夫婦共働きと扶養親族
夫婦共働きの方に質問ですが、お子様やご両親を扶養控除の対象として申告する際、御夫婦どちら側の控除対象にされていますか?
扶養控除は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に扶養控除の要件を満たす扶養親族を記載して会社に提出することで、年末調整の際に受けられる所得控除の一つですが、毎月の給与から天引きされる源泉所得税額も扶養親族の数に応じて変動するので、毎月の手取り額にも影響を及ぼします。
夫婦共働き家庭の場合、例えば一人息子を夫婦双方の扶養親族とすることはできませんが、「どちらの扶養親族とするか」については自由に決めることができます。手続的には、扶養控除を受けたい方の扶養控除申告書に扶養親族に関する事項を記載するだけなので、特に複雑な申請等の手続きもありません。
ところがこの扶養親族、夫婦どちらの控除対象にするかによって、世帯全体の納税額が大きく変わることをご存知でしょうか?
「もちろん知っているよ!」との声が聞こえてきそうですが、今回は税金の知識に乏しい方に向けて、扶養親族と納税額の関係についてお話したいと思います。
所得税の税率と所得控除の関係
所得税は住民税と異なり、所得金額が増えるほど所得税の税率が高くなる「超過累進税率」を採用しています。
この所得税の超過累進税率ですが、5%に始まり、最高税率は驚きの45%となっています。住民税は一律10%なので、所得税と住民税を合わせると、15%から55%(!)という税率になります。
余談ですが、江戸時代の年貢率は「四公六民」とか「五公五民」、つまり4割から5割を年貢として納めていたそうなので、現在の最高税率は江戸時代の年貢率よりも高いということになります。絶対ダメですが、一揆を起こしてしまいそうになりますね。
扶養控除はこの超過累進税率を掛ける前の所得金額から控除することができる「所得控除」の仲間なので、仕組み的に、税率の高い人ほど所得控除の効果が高くなります。
扶養控除は「一般扶養親族」であれば38万円、19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」であれば63万円、70歳以上の「老人扶養親族」であれば48万円、老人扶養親族で同居をしている「同居老親」であれば58万円をそれぞれ所得から控除することができます。このうち、最も控除額の大きい特定扶養親族を例に取ると、所得税率が5%の人であれば、63万円✕5%=31,500円所得税額を減らすことができる一方で、所得税率が45%の人であれば、63万円✕45%=283,500円所得税額を減らすことができる、ということになります。
「そんなの不公平だ!」という考えもあるかもしれませんが、要は、「所得金額の多い(=所得税率の高い)人に扶養親族をつけた方が得」ということになります。
具体例で見てみると
以下の具体例をもとに、どの程度税額が変化するか見てみましょう。
- 家族構成…夫(50歳)・妻(45歳)・息子(20歳)
- 夫の給与収入…720万円
- 妻の給与収入…240万円
- 息子は大学生で扶養控除の要件を満たしています。
より具体的にするために、社会保険料は令和6年度の京都府の率をもとに試算し、生命保険料控除等も加味して計算してみました。
項目 | 夫 (扶養控除あり) | 妻 (扶養控除なし) |
---|---|---|
給与収入 | 7,200,000円 | 2,400,000円 |
給与所得控除額 | 1,820,000円 | 800,000円 |
給与所得金額 | 5,380,000円 | 1,600,000円 |
社会保険料控除額 | 1,106,256円 | 374,760円 |
生命保険料控除額 | 80,000円 | - |
地震保険料控除額 | 20,000円 | - |
扶養控除額 | 630,000円 | - |
基礎控除額 | 480,000円 | 480,000円 |
所得控除合計 | 2,316,256円 | 854,760円 |
課税所得 (千円未満切り捨て) | 3,063,000円 | 745,000円 |
所得税率 | 10% | 5% |
所得税額 (100円未満切り捨て・復興税を除く) | 208,800円 | 37,200円 |
この計算例は夫側で扶養控除を行ったパターンですが、結果、世帯全体の税負担額は208,800円+37,200円=246,000円となりました。それでは、次に妻の側で扶養控除を行ったパターンを見てみましょう。
項目 | 夫 (扶養控除なし) | 妻 (扶養控除あり) |
---|---|---|
給与収入 | 7,200,000円 | 2,400,000円 |
給与所得控除額 | 1,820,000円 | 800,000円 |
給与所得金額 | 5,380,000円 | 1,600,000円 |
社会保険料控除額 | 1,106,256円 | 374,760円 |
生命保険料控除額 | 80,000円 | - |
地震保険料控除額 | 20,000円 | - |
扶養控除額 | - | 630,000円 |
基礎控除額 | 480,000円 | 480,000円 |
所得控除合計 | 2,316,256円 | 854,760円 |
課税所得 (千円未満切り捨て) | 3,693,000円 | 115,000円 |
所得税率 | 20% | 5% |
所得税額 (100円未満切り捨て・復興税を除く) | 311,100円 | 5,700円 |
扶養親族を夫から妻に付け替えた結果、世帯全体の税負担額は311,100円+5,700円=316,800円となり、先程の例と比べ、70,800円税負担が増えたことになります。
ここで注目していただきたいのは、夫側で扶養控除を外したことにより、所得税の税率が10%から20%に上がってしまったという点です。所得税の超過累進税率は下図のように一定の範囲を区切って定められているため、税率が変化する前後の所得金額の場合、扶養控除の有無によって税率までも変わってしまう可能性があります。
所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
どの時点で判断するのか?
ここまでの話で、夫婦どちらに扶養親族をつけると有利になるかお分かりいただけたと思いますが、次に問題になるのは、いつまでにこの判断をしなければならないかという点です。これについては法令により「その年の12月31日の現況により判断する」とありますので、冬の賞与が支給される12月まで判断を先送りにすることができます。
先送りというと聞こえが悪いですが、夫婦それぞれの所得が拮抗する場合、冬の賞与や12月の残業代で有利不利が判明するなんてこともありますので、ギリギリまで判断を保留できるのはありがたいですね。
とはいえ、会社の経理や総務から鬼のような催促があると思いますが。。