個人事業主でも「福利厚生費」を計上できる?

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「福利厚生費」とは?

私が大学生で就職活動していた頃は平成元年のバブル最盛期だったため、人気上位の企業でなければどこにでも入社できるような時代でした。ちなみに私の妻はロスジェネ世代なので、この頃の話をすると全く噛み合いませんが…

このような時代でしたので、入社する動機が「福利厚生が充実しているから」という人も結構いたと記憶しています。ホテルのような社宅や全国各地のリゾートマンションといった箱物は特に充実しており、プロ野球の観戦チケット、スポーツジム、海外への社員旅行など、今思うとこれらの福利厚生は人材確保のための客寄せパンダ的なものだった気がします。

福利厚生費は地代家賃や旅費交通費といった他の経費とは異なり、事業活動を行うために不可欠な経費ではなく、また支出の効果が必ずしも売上に直結するものではありません。にも関わらずこの経費が必要とされるのは、福利厚生費が、社員旅行やレクリエーション、健康診断費用、自己啓発活動の支援など、従業員やその家族にとって働きやすい環境を確保するのに有用であり、従業員の心身の健康や成長、生活環境や労働環境を整備することで、働きやすい魅力的な企業として社会的な信頼を高め、有能な人材の確保する目的があります。

ただし、福利厚生費は従業員全員に平等に適用されることが大前提の経費なので、例えば「役員ゴルフコンペ」だとか、「営業成績上位者のみの社員旅行」「結婚祝い金は正社員のみ」など、特定の役員や社員のみを対象として支出された場合は、それらの者に対する給与として取り扱われるので注意してください。

なお、フレックスタイム制や在宅勤務の従業員、フルタイムやアルバイトといった働き方の違いや会社における役割の違いが明確であるなど、異なる適用をすることに合理的な理由がある場合には、就業規則や福利厚生規程などを作成することで、対象となる従業員の範囲や金額の算定方法等を区分することは可能です。

個人事業主と福利厚生費

一般的に福利厚生費は法人に認められた経費であり、個人事業主は計上することができないと思われています。

この考え方は概ね正解ですが、より正確に言うと、「個人事業主1人で経営している場合」と「個人事業主の家族だけで経営している場合」は福利厚生費は認められませんが、「事業専従者以外の従業員」が1人でもいる場合は福利厚生費が認められます。

個人事業主1人で経営している場合

先述の福利厚生費の目的にも記載しましたが、そもそも福利厚生費は従業員のために支出するものなので、事業主自身に対するリクリエーション費や家賃、観劇や食事代などの支出は単なる生活費や娯楽費であって、経費性が全く認められない支出と判断されます。したがってこれらの支出は全て「事業主貸」勘定で処理します。

個人事業主と家族だけで経営している場合

こちらもおおよそ想像がつくと思いますが、家族従業員に対する社内旅行や懇親会は単なる「家族旅行」や「晩ごはん」といった生活費とみなされ、福利厚生費として計上することはできません。したがって事業用の通帳などから支出してしまった場合は「事業主貸」勘定で処理します。

「事業専従者」以外の従業員がいる場合

個人事業主本人やその事業専従者以外に従業員を雇用している場合、福利厚生の要件を満たせば経費として計上することができます。また、この場合において個人事業主とその事業専従者、一般従業員全てに対し平等かつ社会通念上適切な金額の範囲内であれば、事業主本人と事業専従者の分も含めて、福利厚生費として処理することが可能です。

最後に

福利厚生費に関するご質問は、普段の業務においても個人事業主の方からよくされるものの一つですが、興味深いことに、9月や1月にご相談が多くなる傾向があります。

おそらく、夏休みや年末に家族旅行をされ、その支出が経費にならないかなぁ。。といったことなのかもしれませんが、「残念ながらそれは。。」とお答えすることが多いです。

お気持ちはよく理解できますが、無理やり経費にねじ込むことは控えるようにしましょうね。

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