「中小企業」と「中小法人等」
皆さんがイメージする「中小企業」とはどんなものでしょうか?
法律により、中小企業の定義は微妙に異なりますが、一般的には「中小企業基本法」に定める定義に従って、様々な施策が施されています。
中小企業基本法に定める「中小企業」と「小規模企業」
中小企業基本法において、両者は以下のように定義されています。
業種 | 中小企業者 (下記のいずれかを満たすこと) | 小規模企業者 | |
資本金等の額 | 常時雇用従業員数 | 常時雇用従業員数 | |
製造業・建設業・運輸業 及び下記以外 | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
法人税法上の「中小法人等」
一方、わたしたちが会社の税金を計算する上での判断基準となる「中小法人等」とは、法人税法第57条11項に定める以下のような法人を指します。
- 普通法人のうち、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
- 出資または出資を有しない法人(相互会社を除く)
- 公益法人等
- 協同組合等
- 人格なき社団等
ただし、1については、資本金や出資金の額が5億円以上の単独・複数の「大法人」に、完全支配されている法人は除外されます。
つまり、会社の資本金が1億円以下であったとしても、親会社から100%出資を受けていて、その親会社の資本金が10億円とかであれば、その会社は「中小法人等」に該当しないことになります。
租税特別措置法上の「中小企業者」
また、租税特別措置法にも「中小企業者」の定義があり、こちらも税金を計算する上で大変重要な概念となります。
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資を有しない法人のうち、常時雇用従業員数が1,000人以下の法人
ただし、1については以下の法人は除外されます
- 同一の大規模法人に発行済株式または出資の総数・総額の2分の1以上を所有されている法人
- 2社以上の大規模法人に発行済株式または出資の総数・総額の3分の2以上を所有されている法人
ここでいう大規模法人とは、資本金・出資金の額が1億円超の法人、または資本・出資を有しない常時雇用従業員数が1,000人以下の法人のことをいいます。
中小企業・中小法人・中小企業者の判断を間違えると
一般の方が考える「中小企業」は、どちらかというと中小企業基本法に定める中小企業の概念に近いのではないでしょうか?コロナ禍では助成金や補助金の申請をされる法人は多かったと思いますが、この補助金等の申請要件にある「中小企業」などがこれに当てはまります。
例えば、多くの法人が利用した「ものづくり補助金」ですが、その申請対象となる中小企業等は、「中小企業等経営強化法」に規定するもので、その内容は中小企業基本法に定める要件とほぼ同じものです。
一方、税法に定める「中小法人」と「中小企業者」の判断を間違えると、適用される法律に大きな差が生じるため、財務諸表や納税額に多大な影響を及ぼすことになります。
申告内容の誤りが多いとされる事項
令和5年4月に国税庁から「調査課所管法人における申告内容の誤りが多い事例」として、その状況を取りまとめたものがリリースされています。それによると、税率や特別償却、特別控除など中小法人にしか適用できない制度を誤って適用してしまい、税務調査等で指摘されている事例がかなり多いように思われます。
法人税法と租税特別措置法の適用関係
法人税法上の「中小法人」と租税特別措置法上の「中小企業者」は、普通法人の場合、原則として資本金の額が1億円以下の法人が該当し、両者に違いはないのですが、親会社など、他の大規模法人に自社の株式を所有されている場合には、中小法人や中小企業者に適用される優遇税制が使えなくなる場合がありますので、下記の表を参考に、決算・申告の際には慎重に検討してください。
法人税法上の 中小法人等 | 租税特別措置法上の 中小企業者 |
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法人税の軽減税率 | 少額減価償却資産の損金算入 |
貸倒引当金の特例 | 所得拡大促進税制の上乗せ措置 |
交際費の800万円控除 | 試験研究費の税額控除の上乗せ措置 |
欠損金の繰戻し還付 | 特定経営力向上設備の特別償却 |
繰越欠損金の控除制限なし | 機械等を取得した場合の特別償却 |
特定同族会社の留保金課税 | 固定資産税の減免措置 |