所得税関係の届出書
所得税の確定申告書の提出期限は、その申告に係る年の翌年3月15日ですが、所得税に係る様々な届出書や申請書の提出期限も、この確定申告期限に合わせたものが多くあります。
- 所得税の青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
- 所得税のたな卸資産の評価方法の届出書
- 所得税の減価償却資産の償却方法の届出書
上記のような届出書や申請書は、適用を受けようとする年の3月15日までに提出しないといけないのですが、多くの方が、これを誤解されています。
例えば、令和5年の確定申告において、青色申告の適用を受けたり専従者給与の経費計上を認めてもらおうとするのであれば、令和5年分の確定申告書の提出期限(令和6年3月15日)ではなく、令和4年分の確定申告書の提出期限(令和5年3月15日)までに提出しなければならないということになります。
ただし、新規開業時や年の途中で専従者になった場合など、提出期限の例外もありますが、イメージとしては、「来年の所得税についてなにか変更しようとする場合は、今年分の確定申告書の提出期限までに対応する」と覚えておけば大丈夫だと思います。
消費税関係の届出書
一方個人消費税の確定申告期限はその年の翌年3月31日ですが、消費税の届出書は所得税のものとは異なり、その年の末日までに提出しないと翌年から適用できないものがあります。
- 消費税課税事業者選択(不適用)届出書
- 消費税簡易課税制度選択(不適用)届出書
消費税関係の届出書はタイトルがわかりにくいものが多く、思わず作成者のセンスを疑ってしまいますが、最初の届出書は免税事業者があえて自ら課税事業者になったり、免税事業者に戻る場合に提出する届出書です。これによく似た名称の届出書として、「消費税課税事業者届出書」というものがありますが、こちらは2年前の売上高が1千万円を超えたために自動的に課税事業者になる場合の届出書であり、課税事業者になることが判明した後速やかに提出すれば良いことになっています。
もう一つの届出書は消費税の計算方法について、より事務負担の少ない簡易的な計算を行う方法を選択する場合に提出する届出書であり、インボイス制度開始後は結構重要な届出書となるものです。
提出期限の重要性
所得税と消費税の各種届出書について提出期限が異なることを説明しましたが、このタイムラグが経営判断を行う際に大きく影響することにお気づきでしょうか?
「所得税の届出書はその年の確定申告期限までに提出すれば良い」ということは、確定申告書の内容、つまり売上や仕入、各種経費が全て出揃った状態で翌年の計画をすることができるので、「翌年から帳簿をきちんとつけて青色申告にする」「配偶者を専従者にして給与を支払う」「棚卸資産や固定資産の償却方法を有利な方法に変更する」といった重要な判断を確定した数字を元に行うことができるということになります。
一方個人消費税の届出書は、その年の12月31日までに提出しなければならないので、多くの個人事業主は今年の経理処理がきちんとできていない時期に翌年の消費税の計算方法などについて判断しなければならないことになります。
例えば消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」の2つがありますが、他の税金と比べて計算方法による税額の有利不利が極めて多く、この判断を誤ったために税理士に対して訴訟を起こされることが結構あります。
インボイス制度との関連は?
この記事を書いている時点でインボイス制度は始まっていますが、正直、これからどのような実務上の問題が発生するかはまったくの未知数です。しかし、インボイス制度にまつわる事務処理的な問題を解決する一つの手段として、簡易課税制度を選択するという方法があります。
簡易課税制度を選択できるのは、2年前の売上高が5千万円以下の事業者に限られますが、この制度は「売上げに係る消費税額」だけを計算し、それを元に納付すべき消費税額を計算するので、仕入先や購入した店からのインボイスを全く必要としない仕組みになっています。
先程、消費税の本則課税と簡易課税の計算方法には有利不利があると説明しましたが、税額の多寡ではなく、インボイス制度にまつわる事務の煩雑さを回避することを第一の目的とされるのであれば、簡易課税制度はかなり有益な選択となると思います。
ここまでの解説をお読み頂けたら、先程の簡易課税の届出期限がいかに重要かお分かりいただけると思います。インボイス制度が開始して3ヶ月が経過し、色々やってみてやっぱり来年から簡易課税にしたいなと思って所得税や消費税の確定申告書と一緒に届出書を提出すれば、簡易課税を適用できるのは令和7年からとなってしまいます。
くれぐれも届出書の提出期限にはご注意ください。