「手取額が増えたことを実感していただきたい」!?
令和6年5月21日の各社ニュースで一斉に報道されたため既にご存じの方も多いと思いますが、令和6年6月分給与から実施される所得税および住民税の定額減税において、従業員に交付される給与明細に「所得税の定額減税額」を明記するよう義務付ける旨の発言が、林芳正官房長官の記者会見の中で行われました。
この内容については、令和6年1月30日に国税庁から交付された「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」という一般向けのパンフレットの中に、「給与支払明細書への控除額の表示」として、「給与明細書の適宜の箇所に、月次減税額のうち実際に控除した金額を表示する」との記載があることから、改正当初から告知されていた内容ではあるのですが、今回改めて政府から発言があったことで、この問題がニュース等で取り上げられたようです。
思えば昨年10月のインボイス制度に始まり、今年に入ってからの電子帳簿保存法における電子データ保存の義務化、そしてその数ヶ月後に定額減税… このような状況で火に油を注ぐような「手取額が増えたことを実感していただきたい」発言となれば、頭にくるのは当然です。
コロナ禍の苦しい状況を脱し、事業の立て直しに向けて必死に頑張っている事業者や労働者の足を全力で引っ張っているとしか思えないような今回の定額減税ですが、増税メガネが減税メガネにクラスチェンジしたとしても誰からも感謝されることはないと思いますので、事務コストで減税メリットがすっ飛んでしまうようなことはやめて、潔く給付方式に変更していただきたいものです。
汎用ソフトで給与計算を行っている場合
半分愚痴になってしまいましたが、現実問題としてこの給与明細への表示に対応しないといけませんので、具体的にどのようにすればよいか冷静に考えてみましょう。
まずは給与計算を手作業で行っている場合(エクセル等で作成している場合を含む)ですが、これについては給与明細を作成する都度、定額減税額を追記するほかありません。従業員が数名程度であれば、時間的にはさほど手間もかからないかもしれませんが、各人ごとの定額減税の実施状況の管理や、明細に記載された金額に計算間違いがないかなど給与計算におけるリスクが格段に増加するため、後述する汎用ソフトの導入も視野にいれる必要があるでしょう。
次は自社向けに独自に設計されたソフトにより給与計算を行っている事業者の場合ですが、おそらく定額減税に対応するための仕様変更も既に完了し、実際に稼働させている所も多いと思います。ですが万が一、給与明細への表示変更に対応できていないようであれば、今すぐ技術者を確保して改修させるのは現実的に難しいでしょうし、改修に掛けるコストの問題も生じるかもしれません。
このような独自設計のシステムを使っている事業者の中には、インボイスや電子帳簿保存法、定額減税と相次ぐシステム改修が原因で、予期せぬエラーが発生するようになった事例を聞いています。法人の経理と異なり、給与計算については1円でも間違うと、従業員の信頼を一気に失うことにもなりかねませんので、一刻も早く対応する必要があります。
最後に汎用ソフトを利用して給与計算を行っている場合ですが、これについてはほぼすべての開発元が定額減税の計算だけでなく、給与明細の表示や年末調整処理に対応しているようなので、給与明細の出力方法を確認する程度でこの問題はクリアできると思います。
なお弊所では、ほぼすべてのお客様にマネーフォワードクラウド会計またはマネーフォワードクラウド確定申告を導入しておりますが、これらのクラウド会計ソフトを利用している場合、関連するサービスとして無料で「マネーフォワードクラウド給与」を使うことができるため、定額減税については、控除対象配偶者や扶養親族の状況を追加入力する程度で完全に対応することが可能です。
もちろん給与明細についても、何か特別な処理をすることなく定額減税に関する情報を反映させることができますので、これら汎用ソフトを利用されている場合には、今回話題になっているニュースは気にしなくても差し支えないでしょう。
ちなみに、マネーフォワードクラウド給与から出力する給与明細は以下のものとなります。
控除前の所得税額と定額減税額の両方の記載がありますので、定額減税における給与明細の要件は満たしているのがわかります。なお出力月が6月なので住民税額がゼロで記載がありませんが、7月以降は住民税額もきちんと表示されますので問題ありません。
マネーフォワード以外の給与計算ソフトも10数社確認してみましたが、全て対応しておりました。これまでは従業員が2~3人の事業者には無理に給与計算ソフトの導入をお願いしておりませんでしたが、たとえ少人数でも、手間を掛けずに正確に計算等を行ってくれるのであれば、導入を検討する価値はあると思います。