同一生計親族間で金銭のやり取りがあった場合の所得税法上の取り扱い
個人で事業を営んでいる父が、生計を一にする母や子どもに給与や使用料など、何かしらの対価を支払った場合、その支払った対価は父の事業所得の計算上、「給与」や「賃借料」などといった「必要経費」にすること(「算入する」といいます)はできるのでしょうか?
答えは「No」です。これについて、所得税法では以下のように規定しています。
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
上記の条文を設例を基にもう少しわかりやすく説明してみましょう。
- AさんはWebサイトのデザイン・設計を個人で営んでいます。
- 白色申告者であり、家族従業員はいません。
- 同一生計の妻Bに対し、デザインの一部を30万円で外注しました。
- 妻Bはデザインに必要な画材等の消耗品を8万円支出しています。
同一生計の妻 Bに対するデザインの対価である外注費30万円は、Aさんの事業所得の計算上、「外注費」という必要経費にすることはできません。
また、妻Bがそのデザインを作成するに当たり、実際に必要であった画材等を購入するために支出した8万円は、もしも妻Bがデザインに係る事業を行っていたとした場合に、その事業に係る必要経費にすることができる性質のものであるため、妻Bを通り越してAの事業に係る必要経費に算入されます。
その結果、Aさんの事業所得の計算上「消耗品費8万円」という必要経費のみが計上され、妻Bは入ってきたお金も出ていったお金も全て「ないものとみなす」とされることになります。
事業専従者に係る「給与」の特例
同一生計親族が営む事業に専ら従事し、実際に給与の支払いを受けた場合、上記で説明した通り、「給与手当」としてその事業に係る所得の計算上、必要経費にすることはできませんし、給与として支払いを受けた金銭も、「給与所得」の収入金額にはなりません。
ただし、青色申告を行う事業者が、「青色事業専従者給与に関する届出書」をあらかじめ税務署に提出することにより、その届出書に記載した給与額の範囲内であれば、その青色申告者の必要経費に算入することができますし、給与の支払いを受けた親族も、給与所得として課税されます。
また、青色申告の承認申請をしていない白色申告者であっても、一定の金額を「事業専従者控除」として所得金額から差し引くことができます。
白色申告者が「事業専従者控除」を適用する場合の注意点
青色事業専従者給与と異なり、事前に届出や申請は必要ありません。また事業専従者控除額は配偶者かそれ以外の親族かによって金額が異なります。具体的には以下の金額を比較していずれか低い金額が事業専従者控除額となります。
- 事業主の配偶者であれば86万円、それ以外の親族は1人につき50万円
- 控除前の所得金額 ÷(専従者の数+1人)
なお、この特例を受ける際には、実際に給与の支給が行われたかどうかは一切考慮しません。したがって、給与の支給がゼロであったとしても、事業専従者控除の適用を受けることができます。
また、その年の12/31時点での年齢が15歳未満の親族は事業専従者になれないことと、その年を通じて6か月超の期間実際に業務に従事しなければならないことに注意してください。ただし、開業その他の事情で年の途中で専従者になった場合には、従事可能期間の2分の1を超える期間従事すれば大丈夫です。
白色事業専従者として給与の支払いを受けた親族側の課税関係
白色申告者側で実際に事業専従者控除を受けた金額が、親族側の給与所得の計算上収入金額とみなされます。
例えば、白色申告者が配偶者に対し、年間120万円の給与を支払っていたとしても、白色申告者が必要経費に計上できる金額は、配偶者としての専従者控除額である86万円となります。実際に支払った給与120万円については、冒頭の原則通り、白色申告者の必要経費に算入できませんし、配偶者側の給与所得の計算上、給与収入にも含まれません。
配偶者の所得計算上、給与収入が給与とみなされた86万円のみであれば所得税は発生しませんので、配偶者側で確定申告を行う必要はありません。また、白色申告者が支払う給与については源泉徴収を行う義務がありませんので、この点にも注意が必要です。
ただし、この給与とみなされた金額の他に、通常のパート収入のような源泉徴収の対象となる給与がある場合には、必ず確定申告をする必要があります。なお、複数から給与所得を得ている場合に確定申告が不要になる20万円以下の特例は、この場合には適用できないことに留意してください。