「30万円未満の資産は全額経費にできる」——多くの中小企業経営者にとって、少額減価償却資産の特例はなじみのある節税策ではないでしょうか。
この特例について、令和8年度税制改正で制度創設以来初となる大きな見直しが行われました。取得価額の基準が40万円未満に引き上げられる一方、従業員数の要件は厳格化されるなど、単純に「枠が広がって嬉しい」だけでは済まない改正内容になっています。
本記事では、改正の3つのポイントを正確に整理したうえで、取得価額の判定で失敗しやすいケース、税務調査で否認されやすいパターン、そして融資への影響と対策など、実務上の論点を網羅的に解説していますので、設備投資の判断材料として、ぜひ最後までご覧ください。
少額減価償却資産の特例とは?制度の基本をおさらい
- 中小企業者等が対象の即時償却制度である
- 取得価額の全額をその年の経費にできる
- 青色申告・確定申告書への明細書添付が要件
- 年間合計300万円までの上限がある ✔ 通常の減価償却・一括償却とは明確に異なる制度
設備投資を行った年に、その費用を一括で経費にできる——中小企業や個人事業主にとって、資金繰りと節税の両面でメリットの大きい制度が「少額減価償却資産の特例」です。令和8年度税制改正で大きな見直しが行われたこの制度について、まずは基本的な仕組みを押さえておきましょう。
少額減価償却資産の特例の仕組みと対象者
少額減価償却資産の特例とは、中小企業者等が一定額未満の減価償却資産を取得した場合に、取得価額の全額をその事業年度の損金(個人事業主の場合は必要経費)に算入できる制度です。正式名称は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(租税特別措置法67条の5)といいます。
この制度は、中小企業の事務負担軽減と設備投資促進を目的として、平成15年度に創設されました。通常であれば数年に分けて費用化する減価償却資産を、購入した年に一括処理できるため、課税所得の圧縮による節税効果が期待できるわけです。
たとえば、35万円のパソコンを購入した場合、通常の減価償却では耐用年数4年に分けて毎年費用化しますが、本特例を使えば購入年度に35万円の全額を経費にできます。
ただし、適用を受けるには以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下等) |
| 手続 | 損金経理+確定申告書に明細書(別表16(7))を添付 |
| 年間上限 | 取得価額の合計300万円まで |
| 除外 | 適用除外事業者(前3事業年度の平均所得が15億円超)は対象外 |
(参考:国税庁タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」)
通常の減価償却・一括償却との違いを整理
「少額資産は経費にできる」とひと口に言っても、実は取得価額に応じて処理方法が異なります。ここを混同すると会計処理を誤る原因になるため、整理しておきましょう。
この違いが重要なのは、制度ごとに年間上限や償却資産税の取扱いが異なるためです。特に一括償却資産(20万円未満)は償却資産税の申告対象外となる一方、少額減価償却資産の特例は償却資産税の申告が必要という違いは、実務上見落とされがちなポイントになります。
| 取得価額 | 処理方法 | 償却方法 | 償却資産税の申告 |
|---|---|---|---|
| 10万円未満 | 少額減価償却資産(原則) | 取得時に全額経費 | 不要 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産 | 3年均等償却(1/3ずつ) | 不要 |
| 10万円以上40万円未満(改正後) | 少額減価償却資産の特例 | 取得時に全額経費 | 必要 |
| 40万円以上 | 通常の減価償却 | 耐用年数に応じて償却 | 必要 |
つまり、20万円未満の資産については「一括償却資産として3年均等償却を選び、償却資産税の申告を不要にする」という選択肢もあり得るわけです。制度間の使い分けは、節税額と事務負担のバランスで判断することが大切です。
【令和8年度税制改正】何がどう変わる?改正3つのポイント
- 取得価額の上限が30万円未満→40万円未満に拡大
- 従業員数の要件が500人以下→400人以下に厳格化
- 適用期限は令和11年3月31日まで3年延長
- 年間合計300万円の上限は変更なし
- 平成15年の制度創設以来、初めての金額基準の引上げ
令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」で、この特例に制度創設以来初となる大きな見直しが盛り込まれました。改正法案は令和8年2月20日に閣議決定・国会提出されており、原則として令和8年4月1日の施行が見込まれています(2026年3月時点では国会審議中)。今回の改正ポイントは、大きく3つです。
取得価額の上限が30万円未満から40万円未満に拡大
今回の改正で最も注目されているのが、即時償却の対象となる資産の取得価額基準の引上げです。
この見直しの背景には、平成15年の制度創設から20年以上にわたり金額基準が据え置かれてきた一方で、物価上昇やIT機器の高性能化によって実質的に特例の恩恵を受けにくくなっていた実態がありました。経済産業省の税制改正資料でも、物価動向や対象資産の価格上昇を踏まえた見直しと位置づけられています。
具体的には、これまで30万円未満だった基準が40万円未満に引き上げられるため、たとえば税抜35万円の高性能パソコンや複合機、業務用ソフトウェアなども即時償却の対象になります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 取得価額基準 | 30万円未満 | 40万円未満 |
経営者の目線で言えば、「30万円の壁」を意識して機能を妥協する必要がなくなるのは、実務上の大きなメリットといえるでしょう。
従業員数の要件が500人以下から400人以下に厳格化
取得価額基準の拡大と引き換えに、対象法人の範囲が一部縮小されている点にも注意が必要です。
従業員数の要件が厳格化された理由としては、より規模の小さい企業に支援を集中させる政策意図があるとされています。対象の金額基準を広げる代わりに、一定規模以上の企業を除外することで制度全体のバランスを取った形です。
改正後は、常時使用する従業員数が400人を超える法人は適用対象外となります。現行の500人以下から引き下げられるため、従業員数が401人~500人の企業は、この改正により特例が使えなくなる可能性があります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 従業員数要件 | 500人以下 | 400人以下 |
| 特定法人(組合等) | 300人以下 | 300人以下(変更なし) |
ここで注意すべきは、「常時使用する従業員」にはパートやアルバイトも含まれるという点です。役員は除かれますが、非正規雇用も含めて400人を超えるかどうかで判定されるため、繁忙期にスタッフを増員する企業は自社の人数を改めて確認しておく必要があります。
適用期限は令和11年3月31日まで3年延長
本特例は租税特別措置法に基づく時限措置であり、これまでも2~3年ごとに延長が繰り返されてきました。
今回3年延長となった背景には、中小企業の設備投資環境がいまだ厳しい状況にあることや、物価上昇への対応が継続的に必要であるとの判断があります。ただし、「恒久化」ではなく引き続き時限措置として延長された点は押さえておく必要があります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 適用期限 | 令和8年3月31日 | 令和11年3月31日 |
なお、この制度は創設以来一貫して延長され続けていますが、将来的に延長されない可能性もゼロではありません。「あって当たり前」と思い込まず、適用期限を意識した設備投資計画を立てることが賢明です。
適用開始はいつから?施行日前後の実務対応
- 改正法の施行日は令和8年4月1日の見込み
- 施行日前の取得は旧基準(30万円未満)が適用される
- 事業年度の途中に令和8年4月1日を含む法人は、同一事業年度内で基準が混在する
令和8年4月1日施行の見込みと経過措置の考え方
改正法案は令和8年2月20日に国会に提出されており、原則として令和8年4月1日の施行が予定されています。つまり、新しい取得価額基準(40万円未満)が適用されるのは、施行日以後に取得した資産からとなります。
この点で注意が必要なのは、令和8年3月31日以前に取得した資産には旧基準(30万円未満)が適用されるということです。「改正が決まったから」といって、施行日前に購入した35万円の資産に新基準を適用することはできません。
2026年3月時点では改正法案は国会審議中です。正式な施行日は法案成立後に確定しますので、最新情報をご確認ください。
事業年度の途中に令和8年4月1日を含む法人は要注意——同一事業年度で基準が混在するケース
3月決算法人については、令和7年4月1日から令和8年3月31日までの事業年度には旧基準(30万円未満)が適用され、令和8年4月1日以後に開始する翌事業年度から新基準(40万円未満)が適用されます。つまり、3月決算法人では同一事業年度内で新旧基準が混在することはありません。
同一事業年度内で新旧基準が混在し得るのは、12月決算法人のように、事業年度の途中に令和8年4月1日を含む法人です。たとえば、12月決算法人(令和8年1月~12月)であれば、3月までの取得分は旧基準、4月以降の取得分は新基準となり、資産ごとの取得日に応じた個別管理が必要です。該当する決算期の法人は、会計ソフトの設定変更も含め早めに準備しておきましょう。
見落としがちな落とし穴——取得価額の判定で失敗しないために
- 取得価額には本体価格以外の付随費用も含まれる
- 消費税の経理方式(税込・税抜)で判定金額が変わる
- セット購入品は「一体資産」と判定されるリスクがある
- 40万円未満かどうかのボーダーライン判定が今後増える
- 請求書・見積書の記載方法が税務調査の重要な証拠になる
取得価額の基準が40万円未満に拡大されたことで、対象となる資産の幅は確実に広がります。しかし、40万円未満かどうかの判定を誤れば、税務調査で否認されるリスクも同時に高まります。ここでは、実務で特に間違いやすい3つのポイントを解説します。
据付費・設定費用は取得価額に含まれる
結論から言えば、減価償却資産の「取得価額」には、購入代価だけでなく、その資産を事業の用に供するために直接要した費用もすべて含まれます。
これは法人税法施行令第54条に明確に規定されており、購入代価に加えて引取運賃、据付費、試運転費なども取得価額を構成するためです。
たとえば、税抜38万円の業務用機器を購入し、設置費用として3万円がかかった場合、取得価額は合計41万円となり、40万円未満の要件を満たしません。「本体価格は40万円未満だから大丈夫」と思い込んでいると、適用できないケースが生じます。
実務上のポイントとしては、設備を購入する際に「本体価格」と「付随費用」を事前に分けて把握し、合計額で40万円未満に収まるかどうかを確認する習慣をつけることが重要です。
消費税の経理方式(税込・税抜)で結果が変わる
取得価額が40万円未満かどうかの判定は、自社が採用している消費税の経理方式によって金額が変わります。この点は、改正後のボーダーライン付近で特に影響が大きくなるため注意が必要です。
税込経理方式を採用している場合は消費税込みの金額で判定し、税抜経理方式であれば税抜金額で判定するというルールが定められています(国税庁タックスアンサーNo.5403参照)。
【販売価格407,000円のパソコンの場合】
| 経理方式 | 判定金額(税率10%) | 40万円未満 | 特例の適用 |
|---|---|---|---|
| 税抜経理 | 370,000円 | ○ | 適用可 |
| 税込経理 | 407,000円 | × | 適用不可 |
同じ資産であっても、経理方式の違いで特例の適用可否が分かれてしまうわけです。特に免税事業者は税込経理が原則となるため、課税事業者に比べて判定上不利になるケースがあることも押さえておきましょう。
セット購入品は「一体資産」とみなされるリスク
複数の機器をまとめて購入した場合に、個々の単価で判定してよいのか、それともセット全体を「一体の資産」とみなすべきかは、税務調査でも頻繁に論点となるテーマです。
税務上、「通常1単位として取引されるもの」が取得価額の判定単位とされています(法人税基本通達 7-1-11)。つまり、単体では機能しないものをセットで購入した場合、そのセット全体が1つの資産と判断される可能性があるのです。
| 購入パターン | 判定単位 | 特例適用の可否 |
|---|---|---|
| 応接セット(テーブル+ソファ一式) | セット全体 | セット合計で判定 |
| パソコン5台(個別に機能する) | 1台ごと | 1台あたりの金額で判定 |
| PC+専用モニター(セットで機能) | ケースバイケース | 契約・請求書の記載方法が鍵 |
判断に迷うケースでは、見積書や請求書で個々の資産が独立して機能する旨を明確にしておくことが、税務調査対策としても有効です。
年間300万円の上限は据え置き——改正後の投資計画の立て方
取得価額の基準が40万円未満に拡大された一方で、年間の合計上限額は300万円のまま据え置かれています。
このため、改正後は「年間の設備投資計画を事前に立て、上限300万円の枠をどの資産に優先配分するか」という視点がより重要になってきます。
たとえば、期首に比較的高額な資産(35~39万円)を即時償却で処理し、年度後半に購入する小額の備品は一括償却資産(20万円未満・3年均等償却)として処理するなど、制度を組み合わせた計画的な活用が節税効果を最大化するコツです。
なお、事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割り、その事業年度の月数を掛けた金額が上限となります。新設法人や決算期変更を行った法人は、この按分計算にも注意してください。
即時償却しても償却資産税の申告は必要——固定資産税との関係
- 法人税・所得税で即時償却しても、償却資産税(固定資産税の一種)の申告義務は残る
- 却資産税の免税点が150万円から180万円に引き上げられる予定
- 免税点以下であれば納税は不要だが、申告義務の扱いは自治体に確認が必要
- 少額減価償却資産の特例と償却資産税は「別の税金・別のルール」
法人税や所得税で即時償却ができたとしても、地方税である償却資産税(固定資産税の一種)の世界では全く別の取扱いになる——この点は非常に誤解が多いポイントです。
即時償却と償却資産税の申告義務は別問題
「全額経費にしたのだから、固定資産税の申告も不要だろう」と考える方は少なくありません。しかし、これは誤りです。
少額減価償却資産の特例はあくまで法人税・所得税の特例措置であり、地方税である償却資産税には適用されないためです。償却資産税の課税標準は、取得価額から地方税法に基づく減価償却を行った後の金額で計算されるため、法人税上の即時償却とは計算のベースが異なります。
実務上は、即時償却した資産も固定資産台帳で個別管理を続け、毎年の償却資産税の申告に漏れなく反映させる体制を整えておくことが不可欠です。
免税点の引上げ(150万円→180万円)との合わせ技で考える
令和8年度税制改正では、償却資産税の免税点も現行の150万円から180万円に引き上げられる予定です(令和9年度以後の年度分から適用見込み)。
これは、小規模事業者にとっては朗報です。保有する償却資産の課税標準額の合計が180万円未満であれば、償却資産税は課税されません。特にパソコンや少額の業務機器が中心の事業者であれば、免税点以下に収まる可能性が高くなります。
ただし、免税点はあくまで「課税されるかどうか」の基準であり、申告義務が免除されるかどうかは自治体によって取扱いが異なる場合があります。管轄の市区町村に確認しておくことをおすすめします。
| 判断基準 | 少額減価償却資産の特例 | 一括償却資産 |
|---|---|---|
| 法人税・所得税の効果 | 取得年に全額経費 | 3年で均等償却 |
| 償却資産税の申告 | 必要 | 不要 |
| 向いているケース | 初年度の利益圧縮を優先したい場合 | 償却資産税の負担・申告の手間を避けたい場合 |
税務調査で否認されやすい3つのパターン
- 「一体資産」の分割適用は否認リスクが高い
- 期末ギリギリの購入は事業供用日の立証がカギになる
- 貸付用資産の適用は令和4年以降に除外規定が強化されている
- いずれも「証拠書類の整備」で防げるケースが多い
- 否認された場合、修正申告+延滞税の負担が生じる
少額減価償却資産の特例は多くの中小企業が活用している制度ですが、税務調査で適用が否認されるケースも少なくありません。取得価額の基準が40万円未満に拡大されることで、今後はさらに金額の大きい資産が対象に入ってくるため、否認時のインパクトも大きくなります。実務で特に問題になりやすい3つのパターンを解説します。
「一体資産」を個別資産に分割して適用するケース
税務調査で最も指摘を受けやすいのが、本来1つの資産として扱うべきものを、意図的に分割して特例を適用しているケースです。
たとえば、50万円の防犯カメラシステム(カメラ4台+録画装置+モニター)を購入し、構成品ごとに分けて全額即時償却する処理は、システム全体で1つの資産と判断される可能性が高いといえます。
対策としては、購入前の段階で見積書を「独立して機能する単位ごと」に分けて取得し、それぞれが単体で事業に使用できることを説明できる状態にしておくことが重要です。
期末ギリギリの購入で事業供用日が立証できないケース
決算期末に駆け込みで資産を購入し、即時償却で利益を圧縮する——節税手法としてはよく見られますが、税務調査では「本当にその期中に事業の用に供しましたか?」と問われることがあります。
特例の適用要件は「取得」だけでなく「事業の用に供した」ことです。購入して倉庫に保管したままの状態では要件を満たしません。期末に購入した資産については、納品書・設置完了報告書・使用開始記録などを保管しておくことを強くおすすめします。
「買った」だけでなく「使い始めた」ことを客観的に示せるかどうかが、調査対応の分かれ目になります。
貸付用資産を誤って適用するケース
令和4年4月1日以後に取得した資産については、貸付けの用に供したものが特例の対象から明確に除外されました(措法67の5、措令39の28)。この改正を見落として、貸付用資産に特例を適用してしまうケースが実務上散見されます。
除外の趣旨は、節税目的で資産を取得し形式的に第三者へ貸し付けるスキームを封じることにあります。ただし、「主要な事業として行われる貸付け」は除外の対象外とされているため、リース業や不動産賃貸業など、貸付けそのものが本業である企業は引き続き適用が可能です。
自社での使用なのか、第三者への貸付けなのかが曖昧なケースでは、取引の実態を示す契約書や使用記録を整備しておくことで、調査時に不要な疑義を避けられます。
即時償却が銀行融資に与える影響と対策
- 即時償却はPL上の利益を圧縮するため、銀行格付にマイナスに作用し得る
- 銀行は「減価償却前利益」で実質的な収益力を見ている
- 即時償却の理由を説明できる資料を用意しておくことが重要
- 「節税目的」ではなく「投資目的」として説明できるかが鍵
- 融資交渉の準備次第で、設備投資はプラス評価にも変わる
少額減価償却資産の特例を活用すると、購入年度の経費が一時的に膨らみ、利益が圧縮されます。節税としては効果的ですが、銀行融資を受けている、あるいは今後申し込む予定がある経営者にとっては、「この処理をして銀行からの評価は下がらないか」という点も気になるところではないでしょうか。
利益圧縮が銀行格付に与えるインパクト
即時償却によって経常利益が減少すると、銀行のスコアリングモデルにおける「収益性」指標が低下する可能性があります。これは避けられない側面があります。
ただし、影響の度合いは企業の利益水準によって大きく異なります。経常利益3,000万円の企業が200万円を即時償却する場合と、経常利益100万円の企業が同じ200万円を即時償却して赤字に転落する場合では、格付への影響が根本的に異なります。
税負担の軽減だけを考えれば即時償却が有利ですが、「融資への影響」まで含めたトータルの経営判断が求められるのです。
融資交渉で不利にならないための3つの準備
即時償却を行っても、銀行への説明次第で評価を落とさずに済むケースは十分にあります。元銀行員の目線で、融資交渉で押さえるべき3つのポイントをお伝えします。
① 減価償却前利益を別途提示する——銀行の融資担当者は、減価償却費を加算した「償却前利益(EBITDA)」で企業の実質的な返済能力を評価する場合があります。決算報告の際に、経常利益だけでなく償却前利益の推移も併せて資料化しておきましょう。
② 即時償却の内訳を開示する——「少額減価償却資産の特例を活用して○○万円を即時償却した結果、経常利益が前年比で減少している」という説明を、決算報告書の補足資料として添付してください。一時的な費用増であることが伝われば、評価は大きく変わってきます。
③ 投資の目的と効果を数字で示す——「新しい機器の導入で月間○○万円のコスト削減が見込める」といった投資計画を具体的な数字で添えることで、融資担当者の受け止め方も大きく変わります。
まとめると、即時償却そのものが銀行融資にとってマイナスなのではなく、「説明なく利益が減っている状態」が問題なのです。事前の準備と適切な情報開示が、設備投資と融資の両立を可能にします。
見逃せない連動改正——投資促進税制・経営強化税制との関係
少額減価償却資産の特例の改正は、単独で完結する話ではありません。関連する中小企業向け税制にも連動して改正が入っているため、制度全体を俯瞰しておくことが重要です。
| 税制 | 改正内容 |
|---|---|
| 中小企業投資促進税制 | 工具の1台あたり取得価額要件を 30万円以上→40万円以上 に引上げ |
| 中小企業経営強化税制 | 工具器具備品の取得価額要件を 30万円以上→40万円以上 に引上げ |
改正前は「30万円未満なら少額減価償却資産の特例、30万円以上なら投資促進税制や経営強化税制」という整理でしたが、改正後はその境界線が40万円に移動します。
| 比較項目 | 少額減価償却資産の特例 | 中小企業経営強化税制 |
|---|---|---|
| 対象資産の金額 | 40万円未満(改正後) | 40万円以上(改正後) |
| 償却方法 | 全額即時償却 | 即時償却 or 税額控除(原則10%、資本金3,000万円超1億円以下は7%) |
| 年間上限 | 300万円 | なし |
| 手続 | 確定申告書に明細書添付 | 経営力向上計画の認定が必要 |
設備投資の金額や件数、そして自社の利益状況に応じて、どの制度を使うのが最も効果的かを判断することが重要です。こうした制度横断的な視点を持つことが、改正後の税務戦略では欠かせません。判断に迷う場合は、税理士に相談のうえ最適な組み合わせを検討することをおすすめします。
まとめ——令和8年度改正を活かすために今やるべきこと
- 取得価額の基準が30万円未満→40万円未満に拡大
高性能パソコンや業務用ソフトウェアなど、30万円台の資産も即時償却が可能になります。 - 従業員数の要件が500人以下→400人以下に厳格化
パート・アルバイトを含めた常時使用従業員数で判定されるため、自社の人数を改めて確認しましょう。 - 年間合計300万円の上限は据え置き
1件あたりの金額が大きくなる分、上限に達しやすくなります。年間の投資計画が重要です。 - 即時償却しても償却資産税の申告義務は残る
固定資産台帳での個別管理を続け、毎年の申告に反映させましょう。 - 銀行融資への影響は「説明の準備」で対策できる
償却前利益の提示や投資目的の説明など、事前準備次第でプラス評価に変えることも可能です。
次にやるべき3つのこと
STEP 1:自社の適用要件を再確認する
資本金1億円以下、常時使用従業員数400人以下、前3事業年度の平均所得15億円以下——これらの要件を一つひとつチェックしてください。特に従業員数の要件は改正で厳格化されているため、ボーダーライン付近の企業は早めの確認が重要です。
STEP 2:年間の設備投資計画を見直す
40万円未満の資産が対象になることで投資の幅は広がりますが、年間300万円の上限は変わりません。どの資産に特例を使い、どの資産は一括償却資産や通常の減価償却で処理するか、優先順位を整理しましょう。
STEP 3:顧問税理士に相談する
取得価額の判定、施行日をまたぐ場合の経過措置、連動改正との最適な組み合わせなど、個社の状況に応じた判断が必要な論点が多い改正です。「改正法が施行されてから考える」のではなく、今のうちから準備を始めることが、この改正を上手に活かすための第一歩です。
※ 本記事は令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日公表)および改正法案(令和8年2月20日国会提出)に基づき作成しています。2026年3月時点では国会審議中であり、最終的な法律の内容が本記事と異なる可能性があります。具体的な税務判断にあたっては、必ず顧問税理士にご相談ください。

