従業員が自転車の青切符を切られたら?会社の労務・会計・税務の実務対応

2026年4月1日から、16歳以上の自転車運転者に交通反則通告制度、いわゆる「青切符」が導入されます。配達・外回り・通勤など自転車を業務に使う会社にとって気になるのは、「従業員が違反して反則金を切られたら、会社はどう処理すればいいのか」という点ではないでしょうか。

実はこの問題、反則金をいくら払うかという話だけでは済みません。会社が肩代わりした場合でも、税務上の扱いは一律ではなく、業務中の違反なら損金不算入、業務外の従業員分なら給与課税、役員分なら役員給与として損金不算入となる可能性があります。さらに、給料から天引きしようとすれば労基法の壁があり、事故に発展すれば数千万円の賠償リスクも生じ得ます。税務・労務・法務の論点が複雑にからみ合う問題なのです。

この記事では、税理士・元銀行員の視点から、反則金の会計処理から給与天引きの適法性、社内規程の整備まで、会社が押さえるべき実務対応をパターン別に整理して解説します。

目次

2026年4月スタート!自転車の「青切符」制度とは

制度の概要
  • 2026年4月1日から、16歳以上の自転車運転者に交通反則通告制度(青切符)が適用される
  • 青切符は「罰金刑」ではなく、反則金を納めれば刑事手続に進まない仕組み
  • 対象は113種類の違反行為で、反則金は3,000円〜12,000円

2026年4月1日から、これまで自動車やバイクだけに適用されていた交通反則通告制度、いわゆる「青切符」が自転車にも導入されます。配達・訪問営業・通勤など、業務で自転車を使う会社にとっては、「従業員が違反したとき、会社はどう対応すべきか」が新たな実務課題になります。まずは制度の基本を正確に押さえておきましょう。

青切符と赤切符はまったく別物――反則金と刑事手続の違い

最初に押さえるべきは、青切符の「反則金」と赤切符による「刑事手続」はまったく性質が異なるということです。

この区別が重要な理由は、社内で「うちの従業員が罰金を受けた」と報告が上がったとき、青切符なのか赤切符なのかによって会社の対応が根本的に変わるからです。

具体的には、青切符は比較的軽微な交通違反を対象とし、反則金を期限内に納付すれば刑事手続には進まず、前科もつきません。一方、赤切符は重大・悪質な違反について刑事手続の対象となるもので、有罪となれば前科がつく可能性があります。

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青切符(反則金)赤切符(刑事手続)
対象軽微な113種類の反則行為重大・悪質な違反
手続反則金納付で完結刑事手続(取調べ→送致→起訴等)
前科つかない有罪なら前科あり
未納時刑事手続に移行しうる

したがって、青切符=罰金を受けた」と混同しないことが、正しい実務対応の第一歩になります。

(参考:警察庁・自転車ポータルサイト

対象は16歳以上・113種類の違反――主な反則金額一覧

青切符の対象となるのは、16歳以上の自転車運転者です。運転免許の有無は関係ありません。つまり、免許を持たない学生アルバイトやパート従業員であっても、業務中に自転車で違反すれば青切符の対象になります。

対象となる違反行為は113種類に及びますが、業務利用で特に注意が必要なものを整理すると次のとおりです。

違反行為反則金
携帯電話使用等(ながらスマホ)12,000円
遮断踏切立入り7,000円
信号無視6,000円
通行区分違反(逆走・歩道通行など)6,000円
指定場所一時不停止5,000円
無灯火5,000円
傘差し運転5,000円
イヤホン使用5,000円
ブレーキ不良自転車の運転5,000円
泥はね運転5,000円
並走3,000円
二人乗り3,000円

なお、すべての違反が直ちに青切符となるわけではありません。警察庁は、現場における指導警告を基本としつつ、悪質・危険な違反について反則告知を行う方針を示しています。とくに、ながらスマホや信号無視のように事故リスクの高い違反は重点対象とされており、業務中にこれらの違反で青切符を切られるケースは十分に想定しておく必要があります。

業務中に従業員が青切符を切られたら?会社がまず確認すべき3つの事実

ポイント
  • 「誰が」違反したかで、税務処理のルートが分岐する
  • 「いつ」違反したかで、会社負担時の損金算入可否が決まる
  • 「どう払うか」で、仕訳と本人への課税関係が変わる

従業員が青切符を切られたと報告を受けたとき、経営者や経理担当者が最初にやるべきことは「いくらだったか」の確認ではありません。税務処理と労務対応を正しく行うために確認すべき事実は3つあります。この3つを最初に押さえておかないと、後から処理をやり直すことになりかねません。

「誰が」違反したか――役員か従業員かで処理が変わる

まず確認すべきは、違反者が「役員」か「従業員」かという点です。

なぜこの区別が重要かというと、会社が反則金を肩代わりした場合の税務処理が、役員と従業員では大きく異なるからです。

たとえば、業務に関連しない違反の反則金を会社が負担したケースを考えてみましょう。従業員であれば、その金額は「給与」として扱われ、法人側では損金算入が可能です(ただし本人に給与所得として課税されます)。

一方、役員の場合は「臨時的な役員給与」となり、定期同額給与の要件を満たさないため法人側で損金不算入となります。そのうえ、役員本人にも給与所得として課税されるため、法人・個人の双方で税負担が発生する構造になります。法人が役員や使用人に課された交通反則金等を負担した場合、業務遂行関連なら損金不算入、それ以外は給与として扱うという整理は、法人税法55条5項と法人税基本通達9-5-12に沿うものです。

つまり、同じ金額の反則金でも、違反者が役員か従業員かで会社の税負担は異なることになります。

「いつ」違反したか――業務中か業務外かの線引き

次に確認すべきは、その違反が「業務中」に起きたのか「業務外(通勤中・私用中)」に起きたのかです。

この区別が税務処理に直結する理由は、法人税基本通達9-5-12にあります。会社が反則金を負担した場合、その違反が業務遂行に関連する行為に対して課されたものであるときは損金不算入(ただし本人への給与課税はなし)、業務に関連しないものであるときはその役員・使用人に対する給与として取り扱うとされています。

実務で判断に迷いやすいのは、たとえば「営業先への移動中」は業務中として明確ですが、「昼休みに私用で自転車に乗っていた」「会社の自転車で帰宅途中だった」といったケースではグレーになり得ます。後日の税務調査で説明できるよう、違反の発生日時・場所・業務との関連性を記録に残す仕組みを作っておくことが重要です。

「どう払うか」――本人負担・会社立替え・会社肩代わりの3択

3つ目は、反則金を「誰の財布から、最終的に誰が負担するか」の確認です。

選択肢は大きく3つに分かれます。

  1. 本人が自分で払う
    ――会社の経理処理は原則不要。最もシンプルな対応です。
  2. 会社がいったん立て替え、後日本人から回収する
    ――会社は「立替金」または「未収入金」で計上し、回収時に精算します。損益には影響しません。ただし、立替後に回収しない場合は、実質的な会社負担として給与課税等の問題が生じ得るため、立替えから回収までの期限と方法を明確にしておく必要があります。
  3. 会社が肩代わりし、本人からは回収しない
    ――この場合に税務上の問題が集中します。業務中の違反なら損金不算入として別表四で加算、業務外の違反なら給与課税と、処理が複雑に分岐します。

この3つの選択をあいまいにしたまま支払いだけ先行してしまうと、後から「この支出は何に該当するのか」が分からなくなります。支払い前に方針を決め、起案書や稟議で記録に残すのが実務上の鉄則です。

会社が反則金を負担したときの会計・税務処理を5つのパターンで解説

ポイント
  • 「誰が・いつ・どう払うか」の組み合わせで、仕訳と税務処理は5パターンに分かれる
  • 業務中の違反でも損金にはならない――法人税法55条と基本通達9-5-12が根拠
  • 役員の業務外違反を会社が負担すると、法人・個人の双方で税負担が発生する

「結局、うちのケースではどう処理すればいいの?」――これが経理担当者の最大の疑問でしょう。ここでは、前章で整理した3つの事実(誰が・いつ・どう払うか)を組み合わせ、実務で発生しうる5つのパターンを解説します。

パターン別の仕訳と法人税申告書(別表四)の調整方法

まず結論として、以下の早見表をご確認ください。

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パターン具体例仕訳(借方)法人税上の取扱い本人への課税
①本人が自己負担従業員が自分の財布から納付会社の経理処理なし
②会社が立替え→回収会社が一時的に支払い、後日本人から精算立替金/現金損益に影響なしなし
③会社が負担(業務中)配達中の信号無視で青切符、会社が肩代わり租税公課/現金損金不算入(別表四で加算・社外流出)なし
④会社が負担(業務外・従業員)通勤中の違反を会社が負担給与/現金損金算入(従業員給与)給与所得として源泉徴収
⑤会社が負担(業務外・役員)社長が休日に違反、会社が負担役員給与/現金損金不算入(臨時的役員給与)給与所得として源泉徴収

この表で注目すべきは、パターン③(業務中の違反・会社負担)です。「業務で使わせている自転車の違反だから、当然経費になるだろう」と考えがちですが、法人税法第55条第5項および法人税基本通達9-5-12により、業務に関連する交通反則金であっても損金には算入できません

会計上は「租税公課」として費用計上しますが、法人税の確定申告時に別表四(所得の金額の計算に関する明細書)の加算欄に「損金計上罰金等」として加算調整する必要があります。

なお、反則金そのものは損金不算入ですが、一般に、反則金そのものとは別に生じたレッカー代、修理費、損害賠償金等は、制裁金そのものとは区別して扱われます。ただし、故意・重大な過失の有無や事案の性質に応じて判断が分かれ得るため、個別事情の確認は必要です。個人所得税の取扱いでは、業務に関連して生じた損害賠償金等について、故意または重大な過失がない場合に必要経費となり得ることが国税庁により示されています。

(参考:国税庁・法人税基本通達9-5-12)

役員の違反を会社が払うと「ダブル課税」になる理由

特に注意が必要なのが、パターン⑤(業務外の違反・役員)です。

このパターンが厄介な理由は、法人側・個人側の両方で税負担が発生する構造にあります。

法人側では、業務に関連しない役員の反則金を会社が負担した場合、それは臨時的な役員給与として扱われます。役員給与が法人税の損金に算入されるには、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかの要件を満たす必要がありますが、突発的に発生する反則金の肩代わりはどの要件にも該当しません。結果として法人側で損金不算入になります。

一方、役員個人の側では、会社が自分の代わりに反則金を負担してくれたわけですから、その金額は給与所得として所得税・住民税の課税対象になります。

つまり、たとえば6,000円の反則金を会社が肩代わりした場合、法人税の計算上は6,000円分の課税所得が増え、さらに役員個人にも6,000円の給与所得が上乗せされる。同じ6,000円に対して法人と個人の双方で税金がかかる――これが実務上いわれる「ダブル課税」の構造です。

金額自体は小さくても、こうした処理を繰り返していると税務調査で「役員に対する経済的利益の供与」として問題視されるリスクがあります。役員の私的な違反については、原則として本人負担とするルールを社内で明確にしておくのが最善の対策です。

個人事業主が払った場合の処理

法人の話が続きましたが、個人事業主の場合も押さえておきましょう。

結論として、個人事業主自身が交通反則金を支払った場合、たとえ業務中の違反であっても所得税法上、必要経費には算入できません。国税庁も、交通反則金は必要経費にならないと明示しています。

理由は明確で、罰金・科料・過料と同様に、反則金は法令違反に対する制裁としての性質を持つため、税法はこれを経費として認めていないのです。

事業用の口座や現金から反則金を支払った場合は、「事業主貸」の勘定科目で処理します。租税公課として計上してしまうと、確定申告時に修正が必要になりますので注意してください。

一方、個人事業主が雇っている従業員の業務中の違反を事業主が負担した場合は、その違反が業務遂行に関連して生じたものであれば、事業主本人の反則金とは異なり、直ちに事業主個人の家事費になるわけではありません。ただし、給与課税の要否や必要経費算入の可否は、会社が負担した場合と同様に「業務関連性」と「最終的に誰が負担するか」によって結論が分かれるため、一律に給与処理と断定するのは避けたほうが安全です。

「給料から天引きすればいい」が危ない理由――労基法24条の壁

ポイント
  • 賃金からの控除には労基法24条の「全額払いの原則」が立ちはだかる
  • 法令で認められたもの以外を控除するには、労使協定(24協定)の締結が必要になる
  • 労使協定だけでなく、就業規則・個別同意などの根拠整備も重要

「違反したのは本人なんだから、給料から引けばいいだろう」――経営者としてはごく自然な発想かもしれません。しかし、この処理には労働基準法の大きな壁があります。税務処理が正しくても、給与天引きの手順を誤ると労基法違反になるリスクがある点は、意外と見落とされがちです。

賃金全額払いの原則と労使協定(24協定)の必要性

結論から言えば、就業規則の定めも、必要な労使協定等もないまま、反則金を給与から差し引くことはできません

その根拠は、労働基準法第24条第1項の「賃金全額払いの原則」にあります。この規定は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないと定めており、法令で認められた控除(所得税の源泉徴収、社会保険料など)以外の控除は、原則として禁止されています。

法令で認められたもの以外を控除するには、事業場の過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)との書面による労使協定を締結する必要があります。これは労基法24条第1項ただし書に基づくものです。

さらに、賃金控除は、労使協定を結べば何でも自由にできるわけではありません。実務上は、控除項目の合理性や明確性が求められます。交通反則金の給与控除について24協定に含める場合は、「会社が立て替えた交通反則金の返済」といった形で控除項目を具体的に明記しておくことが重要です。

労使協定だけでなく、就業規則・個別同意などの根拠整備も重要

労使協定を締結すれば安心、とも言い切れません。労使協定を締結しただけで直ちに万全とは言えず、就業規則・労働協約・個別同意など、賃金控除を基礎づける別途の根拠も問題となり得ます

この点については、京都地方裁判所令和5年1月26日判決(住友生命保険事件)が参考になります。この判決では、労使協定だけでは当然に足りず、就業規則・労働契約上の根拠や、少なくとも対象労働者の同意の有無が問題となることが示されています。

実務的には、以下の3点をセットで整備しておくことが必要です。

  1. 就業規則に控除の根拠規定を明記する(例:「会社が立替えた交通反則金は、賃金から控除することができる」)
  2. 労使協定(24協定)を締結し、控除項目に交通反則金の立替返済を含める
  3. 本人の個別同意を書面で取得する(任意の同意であることが重要)

なお、24協定は36協定とは異なり労働基準監督署への届出は通常不要ですが、協定の有効期間や見直し時期は、その定め方に応じて管理する必要があります。締結した協定書は紛失しないよう確実に保管してください。

ここで強調しておきたいのは、上記の手順は「会社が立て替えた反則金を回収するための控除」についてのものだということです。違反に対するペナルティとして反則金相当額を「減給処分」するのであれば、それは労基法第91条(減給の制裁)の制限を受け、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないなど、別のルールが適用されます。立替金の回収と懲戒処分としての減給は、法的な枠組みがまったく異なる点にも注意が必要です。

見落としがちな「使用者責任」――自転車事故で会社が数千万円の賠償リスク

ポイント
  • 業務中の自転車事故では、民法715条の使用者責任により会社も損害賠償を負う可能性がある
  • 条文上は免責規定があるが、実務上そのハードルは高い
  • 自転車通勤と業務利用の線引きが、会社の責任範囲を左右する

ここまで反則金の税務・労務処理を中心に解説してきましたが、会社にとって最も大きなリスクは、実は反則金の数千円ではありません。交通違反をするような危険な運転の延長線上にある「事故」が起きたとき、会社が数千万円単位の損害賠償を負う可能性があるという点です。青切符の導入をきっかけに、この点も経営課題として認識しておく必要があります。

民法715条の使用者責任が認められる条件

結論から申し上げると、従業員が業務中に自転車で事故を起こし、第三者にケガを負わせた場合、会社は民法715条の使用者責任により、従業員とともに損害賠償責任を負う可能性が高いと考えてください。民法715条は、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。

使用者責任が成立するには、①従業員が不法行為責任を負うこと、②使用関係があること、③事業の執行について行われたこと、の要件を満たす必要がありますが、業務中の自転車移動であれば通常これらの要件を満たします。

条文上は「使用者が被用者の選任・監督について相当の注意をしたとき」は免責されると規定されていますが、裁判実務上、この免責が認められるハードルは高いと考えられます。つまり、「安全運転するよう言ってありました」程度では会社は責任を免れにくいのが現実です。

自転車事故の高額賠償事例としては、神戸地裁平成25年7月4日判決が広く知られています。小学生が自転車で歩行者と衝突し、被害者が意識不明となった事案で、約9,500万円の賠償が問題となりました。この事案は個人の事例ですが、自転車事故が極めて高額な損害賠償に発展し得ることを示す代表例として今なお参照されます。

自転車通勤と業務利用で会社の責任範囲はどう変わるか

では、業務中ではなく通勤中の自転車事故についてはどうでしょうか。

一般に、通勤中の事故は業務執行性が否定されやすい一方で、当該自転車が日常的に業務にも利用され、使用者がそれを容認していたような事情があると、結論が変わる可能性があります。したがって、通勤と業務利用の区分が曖昧な運用は避けた方が安全です。

たとえば、通勤用の自転車でそのまま取引先への外回りに出るケースや、昼休みに銀行や郵便局への用足しに使うケースなど、通勤と業務利用の境界があいまいな運用をしていると、事故発生時に会社の責任が争点になりやすくなります。

こうしたリスクを管理するために重要なのが、次章で解説する自転車利用規程の策定と保険の整備です。

いまから整備しておきたい社内ルール5つ

ポイント
  • 2026年4月の施行前に、自転車の業務利用・通勤利用に関するルールを整備すべき
  • 保険加入の義務化は多くの自治体で条例化済み
  • 反則金の負担ルール、賃金控除のルール、安全教育を一体で整備するのが実務的

ここまで見てきたとおり、自転車の青切符導入に伴うリスクは「反則金の会計処理」だけにとどまりません。税務・労務・法的責任のすべてに波及する問題です。2026年4月の施行前に、以下の5つを社内で整備しておくことをお勧めします。

自転車利用規程の策定と届出制

まず取り組むべきは、自転車の業務利用・通勤利用に関する社内規程を策定することです。

自動車については社用車管理規程やマイカー通勤規程を整備している会社が多いですが、自転車については「暗黙の了解」で済ませているケースが少なくありません。しかし、青切符制度の導入により自転車にも反則金が科されるようになった以上、自動車と同様のルール整備が必要になります。

規程に盛り込むべき主な項目は以下のとおりです。

規程に盛り込むべき主な項目
  • 業務利用の範囲の明確化:どのような業務で自転車の使用を認めるか。許可制とするか届出制とするか
  • 通勤利用の届出義務:自転車通勤を行う場合は事前に届出を義務づけ、通勤経路を把握する
  • 業務利用と通勤利用の区分:同じ自転車を業務にも通勤にも使うことを認めるか否か
  • 安全装備の基準:ヘルメットの着用、ライト・反射材の装着、ブレーキ等の整備基準

ポイントは、許可・届出の手続を明確にすることで、「会社の管理下で自転車利用が行われている」という事実を可視化することです。何のルールもないまま自転車を使わせていた場合、事故や違反が発生したときに「会社として管理していなかった」という主張は通りにくくなります。

自転車保険の加入義務化と証明書の管理

次に整備すべきは、自転車保険への加入を従業員に義務づける仕組みです。

現在、東京都・大阪府・京都府・兵庫県をはじめ、全国の多くの自治体で自転車損害賠償保険等への加入が条例で義務化されています。条例違反に直ちに罰則が付くとは限りませんが、保険未加入のまま事故が発生すれば、従業員個人と会社の双方に重大な経済的負担が生じるおそれがあります。

実務的には、次のような対応が考えられます。

ポイント
  • 自転車通勤の許可申請時に、保険加入証明の提出を義務づける
  • 業務用自転車については、会社として保険加入を検討する
  • 個人賠償責任保険の特約でカバーされている場合は、その確認資料を提出させる
  • 保険の有効期限を管理し、更新時に再提出を求める

保険加入を従業員に求めるだけでなく、加入状況を会社が定期的に確認・管理する体制を作っておくことが重要です。

反則金の負担ルール・賃金控除の整備・安全教育の仕組みづくり

最後に、反則金の発生を前提とした経理・労務上のルール整備と、そもそも違反を減らすための安全教育の仕組を一体で整備しましょう。

反則金の負担ルールを就業規則に明記する

「業務中・業務外を問わず、交通反則金は原則として本人負担とする」「会社が立替えた場合の回収方法は別途定める。給与控除による場合は、労使協定その他必要な手続を経る」など、負担と回収のルールを就業規則に明記します。誰が負担するかで税務処理が大きく変わるため、発生してから判断するのではなく、事前にルールを決めておくことが実務トラブルの予防になります。

賃金控除に関する労使協定を整備する

先述のとおり、反則金の立替金を給与から控除するには、労使協定その他の法的根拠整備が必要です。控除項目に「会社が立替えた交通反則金の返済」を含め、協定内容や有効期間の定めに応じて定期的な見直しを行うのが安全です。

安全運転教育を定期的に実施し、記録を残す

青切符の導入により、自転車にも自動車と同様の取締りが行われる時代に入ります。しかし、自転車には運転免許制度がないため、道路交通法のルールを体系的に学ぶ機会が乏しいのが実情です。会社として、少なくとも以下の内容を盛り込んだ安全教育を年1回以上実施し、実施日・内容・参加者を記録として保管しておくことをお勧めします。

安全教育の実施
  • 青切符制度の概要と主な違反行為・反則金額
  • 自転車の基本的な交通ルール(車道左側通行、信号遵守、一時停止、ながらスマホ禁止等)
  • 事故発生時の報告手順と会社への連絡フロー
  • 反則金の負担ルール(就業規則の該当条項の確認)

この教育記録は、万が一事故が発生した場合に「会社として安全管理に取り組んでいた」ことの資料にもなります。使用者責任を当然に免れるわけではありませんが、裁判や示談交渉において会社の管理体制を示す材料となり得ます。

まとめ――「たかが自転車」で済まない時代の会社の備え

重要ポイント
  1. 青切符は「罰金刑」ではない。 反則金を期限内に納めれば刑事手続に進まず前科もつかない。ただし未納なら刑事手続に移行する可能性がある。社内報告の際に「罰金」と混同しないことが正しい対応の出発点
  2. 会社が反則金を負担しても、業務中の違反なら損金にはならない。 法人税法55条・基本通達9-5-12により、業務に関連する交通反則金は損金不算入。会計上は租税公課で計上し、別表四で加算調整が必要
  3. 役員の業務外違反を会社が肩代わりすると、法人側・個人側の双方で税負担が生じる。 法人側は臨時的な役員給与として損金不算入、役員個人にも給与所得として課税される
  4. 給与天引きには労基法24条の壁がある。 法令で定められた控除以外を賃金から差し引くには、労使協定等の整備と、就業規則・個別同意などの根拠の確認が必要。協定も規定もないまま一方的に差し引けば労基法上の問題が生じうる
  5. 最大のリスクは反則金ではなく、事故時の使用者責任。 業務中の自転車事故で会社は民法715条により高額の損害賠償を負う可能性がある。自転車保険の加入管理と利用規程の整備は経営課題として取り組むべき

2026年4月の施行が近づいています。まずは以下の3つから着手してください。

自転車利用の実態を把握する

自社で業務・通勤に自転車を使っている従業員が何人いるか、保険に加入しているかを確認しましょう。実態が把握できていなければ、規程も対策も作れません。

反則金の負担ルールを決め、就業規則等に反映する

「原則本人負担」「会社が立替えた場合の回収方法」「給与控除を行う場合の手続」など、方針を決めて就業規則や労使協定に反映します。

判断に迷ったら、税理士・社労士等の専門家に相談する

反則金の税務処理は「誰が・いつ・どう払うか」で結論が変わります。また、給与控除の適法性は労務管理とも密接に関わります。自己判断で処理して後から指摘を受けるより、事前に専門家に確認するほうが結果的にコストは小さく済みます。

※本記事は2026年3月17日時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。制度の運用や解釈は今後の通達・実務運用等により補足される可能性がありますので、具体的な処理については税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。青切符制度の施行日や制度概要は警察庁・政府広報の公表情報に基づいています。

この記事を書いた人

京都市北区で「世良税理士事務所」を運営しています。
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