国税庁:「令和5年度査察の概要」から見える脱税の状況

上記画像は「査察官に見守られて税務調査を受ける様子」を画像生成AI「DALL-E」で作成したものです。

目次

「令和5年度査察の概要」が公表されました

「査察」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、みなさんが一般的に経験する「税務調査」とは以下のような点で異なります。

税務調査

税務調査は、納税地を所轄する税務署が行う一般的な調査で、所得税や法人税等に規定されている質問検査権により「任意」で行われるものです。

任意なので、通常は社長や事業主に調査目的や日程など事前確認の連絡がありますが、顧問税理士がいる場合は税理士を通じて連絡があります。税務調査はあくまでも申告漏れを調査することが目的なので、基本的に納税者や税理士の協力のもとに行われます。

査察調査

査察調査は正確には犯則調査といい、国税局査察部が国税犯則取締法に基づいて行う「強制」的な調査のことをいいます。

国税局査察部には臨検、捜索、差押等の強力な権限があり、悪質な脱税を摘発することが目的であるため、証拠を隠滅されないよう事前通告もなく、ある日突然会社や社長の家に捜査員が一斉にやって来ます。相手方の同意は不要、問答無用の捜査です。

国税局査察部の調査は数ヶ月から1年ほど続くこともあり、脱税による犯罪が成立すると判断されると、検察官に告発されることになります。査察調査が入った場合、60%~70%の割合で告発されていますが、通常の税務調査と異なり、査察部により告発された場合刑事罰を受けることになりますので、その後の人生にも大きな影響を及ぼします。

この査察調査の実態について、国税庁から令和5年度のレポートが公表されましたが、内容を見ると、現在の国税当局がどのような業種や取引に着目しているのかが見えてきますので、その概要をお知らせしたいと思います。

国税庁:「令和5年度 査察の概要」

「令和5年度査察の概要」から見える脱税の状況

告発件数トップ3

1位・・・不動産業

2位・・・建設業

3位・・・人材派遣業

建設業は令和3年度・4年度とトップでしたが、令和5年度は不動産業に首位を譲る結果となりました。

消費税事案

消費税については不正に還付を受ける悪質な事案をターゲットにしており、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、国庫金の詐取という表現を用いて糾弾するなど、かなり積極的に取り組んでいるように見受けられます。

具体的な事案として輸出物品販売場の許可を受けたコンビエンスストアの例が挙げられておりますが、最近のインバウンドの増加に伴い、不正な事案が増加しており、虚偽のパスポート情報を用いて免税商品を販売したと装って架空の輸出免税売上を計上することで、不正に消費税の還付を受けた事例などが紹介されています。

無申告事案

弊所でも無申告に関する相談を積極的に受けていますが、事例としてあげられていた件に類似する事案は弊所でもよく問い合わせがあります。

事例ではアフィリエイト事業に関する無申告の件が紹介されていましたが、最近のSNSを使った広告収入や、せどりなどのネット通販に関する無申告事案は、コロナ禍以降増加の一途をたどっています。電子商取引については基本的にすべての取引を追跡できますので、「この程度じゃバレないだろう」という考えはぜひ捨てていただき、必ず申告するよう心がけてください。

社会的波及効果の高い事案

時流に即した事案などの社会的波及効果が高いと見込まれる事案として、以下のようなものが紹介されています。

  • 脱税請負人が、節税と偽って脱税スキームを納税者に斡旋する事案
  • インターネット上の物品の転売やそのノウハウの指南を業とする者が、架空の経費の計上や売上を除外して脱税した事案
  • コロナ禍におけるペット需要の高まりを受けたブリーダー業を営む者が、架空の経費を計上することで脱税した事案
  • その他医療コンサルタント、太陽光発電設備事業者、果樹園農家などが告発された事案

不正資金の隠匿場所

脱税により得た不正資金をどのように使い、またどんな場所の隠していたかについても紹介されていました。皆さんは真面目に申告されているはずなので、これを参考にするのではなく、「浅はかだなぁ」という目で見ていただけたらと思います。

不正資金の使途

  • 高級車の購入
  • 有価証券等への投資
  • 暗号資産の購入
  • 競馬や海外カジノ・ネットカジノ等のギャンブル
  • 飲食等の交際費・遊興費

想像したとおりですが、暗号資産やネットカジノというのが今風ですね。

不正資金の隠し場所

  • 天井裏
  • 階段下収納
  • 蔵におかれた木箱
  • 銀行の貸金庫

一転してこちらは昭和の雰囲気をそのまま引きずっている感じでした。都会のマンション暮らしには天井裏や蔵なんてものはないと思いますが、どうなんでしょうね…

目次