税理士という仕事を長年やっていると、『期日』という言葉に異常に反応するようになります。
そりゃそうですよね。お客様の大事な申告書の期限を間違えてしまったら、1ミリも言い訳できない仕事ですから。
ところで、税理士が代行して提出する届出書のひとつに『事前確定届出給与に係る届出」というものがあります。内容については改めて説明する機会があると思いますが、今回注目したのは、その届出書に記載する『日付』についてです。
この書類は、会社の役員に対して賞与を支給する場合に必ず必要となる書類であり、当然金額が大きくなりますので、期日を間違えてしまうと、その会社の損益に多大な影響を及ぼしてしまいます。なので、期日等の日付については細心の注意を払うようにしておりますが、皆様は下記の例をご覧になって、正しい日付を答えることができるでしょうか?
決算日 令和1年8月31日
① 株主総会等の決議日 令和1年10月25日
② 職務執行開始日 令和1年10月26日
③ ①と②のいずれか早い日から1月(1ヶ月のこと)を経過する日
④ 職務執行期間開始の日の属する会計期間開始の日から4月(4ヶ月のこと)を経過する日
⑤ ③と④のいずれか早い日
⑤が事前確定届出給与の提出期限となるのですが、いかがですか?
①と②は問題ないですが、③でいきなり『???』となると思います。
焦らず落ち着いて読み込んでみると、『①と②のいずれか早い日』をまず確認し、そこから『1月を経過する日』を見つけるという大きな2つのブロックに別れていることに気づきます。
『①と②のいずれか早い日』については、単純に両者を比較すればわかりますので、この場合であれば、①の『令和1年10月25日』を選択します。
そしてその次、『1月を経過する日』とは一体いつなのか?
『経過する日』とは、いままさに現在進行形で『経過』『している』日を指します。つまり、『まだ過ぎ去ってはいない、過ぎ去らんとしているギリギリの日』を指します。この例では、令和1年11月24日が『経過する日』となります。
これによく似た表現で、『経過した日』というものがあります。これは、経過『してしまった日』を意味し、過ぎ去ったという『完了』の意味があります。もしもこの表現がされていたとしたら、上記の例は、令和1年11月25日が『経過した日』となります。
④については、職務執行期間が始まる日(令和1年10月26日)を含む会計期間(令和1年9月1日~令和2年8月31日)が開始する日(令和1年9月1日)から4ヶ月を『経過する日』なので、令和1年12月31日が『4月を経過する日』にあたります。
さて、ここまでが基本的な考え方なのですが、実は③の日付はこの届出書に関しては『間違い』です。
国税通則法第10条『期間の計算及び期限の特例』という法律があり、この例はそれに従わないといけません。どんな内容かというと、『株主総会等の決議日から1月を経過する日』の数え方は、初日(10/25)は考慮せず、その起算日(10/25を数えなかったのでその翌日の10/26のこと)の翌月の応当日(11/26)の前日(つまり『経過する日』である11/25)とする、という考え方です。
次に④について。もしも令和1年12月31日が期日となった場合、12/31は大晦日なので、当然税務署も閉庁しており、原則提出できません。税務署などの国の行政機関の休日は、『行政機関の休日に関する法律』で定められており、12月29日から翌年1月3日までは休日と定められているからです。
ではどうするのか?これについて、 同じく国税通則法第10条第2項で次のように規定されています。
『国税に関する法律に定める申告(中略)に関する期限(中略)が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもって期限とみなす。』
これにより、④の期日は『令和1年12月31日』ですが、提出等の期限は『令和2年1月6日』となります。
少し脱線しましたが、結論である⑤の日付は、『令和1年11月25日』が正解です。
今回は、皆様があまり意識されていない行政書類の『日付』について、少し深くお話してみましたが、わたしたち税理士がどれほど日付に注意を払っているか少しでもおわかりいただけたら嬉しいです。