある背景

国税庁の発表データを見ると、実地調査の件数自体は減少または横ばいの傾向にありますが、追徴税額は高水準で推移しています。例えば、所得税・消費税(個人)においては、「調査等」による追徴税額が過去最高とされています。また法人税等でも、直近10年で高水準を維持しています。

これは、AI活用を含む調査選定の高度化・効率化が進んだ結果であると考えられます。従来、調査官の経験則に依存していた選定プロセスは、データ分析によって精度が高まりました。膨大な申告データの中から、申告漏れのリスクが高い納税者をより的確に抽出できるようになったため、調査官が現場へ赴いた際の「ヒット率」向上に寄与しているとみられます。

KSKシステムとデータ連携で可視化される「お金の流れ」

この分析の中核を担うのが、国税総合管理(KSK)システムです。国税庁は、このシステムを用いて申告内容や関連情報を管理しています。

KSKシステム等は、申告情報や各種資料情報を集約し、突合・分析を通じて不一致や不自然な点を探索しているとされます。取引先が提出する支払調書や、個別に収集された各種データが統合的に分析されることで、申告されていない収入や資産の把握に繋がります。AIやデータ分析の活用により、これらの情報の突合やリスク検出は、今後も効率化・高度化の方向で進むと考えられます。

AIの目はここを見抜く!申告漏れが発覚した3つの事例

ポイント
  • 売上除外を見抜く「電子決済データ」等との比較分析
  • 架空経費を暴く「SNS投稿」と「生活実態」の矛盾
  • 相続税の申告漏れを検知する「資産移動」のパターン認識

国税庁がどのようにデータ異常を検知しているのか、その手法は日々進化しています。基本的には、申告された数値データと、国税庁が保有するその他のデータを突き合わせ、統計的な「乖離」を探すプロセスです。

ここでは、実務上よくある申告漏れのケースを例に挙げ、システムや調査官がどこに注目し、リスクを判定していると考えられるか、3つの事例で解説します。

売上除外を見抜く「電子決済データ」等との比較分析

飲食店や小売業で多い現金売上の計上漏れに対し、国税庁は様々なデータを活用して検証を行っています。特に近年のキャッシュレス化に伴い、電子決済にまつわるデータの重要性が増しています。

例えば、同業種の平均的な「電子決済と現金決済の比率」と、個別の申告データを比較する手法が想定されます。もし、ある店舗の申告データで電子決済の売上は平均的なのに、現金売上の比率だけが極端に低い場合、システム上で「統計的な異常値」として抽出される可能性があります。入手可能なデータと業界平均を比較することで、不自然な申告はより浮き彫りになりやすくなっています。

架空経費を暴く「SNS投稿」と「生活実態」の矛盾

「旅費交通費」や「交際費」に私的な支出を混ぜる手法も、Web上の公開情報との照合で発覚するケースがあり得ます。税務職員が調査の端緒としてSNSやブログを参照することは、既に手法の一つとして知られています。

例えば、SNSに「家族旅行」の写真を投稿しているにもかかわらず、同じ日程で会社の経費として遠隔地の飲食代や宿泊費が計上されていれば、明白な矛盾が生じます。現時点では調査官による確認が主ですが、将来的にはAI技術を用いて、こうした非構造化データ(テキストや画像)の分析やマッチングが自動化される可能性も指摘されています。

相続税の申告漏れを検知する「資産移動」のパターン認識

相続税の分野では、AI活用の本格化が公表されており、申告漏れリスクの分析や調査選定の高度化に用いられている可能性があります。

「被相続人が亡くなる直前に多額の現金が出金されている」「収入に見合わない不動産を親族が取得している」といった動きは、典型的な申告漏れの予兆です。相続税分野でも、過去の調査事績等を踏まえて申告漏れリスクを分析し、リスクをスコア化して調査選定の参考情報として提供する、といった運用が報じられています。

調査リスクを相対的に下げるための3つの申告テクニック

ポイント
  • 勘定科目の「雑費・その他」を減らし、データを明確化する
  • 前年比で大きく変動した数値に「適正な理由」を記載する
  • 書面添付制度を活用して申告書の信頼性を高める

調査選定がデータドリブンになるならば、対策の基本は「誤解を生まない、クリアな申告データ」を作ることです。

人間が見て分かりやすい申告書は、システムにとっても解析しやすいデータと言えます。ここでは、不要な疑いを持たれず、リスクを低く抑えるために有効とされる実務的なテクニックを紹介します。

勘定科目の「雑費・その他」を減らし、データを明確化する

「雑費」や「その他経費」という科目は、その内容が一見して分からないため、分析上は不透明な要素となります。多額の雑費計上は、経理の粗さを疑われる要因になりかねません。

調査リスクを下げるためには、可能な限り「雑費」を使わず、適切な勘定科目に振り分けることが重要です。どうしても該当する科目がない場合は、摘要欄に具体的な品名や用途(例:「〇〇プロジェクト用資料作成費」など)を詳細に入力しましょう。テキスト情報として具体的な内容が明記されていれば、調査官やシステムが内容を把握しやすくなり、不審な点がないことをアピールできます。

前年比で大きく変動した数値に「適正な理由」を記載する

売上が急激に下がったり、特定の経費が急増したりといった「数値の変動」は、調査選定において注目されやすいポイントです。しかし、正当な理由があるならば、それを積極的に開示すべきです。

申告書や内訳書の摘要欄、あるいは「特殊事情」を記載する欄を活用し、「店舗改装のため1ヶ月休業」「新規事業立ち上げに伴う広告費増」といった定性的な情報を入力してください。数値上の異常値に対して説明があれば、単なる入力ミスや不正ではなく「理由のある変動」として扱われ、調査選定のリスクを相対的に下げる効果が期待できます。

書面添付制度を活用して申告書の信頼性を高める

税理士が申告書の内容を保証する「書面添付制度」の活用も、AI時代の対策として注目されています。

書面添付がある場合、調査通知前に税理士等への意見聴取が行われる運用が示されています。意見聴取の段階で疑問点が解消されれば、結果として実地調査に至らないこともあり得ます。書面添付制度は、適正申告であることを事前に説明するための有効な手段と言えるでしょう。

もしAI選定で調査対象になっても慌てないための心構え

ポイント
  • 調査官が来る前に整理すべき書類とデータの準備
  • AIの指摘に反論できる「根拠」の作り方と専門家への相談

どれほど対策をしても、確率論で選定される以上、調査対象になる可能性をゼロにはできません。しかし、過度に恐れる必要はありません。AIやシステムの指摘はあくまで「データ上の推測」であり、事実そのものではないからです。

最終的に判断を下すのは人間の調査官です。デジタルデータだけでは見えない「現場の真実」を証明できれば、疑いを晴らすことは十分に可能です。万が一の調査通知に備え、慌てず対応するための準備と心構えを確認しましょう。

調査官が来る前に整理すべき書類とデータの準備

AIやシステムはデータを分析しますが、最終的に調査を行うのは人間です。調査官が実地に来た際、異常値や不整合と見られた部分について、合理的な説明ができれば問題ありません。

領収書、請求書、契約書、メールの履歴といった「一次情報(エビデンス)」を整理しておきましょう。特に、システムが注目しそうな「変動の大きい数値」や「交際費」については、誰と、何の目的で使ったかを即座に提示できるようにしておくことが重要です。推測を覆すのは、いつだってアナログな事実の積み重ねです。

AIの指摘に反論できる「根拠」の作り方と専門家への相談

「システム上、この数値には傾向と乖離があります」と調査官に言われたとしても、恐れる必要はありません。統計的な傾向が、必ずしも個別の事情に当てはまるとは限らないからです。

「この数値は異常値に見えるかもしれないが、業界特有の商習慣によるもの」「この時期に特異な支出があったのは、災害対応のため」といった、データには表れない個別の事情を論理的に説明すれば、疑義を解消することは十分に可能です。説明に自信がない場合は、税理士に相談し、理論武装を手伝ってもらうのも賢明な判断です。

まとめ

まとめ
  • AI活用やデータ分析の高度化は、税務調査の効率化と追徴税額を高水準に押し上げる一因となっている
  • 電子決済比率の乖離や、不自然な資産移動は、システムによって検知されやすくなっている
  • 将来的にはSNS等の非構造化データも含めた分析が進む可能性がある
  • 「雑費」を減らし、数値変動の理由を明記することで、調査選定のリスク低減が期待できる
  • システムの指摘はあくまで「推測」であり、一次情報(領収書等)に基づく合理的な反論で覆せる

税務調査におけるAI活用は、確かに脅威に感じるかもしれません。しかし、その本質は「魔法」ではなく、大量のデータを処理し、リスクを抽出する「支援ツール」です。

AIの判定ロジックを推測し、日々の経理処理で「異常値」と判定されないような丁寧なデータ作りを心がけること。これこそが、デジタル時代の最も有効な税務調査対策となります。

それでも不安が拭えない場合や、自社の決算数値がどう評価されるか気になる場合は、最新の調査事情に詳しい税理士へ相談し、人間の知恵によるオーダーメイドの対策を講じることをお勧めします。

この記事を書いた人

京都市北区で「世良税理士事務所」を運営しています。
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