「障害者控除」、所得税と相続税で控除対象となる者に注意

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「障害者控除」の対象となる障害者とは?

障害者控除の対象となる障害者の概念は、所得税法上も相続税法上も同じですが、障害の程度により「障害者」と「特別障害者」に分けられ、それにより控除できる金額が変わります。

必ず「特別障害者」となる方

  1. 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方
  2. 原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている方
  3. いつも就床していて、複雑な介護を受けなければならない方

程度により「障害者」と「特別障害者」に分かれる方

  1. 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人
    ⇒このうち重度の知的障害者と判定された人は、特別障害者になります。
  2. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
    ⇒このうち障害等級が1級と記載されている人は、特別障害者になります。
  3. 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人
    ⇒このうち障害の程度が1級または2級と記載されている人は、特別障害者になります。
  4. 精神または身体に障害のある年齢が満65歳以上の人で、その障害の程度が一定のものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人
    ⇒このうち特別障害者に準ずるものとして市町村長、特別区区長や福祉事務所長の認定を受けている人は特別障害者になります。
  5. 戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人
    ⇒このうち障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの人は、特別障害者となります。

所得税法上の「障害者控除」

所得税における障害者控除は、確定申告を行う本人が「障害者」または「特別障害者」である場合だけでなく、配偶者や扶養親族が「障害者」または「特別障害者」である場合にも適用されます。

なお、障害者控除は所得税額を計算する前の所得金額から控除するものであるため、各人の所得税率により実際に減少する税額は異なります。

控除額

障害者の区分障害者一人あたりの控除額
障害者27万円
特別障害者40万円
同居特別障害者75万円
  1. 障害者控除は住民税にも適用されますが、その場合、控除額は上から順番に26万円・30万円・53万円となります。

配偶者が障害者である場合

障害者控除の対象となる配偶者とは、以下の要件をすべて満たす配偶者のことをいいます。

  1. 納税者の配偶者であること
  2. 納税者と生計を一にしていること
  3. 納税者の事業専従者でないこと
  4. 配偶者の合計所得金額が48万円以下であること
具体例

個人事業主の甲には重度の障害をもつ妻がいます。妻とは同居しており、生活の一切の面倒は夫である甲が見ています。なお、妻は授産施設に勤めており、令和7年分の給与額面は36万円です。

この例では、生計一かつ同居の配偶者が特別障害者であり、妻自身の所得金額もゼロとなるため、夫の確定申告において75万円(同居特別障害者)の控除を受けることができます。

扶養親族が障害者である場合

障害者控除の対象となる扶養親族とは、以下の要件をすべて満たす扶養親族のことをいいます。

  1. 6親等以内の血族および3親等以内の姻族であること
  2. 納税者と生計を一にしていること
  3. 納税者の事業専従者でないこと
  4. 扶養親族の合計所得金額が48万円以下であること
具体例

個人事業主の甲には一般の障害をもつ長男と一般の障害をもつ長女がいます。長男と長女は甲と同居しており、生活の一切の面倒を甲が見ています。なお、長女は無職ですが、長男は甲の事業について青色事業専従者給与の支給を受けています。

この例では、長男は甲の事業に係る青色専従者給与の支給を受けているため、障害者控除を適用することはできません。

一方長女は同一生計親族で所得要件も満たしているため、27万円(障害者控除)の控除を受けることができます。ただし、長女は甲と同居していますが、特別障害者ではないため75万円の控除はできないという点に注意してください。

相続税法上の「障害者控除」

所得税法上の障害者控除は、本人が障害者、または配偶者や扶養親族が障害者である場合に適用がありましたが、相続税法上は、亡くなった被相続人が障害者かどうかは関係ありません。遺された相続人のうちに障害者が居られた場合の、その本人、またはその扶養義務者の生活保障的な意味合いから設けられた制度であるため、所得税とは障害者控除の対象となる者に若干の相違があります。

障害者控除が受けられる人

  1. 相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所がある人
  2. 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である人
  3. 法定相続人(被相続人の配偶者、被相続人の血族)であること

控除額

障害者の区分
障害者10万円 ×(85歳 - 相続開始時の年齢)
特別障害者20万円 ×(85歳 - 相続開始時の年齢)
  • 年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。

控除しきれないとき

障害者控除額が、その障害者本人の相続税額より大きくなり、控除額の全額が引ききれないことがありますが、その場合は、その引ききれない控除額をその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。

ここで注意すべき点は、所得税の障害者控除で規定されている「扶養親族」と異なり、扶養義務者が必ずしも生計一や同居を要件としていないということです。なお、ここで言う「扶養義務者」とは以下の要件を満たすもののことを指します。

  1. 配偶者
  2. 直系血族
  3. 兄弟姉妹
  4. 家庭裁判所の審判で扶養義務者となった3親等内の親族
  5. 3親等内の親族で生計を一にする者
    (通常の3親等の親族のみ、生計一が要件となります)

これら親族の範囲については、以下の記事で詳しく説明しておりますので、気になる方は参照してください。

扶養義務者とは端的に言うと「家族」であり、当たり前に扶養義務が生ずる関係と思っていただいて問題ありません。ただし、家族から少し離れた「3親等内の親族」、つまり甥や姪辺りまで離れてしまうと、実際に生計を一にしないと「扶養義務者」には当たらないという感じです。

実際にあった例

実例
  1. 被相続人Aは令和7年5月31日に死亡しました。
  2. Aは亡くなる直前まで自営業を営んでおり、事業専従者はいませんでした。
  3. Aには同居している特別障害者の二男Cがおり、Aの準確定申告において同居特別障害者として控除を受けています。
  4. Aの死後、二男Cは長男Bと同居することとなり、生活の一切の面倒をBが見ています。
  5. 長男BはAの事業を引き継ぎ、令和7年分の確定申告書を提出しています。
  6. 相続人はAの配偶者、長男B、二男C、長女Dで、全員に相続税額が生じていますが、二男Cは障害者控除により税額はゼロとなる予定です。

まず所得税の障害者控除についてですが、Aが亡くなった時点で二男CはAの同居特別障害者に該当するため、Aの準確定申告において75万円の障害者控除を受けることができます。

次に令和7年分の長男Bの確定申告ですが、令和7年12月31日の現況で二男CはBの同居生計一親族となっているため、Bの確定申告においても75万円の障害者控除を受けることができます。

一見すると二重に障害者控除を受けているように見えますが、それぞれの納税義務者が、それぞれの判定時点において障害者控除の要件を満たしているため、AもBも同一年において障害者控除を受けても問題はありません

次に相続税の障害者控除ですが、二男Cの相続税額に対し、引ききれない障害者控除額が生じた場合には、他の扶養義務者である相続人の相続税額から控除することができますが、控除する優先順位は明確に決められているわけではなく、当事者間の話し合いで分配額を決めるか、各々の相続税額に応じて分配額を決めることになります。

最後に

約4ヶ月ぶりの投稿になりますが、確定申告も終わりましたので、これからは週に一つくらいのペースで情報発信を続けていきたいと思います。

どうか引き続き、よろしくお願い申し上げます。

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