『経営者保証融資』の危険性を回避するには?

コロナ禍は中小企業の経営に今なお重大な影響を及ぼしています。
売上は回復せず、資金繰りは改善の見込みなし。
これまでなんとか頑張ってきたけども、やむを得ず倒産という選択をされる経営者が増えてきました。

中小企業が倒産する原因の多くは、債務超過による資金繰りの悪化によるものですが、会社が倒産した際に、取締役(経営者)はどのような責任を追うのかご存知でしょうか?

会社倒産により、取締役は原則責任を追わない

単に経営が破綻して会社が倒産した場合には、原則として、株主や債権者から損害賠償請求されることはありません。

中小企業は「法人」として、法律上は別の人格を持っているので、個人である経営者とは別個のものであり、直ちに連帯責任が生ずるわけではありません。

したがって、会社倒産に際して会社が負っていた債務(借金)を無条件で引き受けなければならないというのは間違いです。

会社倒産により、取締役が損害賠償責任を負う場合

例外的に、会社経営者が会社の債務について、個人としても責任を追わなければならない場合があります。具体的には以下のケースです。

  1. 経営者が会社の連帯保証人になっている場合
  2. 経営者が担保提供者となっている場合
  3. 経営者に任務懈怠があった場合
  4. 破産管財人の否認権行使で責任を負う場合
  5. 事業共用した個人資産について責任を負う場合

今回は、この中でも特に①経営者が会社の連帯保証人になっている場合について解説していきたいと思います。

経営者が銀行借入れの保証人・連帯保証人になっている場合

会社が銀行などの金融機関から借り入れを受けるときに、代表取締役が保証人・連帯保証人となるよう求められることがあります。
経営者保証融資と呼ばれるものですが、特に中小企業が新規融資を受ける場合、半ば強引に代表取締役が会社の借り入れの連帯保証人にされるケースが多いです。

このような経営者保証融資を抱えたまま会社が倒産すると、連帯保証人である代表取締役は個人的にもその債務を負担しなければなりません。

会社が倒産することによって債務の期限の利益が失われると、代表者個人は、会社の債務を一括で返済する義務を負います。そうなると、会社が倒産するのと同時に、代表者個人も自己破産の申し立てを余儀なくされてしまいます。

中小企業は経営基盤が弱く、財務情報の正確性を欠く会社も多いため、金融機関としては融資を実行する上でこれらの不安材料を補完するために、経営者の個人保証を要求するのだと思います。

人的担保と物的担保

保証は、債務弁済を保証するのが人であるのか、物であるのかによって、『人的担保』と『物的担保』に分類されます。

個人保証は、社長や経営者など呼び方は違っても、「人」が会社の債務弁済を保証するため、「人的担保」となります。

一方、債務者でない者が、個人として保証はしないが、自身が所有する不動産などに抵当権を設定する場合には、不動産という物の価値で保証するので、「物的担保」となります。

物的担保の場合には、その担保とされた不動産等の評価額を超える責任を追求されることはありませんが、人的担保の場合にはその人自身が債務弁済を保証するので、保証する際に責任の限度を定めない限りは、残存する全ての債務が保証の対象となります。

個人保証の多くは連帯保証ですが、連帯保証は一般的な保証と異なり、金融機関からの支払請求を受けた場合、下記のような抗弁をすることができません

  1. 催告の抗弁
    「まずは債務者本人から請求してほしい」という反論はできません。
  2. 検索の抗弁
    「債務者には換金できる資産があるからそちらを先に執行してほしい」という反論はできません。
  3. 分別の利益
    「他にも保証人がいるから全額は支払いません」という反論はできません。

「経営者保証に関するガイドライン」

「経営者保証に関するガイドライン」とは、金融機関が中小企業に融資を行う場合に、企業経営者に個人保証を求める際の対応などについての指針のことです。

このガイドラインは、平成25年12月に金融庁と中小企業庁の後押しで、日本商工会議所と全国銀行協会が、中小企業への融資の条件として経営者保証を求める場合の適切な行動指針として公表されたものです。

この「ガイドライン」に法的な拘束力はありませんが、「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置付けられており、それら関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されています。

ガイドラインの目的

ガイドラインの目的は、大きく2つあります。

  • 中小企業が新規に融資を受ける際に、一定条件を満たしていれば経営者保証を求めないルールを提示すること。
  • 会社が倒産した場合に、経営者の債務履行内容を軽減すること。

経営者保証ガイドラインを適用できるケースでは、中小企業の保証契約について、次の3つの対応をとることができます。

  • 経営者の個人保証を提供せずに、金融機関から新規融資を受けられる
  • 既存の経営者保証を見直してもらえる
  • 企業の負債を債務整理する際に、経営者の負担を軽減してもらえる

これらのメリットを享受するためには、一定の要件を満たす必要がありますが、平成25年12月のガイドライン策定後、その利用は着実に拡がりつつあるといえます。

ガイドラインの活用事例

下記のリンクサイトにて、実績等を確認することができます。

経営者保証に関するガイドラインの適用対象と要件

経営者保証に関するガイドラインでは、経営者保証をせずに新規融資を獲得する場合、または経営者保証をした融資契約の経営者保証を解除する場合の、適用対象と適用要件は以下の4点となっています。

  1. 主債務者が中小企業であること。
  2. 保証人が個人であることに加え、主債務者である中小企業の経営者などであること。
  3. 主債務者である中小企業と保証人であるその経営者などが、弁済に誠実であるうえに債権者の請求があれば、それに応じて負債の状況がわかる財産状況などを適切に開示していること。
  4. 主債務者と保証人が反社会的勢力ではない、あるいはそのおそれがないこと

基本的にこの4つの要件を満たした場合は、経営者保証に関するガイドラインの適用を受けることができます。

まとめ

経営者保証に関するガイドラインは、これまで経営者保証を強いられてきた中小企業の社長さんにとっては朗報ですが、無条件で経営者保証から解放されるわけではありません。

金融機関が個人保証を必要とする理由は、中小企業特有の財政基盤の脆弱性による低い信用力を、経営者保証により補完することにあります。

しかし経営者にとって、個人資産と企業資産の分離や財務基盤の強化、経営の透明化というものは、一朝一夕に実現できるものではありません。

そのため、経営者保証ガイドラインの適用をうけるためには、税理士や弁護士などの外部専門家を上手に活用することが必要となってきます。

安易に個人保証に頼るのではなく、会社の経営基盤や透明性を高め、信用力を強化し、金融機関の理解を得て安全な融資を受けられるよう常日頃から意識しておきたいですね。