「●●控除」とは?
所得税の計算の仕組みを大雑把に説明すると、まず所得の性質によって給与所得や事業所得など10種類の所得に区分し、各所得区分ごとに計算した所得金額を合算します。その後、社会保険料控除や扶養控除など15種類に区分された所得控除を行い、差し引いた所得金額に対し、金額に応じて5%から45%の所得税率を乗じて所得税額を計算します。さらに所得税額を計算した後、住宅ローン控除など一定の税額控除がある方は、更にここから税額控除を行い、納付することになります。
「●●控除」といった場合、税率を掛ける前の所得の金額から控除する「所得控除」なのか、税額を計算した後の納付税額を減らす「税額控除」なのかを区別する必要があります。例えば所得控除の一つである「扶養控除」は、控除額が原則38万円となっていますが、これは税金が38万円安くなるというものではありません。「所得控除」なので、その方に適用される所得税率によって減額される税額は1万数千円から十数万円と大きく変動します。非常にややこしいですが、今回説明するのは「所得控除」に属する「寡婦控除」と「ひとり親控除」についてとなります。
令和1年分以前の「寡婦(寡夫)控除」
「寡婦」という言葉は聞き馴染みがないかもしれませんが、令和1年分以前は以下のように定義されていました。
- 夫と死別・離婚した後再婚していない人、または夫の生死が明らかでない人で、扶養親族や生計を一にする子がいる人
- 夫と死別した後再婚していない人、または夫の生死が明らかでない人で、合計所得金額が500万円以下の人
(扶養親族などの要件はありません)
また上記の「寡婦」に該当する人が次の全てに当てはまるときは、「特別の寡婦」に該当します。
- 夫と死別・離婚した後再婚をしていない人や夫の生死が明らかでない人
- 扶養親族である子がいる人
- 合計所得金額が500万円以下の人
同じように、男性にも「寡夫控除」というものがありました。男性の場合は要件が厳しく、以下の3つの要件全てに当てはまらないと控除が受けられませんでした。
- 合計所得金額が500万円以下であること。
- 妻と死別・離婚した後再婚していない人、または妻の生死が明らかでない人
- 生計を一にする子がいること
令和1年分までの寡婦(寡夫)控除では、性別により控除要件が分かれており、一般の寡婦または寡夫であれば27万円の控除が受けられますが、特別の寡婦の35万円控除は男性には適用できない制度でした。
また、婚姻歴があることを前提としていましたので、同じ「シングルマザー」でも、婚姻歴のない、いわゆる未婚の母は完全に制度から抜け落ちていました。
令和2年分以降の「寡婦控除」
上記を踏まえ、令和2年分からは「寡夫控除」が廃止されるとともに「ひとり親控除」が新設されました。
これまでの寡婦(寡夫)控除では、男女とも婚姻歴があることが前提となっていたため、婚姻歴のないシングルマザーは対象外とされていましたし、男性には「特別の寡婦」の概念がなかったため、婚姻歴のあるシングルマザーは35万円控除できたのに対し、シングルファザーは27万円までしか控除が認められていませんでした。
「ひとり親控除」は生活が比較的困難な状況になりやすいシングルマザーやシングルファザーの生活難を税制からサポートする目的で創設されたため、所得金額が48万円以下の子供を持つひとり親は、男女の別や婚姻歴を問うことなく、「ひとり親控除」の対象となります。このひとり親控除は、従来の「特別の寡婦」と同額の35万円の控除が受けられます。
またひとり親控除の創設に伴い、寡婦控除の内容も見直され、夫と離婚・死別した女性のうち、ひとり親控除に該当しない人だけを対象とする形になりました。
寡婦控除の対象となる寡婦とは、その年の12月31日時点でひとり親に該当せず、次のいずれかに当てはまる人です。
(事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる人がいる場合は対象外)
- 夫と離婚した後再婚せず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の人
- 夫と死別した後再婚していない人、または夫の生死が明らかでない人で、合計所得金額が500万円以下の人(扶養親族の要件は不要)
(注)「夫」とは、民法上の婚姻関係にある人をいいます。
「ひとり親控除」とは?
対象者
ひとり親とは、原則としてその年の12月31日の現況で、婚姻をしていないことまたは配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次の3つの要件のすべてに当てはまる人です。
- その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
- 生計を一にする子(注)がいること
(注)その年分の所得金額が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない子に限る - 合計所得金額が500万円以下であること。
控除額
35万円
適用に当たっての注意点
婚姻歴を問いません
未婚のシングルマザーやシングルファザーも適用対象となります。
ただし、法律上の婚姻関係ではなくとも、事実婚や内縁関係にある場合は実質的な結婚とみなされるので、ひとり親控除の適用対象外となります。なお、事実婚の判定は、住民票の記載(未届の夫・妻)などで判定します。
子供以外の扶養親族は対象外
ひとり親控除では親や祖父母、孫など、子供以外の扶養親族は適用対象外となります。ここでいう子供とは、その年分の所得金額が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない場合に限られます。また、子供が何人いても控除額は一律で35万円です。
合計所得金額が500万円以下でないと適用できません
ひとり親控除は、納税者の合計所得金額が500万円以下の場合しか適用できません。所得とは収入金額から必要経費を引いた額のことをいいますが、給与や年金などは必要経費ではなく、一定の控除額を差し引いた金額で判定します。
寡婦控除と二重で控除することはできません
ひとり親控除と寡婦控除は重複して適用することはできません。両方の要件に当てはまる場合には、控除額の大きいひとり親控除を優先して適用することになります。
ただし、子供が16歳以上で扶養親族の要件を満たせば、ひとり親控除と同時に扶養控除の適用を受けることができます。
過去の申告で適用し忘れた場合
サラリーマンの方であれば、過去5年分までは還付申告をすることができますので、確定申告書にひとり親控除の適用を受ける旨の記載をすることで、令和2年分から令和4年分までの3年分の納めすぎた税金の還付を受けることができます。
個人事業主など毎年確定申告書を提出されていた方は、「更正の請求」という手続きをする必要がありますが、こちらも法定申告期限から5年以内であれば、納めすぎた税金の還付を受けることができます。