【令和8年度税制改正②〜資産課税】8年度税制改正で「資産防衛」はどう変わる?不動産評価と贈与・承継の3大転換点を解説

資産防衛の潮目が大きく変わりました。令和8年度改正では、教育資金贈与の特例が延長されず終了する一方、事業承継税制の計画提出期限は延長されるなど、引き締めと緩和が混在しています。制度改正に振り回されず、ご自身の資産にとって最適な「守り」と「承継」の判断ができるよう、今回の改正における勘所を解説します。

目次

教育資金の一括贈与で迫られる2つの選択肢

ポイント
  • 令和8年3月末の期限までに「駆け込み贈与」をすべき人の条件
  • 制度終了後も口座に残った資金の扱いはどうなるのか

長年、孫などへの資産移転策として活用されてきた「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」ですが、令和8年度税制改正により、本制度は延長されず、令和8年3月31日をもって新規拠出ができる期間が終了することとなりました。終了までの残り期間で「駆け込み贈与」を行うべきか、それともリスクを避けて静観すべきか。制度終了のインパクトを正しく理解し、ご自身の資産状況に応じた冷静な判断が求められます。

令和8年3月末の期限までに「駆け込み贈与」をすべき人の条件

令和8年3月31日をもって、教育資金の一括贈与に係る非課税措置(新規契約・追加拠出)は終了します。制度終了が確定した今、駆け込み贈与を検討すべきなのは、十分な金融資産があり、かつ孫等の教育費負担が確実に見込まれる方です。例えば、医学部進学や留学など将来的に多額の資金ニーズがある場合、最大1,500万円まで非課税となる現行制度のメリットは依然として大きいといえます。

ただし、現行制度上、契約終了時に使い残した残額には贈与税が課される扱いとなるため、単なる節税目的での過大な贈与は禁物です。受贈者の年齢や将来の進路を慎重に見極め、確実に使い切れる金額の範囲内で実行することが、賢明な判断となります。

制度終了後も口座に残った資金の扱いはどうなるのか

制度の終了決定により、「令和8年4月以降、すでに口座にある資金はどうなるのか」と不安に感じる方もいるかもしれません。結論から言えば、令和8年3月31日までに拠出された資金については、制度終了後も引き続き非課税措置が適用されます

教育資金管理契約に基づく信託期間が強制的に終了するわけではなく、すでに贈与された資金は、受贈者が30歳になる等の終了事由が発生するまで、現行制度と同様に非課税で払い出しが可能です。したがって、既存の契約を急いで解約したり、無理に使い切ったりする必要はありませんが、新たな追加贈与は期限までしか認められない点には注意が必要です。

貸付用不動産の評価ルール変更で警戒すべき3つのポイント

ポイント
  • 「取得後5年以内」や「特定スキーム」で市場価格評価となる具体的基準
  • 「取得価額の80%評価」の適用可否と留意点
  • 令和9年1月施行に向けて今から検討すべき資産の組み換え

相続税の実務において、貸付用不動産(賃貸マンション等)の評価額が市場価格よりも低くなる性質を利用した節税策は、長らく有効な手段とされてきました。しかし、今回の改正では、市場価格との乖離実態を踏まえた適正化が行われます。特に、相続開始の直前に取得された物件や、特定の不動産スキームについては、従来の通達評価ではなく「通常の取引価額」で評価する新たなルールが導入されるため、今後の資産運用に大きな影響を与えることになります。

「取得後5年以内」や「特定スキーム」で市場価格評価となる具体的基準

今回の改正で最も影響が大きいのは、被相続人が相続発生日(課税時期)から遡って5年以内に対価を伴って取得、または新築した「貸付用不動産」です。これらに該当する場合、従来の路線価や固定資産税評価額に基づく評価(通達評価)ではなく、「課税時期における通常の取引価額に相当する金額(実務上は時価相当)」で評価することが原則となります。

さらに重要な追加点として、不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る一定の金融商品取引契約に基づく権利の目的となっている貸付用不動産については、取得時期にかかわらず、通常の取引価額で評価されます。いわゆる「不動産小口化商品」等を用いた節税策も、保有期間に関係なく適正化の対象となるため、保有物件の契約形態を確認する必要があります。

「取得価額の80%評価」の適用可否と留意点

「時価」といっても、不動産の鑑定評価を都度行うのは実務上の負担が大きいため、明確なルール(セーフハーバー)が設けられました。具体的には、課税上の弊害がない限り、取得価額をベースに地価変動等を考慮した金額の「80%相当額」で評価することが認められます

これにより、完全に時価(100%)で課税されるリスクは低減され、納税者の予測可能性は確保されます。ただし、これはあくまで一定の条件を満たす物件に対する措置であり、自動的に80%評価となるわけではない点に注意が必要です。また、5年を超えて保有している通常の貸付用不動産については、引き続き従来の通達評価が適用されるため、保有期間による評価額の差がこれまで以上に開くことになります。

令和9年1月施行に向けて今から検討すべき資産の組み換え

この新ルールは、令和9年(2027年)1月1日以後に発生する相続や贈与から適用されます。重要なのは、施行日より前に取得した物件であっても、相続発生日が施行日以降であれば、取得から5年以内である限り対象になり得る点です。

ただし、経過措置として「評価通達改正日(今後公表)の5年前から所有している土地の上に、同日までに新築された家屋」などは対象外となります。古くから保有している土地への賃貸物件建築を検討している場合は、この経過措置の適用期限(通達日)を意識し、早めに計画を進めることが有効な資産防衛策となり得ます。

事業承継税制の特例計画提出、期限延長で広がる検討の猶予

ポイント
  • 非上場株式等の特例承継計画における新たな提出期限
  • 個人事業者の承継計画も延長、諦めていた人が再検討すべき理由

事業承継税制の特例措置は、後継者への株式等の移転にかかる税負担を実質ゼロにできる強力な制度ですが、その適用要件となる「計画提出期限」が迫っていました。今回の改正では、まだ承継準備が整っていない経営者に配慮し、法人版・個人版ともに計画の提出期限が延長されることになりました。これにより、駆け込みで判断を急ぐことなく、じっくりと承継の方針を検討する猶予が生まれています。

非上場株式等の特例承継計画における新たな提出期限

法人版事業承継税制(特例措置)の適用を受けるために不可欠な「特例承継計画」の提出期限は、当初の令和8年3月末から令和9年(2027年)9月30日へと、1年6ヶ月延長されました。

これにより、後継者選びや親族内調整に時間を要していた企業も、改めて適用を検討する余地が生まれています。ただし、制度自体の適用期限(株の贈与・相続の実行期限)は令和9年12月31日のまま変更されていません。つまり、計画提出のデッドラインと承継実行のデッドラインが極めて接近することになるため、計画提出後は速やかに株式譲渡を実行に移すスピード感が求められます。

個人事業者の承継計画も延長、諦めていた人が再検討すべき理由

個人事業者の事業用資産に係る承継計画についても、提出期限が令和10年(2028年)9月30日まで、2年6ヶ月という大幅な延長となりました。

この延長幅は法人版よりも長く設定されており、法人成りするか、個人事業のまま承継するかを迷っている方にとっては、判断のための時間が十分に確保されたといえます。なお、計画提出期限は延長されましたが、制度自体の適用期限(承継の実行期限)は令和10年(2028年)12月31日までとなっている点も併せて確認が必要です。一度は「間に合わない」と諦めていた場合でも、この猶予期間を活かして専門家に相談し、将来の税負担をシミュレーションした上で、最適な承継方法を選び直すことを強くおすすめします。

激変する資産税制下で資産を守る3つの防衛策

ポイント
  • 駆け込み対策のリスクと「否認」されないための理論武装
  • 税理士任せにせずオーナー自身が把握すべきスケジュールの全体像

令和8年度改正は、資産家にとって「情報戦」の様相を呈しています。税務当局が租税回避的取引により一層厳格に対処しうる環境整備がなされており、これまで以上に「なぜその対策を行うのか」という経済合理性が問われる時代になりました。制度の隙間を突くような安易な手法ではなく、法の趣旨に則った正当な防衛策を実行するために、オーナー自身が持つべき視点と全体スケジュールを解説します。

駆け込み対策のリスクと「否認」されないための理論武装

期限が迫ると「とにかく制度を使わなければ損だ」という心理が働きがちですが、拙速な駆け込み対策には大きなリスクが伴います。特に不動産活用においては、今回の改正趣旨が「市場価格と評価額の乖離を利用した租税回避の防止」にあることを忘れてはいけません。

単に税金を減らすためだけの不自然な取引は、税務調査において否認される可能性が高まると見込まれます。対策を実行する際は、「事業の継続性」や「家族の生活保障」といった、税金以外の正当な理由(理論武装)が明確にあるかを確認してください。専門家と相談し、形式的な要件だけでなく、実質的な経済合理性を備えた対策を講じることが、資産を守る鉄則です。

税理士任せにせずオーナー自身が把握すべきスケジュールの全体像

今回の改正で最も注意すべき点は、制度ごとに「期限」がバラバラであることです。教育資金贈与は令和8年3月末まで、不動産の新評価ルールは令和9年1月から開始、そして法人版事業承継税制の計画提出は令和9年9月末までと、重要なマイルストーンが続きます。

これらをすべて完璧に管理することは、多忙な税理士にとっても容易ではありません。だからこそ、オーナー自身が「いつまでに何を決断すべきか」という全体像(ロードマップ)を把握しておく必要があります。主導権を自分で持ち、必要なタイミングで専門家を動かす姿勢が、期限切れによる損失を防ぐ鍵となります。

まとめ:改正の波を乗り切るために

今回の令和8年度税制改正は、資産税分野において非常に大きな転換点となります。重要なポイントを整理します。

まとめ
  • 教育資金贈与の非課税措置は令和8年3月31日をもって新規拠出ができる期間が終了するため、活用するならラストチャンスとなります。
  • 貸付用不動産の評価は、取得後5年以内の相続や不動産特定共同事業等のスキームにおいて原則「通常の取引価額に相当する金額」で評価され、安易な節税への対応は厳格化されます。
  • 業承継税制の計画提出は、法人が1年6ヶ月、個人が2年6ヶ月延長され、検討の猶予が生まれました。
  • 駆け込み的な対策は、経済合理性がないとみなされると否認されるリスクが高まると見込まれます。
  • それぞれの制度で期限が異なるため、自身の資産状況に合わせた全体スケジュール管理が不可欠です。

税制改正は「増税」という側面ばかりが注目されがちですが、見方を変えれば、ご自身の資産構成や承継計画を根本から見直す絶好の機会でもあります。制度の期限ギリギリになって慌てることのないよう、信頼できる専門家とともに、早めの一歩を踏み出してください。

この記事を書いた人

京都市北区で「世良税理士事務所」を運営しています。
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