家賃等を口座振替により支払う場合の仕入税額控除の適用要件
事務所の家賃や機器の保守サービス料、税理士顧問報酬など、契約に基づいて毎月一定金額を支払う取引については、毎月の支払いを預金口座振替により行っている場合が多いと思います。このような取引において、支払先から請求書や領収書のいずれも交付されず、証拠となるものは銀行の通帳の記録のみという場合、消費税の仕入税額控除の要件を満たすためにはどうしたら良いでしょうか?
インボイス制度開始前は口座振替の金額が3万円未満であれば、請求書等の交付がなくても帳簿に必要事項を記載しておけば問題はありませんでした。また、3万円以上であっても、上記のような場合は消費税法基本通達11-6-3(5)《請求書等の交付を受けられなかったことにつきやむを得ない理由があるときの範囲》の「その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合」に該当しますので、帳簿にやむを得ない理由として「口座振替のため」と追記し、契約書等と一緒に保存しておけば仕入税額控除を受けるための要件を満たしていました。
インボイス制度開始後はこの3万円未満の特例がなくなりますので、原則として全ての取引についてインボイスが必要となります。ただし、いくつかの例外がありますので、それぞれ見ていきたいと思います。
インボイス制度開始後の取り扱い
インボイス制度開始後は、契約に基づいて代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書の保存が必要です。しかし、その都度請求書等を発行する手間を省く目的で口座振替を行っている場合もありますので、改めて毎回発行するのではなく、例えば1年分の家賃に係るインボイスの交付を受けて、それを保存する方法も認められています。
複数の書類でインボイスの要件を満たす方法
一定期間の支払いについてまとめてインボイスの交付を受ける方法であっても、相手方の理解を得られなかったり、相手側の決算の都合などで思った通りのインボイスを頂けないことも考えられます。
インボイスの要件を満たすために必要な事項は、一つの書類に全て記載していなければならないということはなく、複数の書類で記載事項を満たせば、それらの書類全体でインボイスの要件を満たすとされています。
- インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨も記載)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
インボイス制度開始後に契約が行われた場合
インボイス制度開始後に新たに事務所などの賃貸借契約を結んだ場合には、上記インボイス記載事項のうち「2.取引年月日」以外の要件を記載した「賃貸借契約書」とともに、口座振替が行われた年月日が記載された通帳やWeb明細を併せて保存することにより、仕入税額控除の要件を満たすことになります。
また「口座振替」ではなく「口座振込」を行った場合には、銀行やATMが発行する振込金受取書を保存することで、上記と同様の取り扱いとなります。
インボイス制度開始前に契約が行われた場合
インボイス制度開始前から契約している事務所家賃であれば、「建物賃貸借契約書」には、上記インボイスの記載要件のうち、「登録番号」の記載は絶対にないはずです。4と5については、家賃や共益費等の合計額、消費税率10%及び消費税額が記載してあれば問題ありませんが、消費税率が3%や5%の頃に契約したものであれば、そもそも記載金額と異なる賃借料を支払っている可能性があります。
このように、インボイス制度開始後の要件として必要な事項が契約書に不足している場合は、不足している事項について貸主から別途通知を受けて保存することで、上記と同様の取り扱いをすることが可能となります。ただし、過去の消費税率のままの契約書についてはリスクがありますので、これを機会に最新のものに更新しておく必要があると思います。