従業員に実質的な負担がない通勤手当
コロナ禍の頃から、通勤手段を電車・バスから自動車やバイク、自転車や徒歩に切り替える、または併用する例が増えてきました。
電車やバス通勤の場合、利用する経路や時間などがはっきりしているため、多くの会社では通勤手当として定期代などの支給がされていると思います。
「多くの会社では」と記載したのは、通勤手当は労働基準法により支給が義務付けられているものではなく、支給の有無や支給金額、支給方法などは各会社ごとに就業規則等で自由に決めることができるからです。
事業者の多くが通勤手当を支給するのは、給与として課税されないなどの税制上のメリットや、従業員の採用や定着率にも好影響を与えるなど、事業者と従業員の双方にメリットが有るためだと思われます。
次に通勤手当の実質負担という点について、電車やバスはもちろん、自動車やバイクなどはガソリン代という形で、通勤に係る実質負担があるわけですが、徒歩や自転車は通勤に係る負担がありません。このような場合でも通勤手当は支給できるのでしょうか?
答えは、「徒歩」は(一般的に)支給不可、「自転車」は支給可となります。
自転車は「交通用具」
所得税法上、自転車は自動車やバイクと同じく「交通用具」に分類されています。
この「交通用具」を使って通勤している場合に、所得税法上「非課税」となる1ヶ月当りの支給限度額は、通勤に要する片道の距離(直線距離ではなく、実際の通勤経路に沿った距離)に応じて、次のように定められています。
片道の通勤距離 | 1ヶ月当りの限度額 |
---|---|
2km未満 | 全額課税 |
2km以上 10km未満 | 4,200円 |
10km以上 15km未満 | 7,100円 |
15km以上 25km未満 | 12,900円 |
25km以上 35km未満 | 18,700円 |
35km以上 45km未満 | 24,400円 |
45km以上 55km未満 | 28,000円 |
55km以上 | 31,600円 |
「職場が近いから自転車」とお考えの方、片道2km未満は仮に支給されたとしても全額給与として課税されます。京都市にお住まいの方であればイメージしていただけると思いますが、私が住んでいる千本北大路辺りからイオンモール北大路(地下鉄北大路)までがだいたい2kmです。10kmとなると、同様に千本北大路から東福寺の辺りまでとなりますので、自転車ではこれくらいが限界でしょうか。
なお、郊外にお住まいで、最寄りの駅までは自転車、そこからは電車など自転車と公共交通機関を併用する場合、公共交通機関については、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額を算出します。そしてこれに上記自転車通勤に必要な金額を合算した金額(1ヶ月当りの合計上限額15万円)が通勤手当として非課税となります。
労務上の問題点
多くの会社では、以下のような理由から自転車通勤を認めていない、または事前申請による許可制を採用しているケースがほとんどです。
- 自転車通勤に対応する就業規則や給与規定などが整備されていない
- 自転車通勤した際に発生する可能性のある転倒や車・人との接触による事故といった労災との兼ね合い
- 自転車保険の加入やヘルメット着用などの安全性の確保・徹底が難しい
- 駐輪場所の設置や近隣住民への配慮が必要
- 雨天や気温の高い日など、着替えを要する場合のロッカールームやシャワー室などの設置
これらをすべて兼ね備えた会社はなかなかないと思いますが、いずれにしても自転車通勤をする場合、必ず会社に相談し、自己判断で勝手に自転車通勤しないように気をつけましょう。