調査対象はどのように選定しているの?
税務署に寄せられる膨大な申告データの中から、どの企業や事業者を調査対象としてピックアップするか皆さんは御存知でしょうか?
税務調査官がすべての申告データに目を通し、調査対象企業を選定するのは現実的に不可能なので、まずは国税庁内にある全ての申告データを保管・管理している「国税総合管理システム」において分析された結果に基づいて、調査対象とすべき最初の審査が行われます。ここで抽出されたデータを実際に税務調査官が吟味し、実際の税務調査先として選定されることになります。
ちなみに、国税総合管理システムは、それぞれの頭文字を取って「KSKシステム」と呼称されておりますので、以下KSKと表記することにします。
では、KSKはどのようにして調査先の候補を選出するのでしょうか?その答えは「異常値」にあります。
KSKに蓄積された過去5年分の納税者の決算・申告データを機械的に比較した際、利益率の増減、同業他社のデータとの比較値、各経費項目の割合や増減率などに異常値が発見されると、システムにより該当の納税者が抽出されます。
税務調査官はKSKにより抽出された事業者等の決算書や確定申告書を実際に目視で確認し、その異常値が税務調査に値するかどうか判断します。例えば意図的に在庫を除外すると、同じ商売をしていても粗利率はその年度だけ下がってしまいますし、売上が大きく増加しているのに営業利益率が変わらない、または下がっている場合、仕入や外注費の水増しや架空経費の計上が疑われます。また最終利益がトントンまたはちょいプラスの決算書であれば、銀行融資を通すために利益から逆算して数字が作られている可能性があります。申告書に添付されている勘定科目内訳書からは、主要な売掛先や買掛先などがわかりますので、それぞれの先の決算書や資料せんから得られた情報により、不正がないか確認します。
税務調査に入られないために、日頃気をつけておくこと
税務調査対策として一番の王道は、真面目にお商売することです。こう言ってしまえば身も蓋も無いですが、コロナ禍を経験した今では、毎年の決算数字に異常値が発生するのは当たり前であることを皆知っています。なので、税務調査が入る前提で、経営や経理の状況を正しく説明することができれば、何も恐れることはありません。
これを踏まえて、すぐにでもできる簡単な対策をいくつかご紹介します。
業界の統計データを確認する
業界全体の業況や各種統計数値の推移などを確認しておくと、自社と乖離している部分の説明に役立つと思います。統計データは有料のものでなくても、中小企業庁の業種別主要係数表や日本政策金融公庫の業種別経営指標などWeb上にいくらでも探すことができるので、一度ご覧いただくことをお勧めします。
なお、税務的な判断の難しいものや個別具体的なもの、例えば同業他社は役員退職金をどのくらいで設定しているかなどを調べる場合には、中小企業の「役員報酬・賞与・退職金」「各種手当」支給相場といった我々専門家が使うような資料もありますが、総じて高額な資料となりますので、顧問税理士がおられる方は、直接相談される方が良いかもしれません。
決算月前後の資料をきちんと整備しておく
売上にしても仕入・外注費にしても、相手方のあることですから、そうそうおかしな取引はされないと思います。しかし決算月の前後は別です。決算月に予想外の売上が計上されたり、決算月の翌月に大きな仕入があった場合に、請求日や納品日を意図的に改ざんして期を跨がせる「期ズレ」という行為が税務調査でもよく指摘されます。これは契約書や納品書、請求書といった書類に一貫性がなかったりするとすぐに発覚しますし、それらを改ざんしても取引の相手方を調査(「反面調査」といいます)すれば、直ちに判明してしまいます。
これは意図的に行われたものでなかったとしても、納品担当者と経理担当者の認識の違いなどでも発生することがありますので、決算前後の書類は特に念入りにチェックするようにしましょう。
「在庫」の範囲を理解する
物販業や卸売業であれば「在庫」についてかなりシビアに捉えていると思いますが、経理上「在庫」として管理しなければならないものが他にもあります。
- 店頭在庫・預け在庫…陳列しているものや委託販売先等にある商品
- 仕掛品…生産工程の途中にあるもの
- 原材料…原料や材料
- 計量しにくい在庫…ネジ類・液体・気体・粉体など
- 営業商材等…文具・コピー用紙・切手類・包装紙・フライヤーなど
- 未成工事支出金…決算日において完成していない工事等に係る材料や外注費など
上記は経理上の勘定科目は異なりますが、すべて「在庫」として管理すべきものであり、計上漏れがあると税務調査で必ず指摘されます。
むやみに勘定科目を変更しない
前年において支払手数料にしていた廃棄物処理費を外注費に変更したり、接待交際費にしていたゴルフコンペの会費を諸会費に変更するなど、年度によって処理する科目を変更すると、当然KSKシステム上で異常値として検出されます。また、リベートなど毎年変動の激しい項目も同様に検出されますので、勘定科目については意味のない変更はしない、また変動の激しい項目はその理由を理論的に説明できるよう日頃から準備しておく必要があります。
外注費の要件を確認する
工事業など外注費の割合が多い業種については、一人親方への支払いが外注費なのか、それとも給与なのかといった問題が必ず発生します。外注費として認められるよう以下の記事を参考に検討してみてください。
最後に
まだまだお伝えしたいことがありますが、今回はここまでとさせていただきます。また機会を見つけて、実際の税務調査で起こったことなども紹介していきたいと思います。