【令和8年度税制改正③〜法人課税】中小企業に影響する法人課税の主な変更点と実務対応

令和8年度税制改正大綱が閣議決定されました。今回の改正は、中小企業の設備投資を後押しする「少額減価償却資産の基準額引上げ(30万円→40万円)」や、大規模投資を支援する新税制の創設が目玉となっています。一方で、賃上げ促進税制については制度の整理・縮小が含まれるなど、注意すべき変更点も多数あります。

本記事では、大綱で示された方向性に基づき、中小企業経営に直結する3つの重要ポイントを厳選し、実務への具体的な影響を解説します。

※本記事は令和8年度税制改正大綱に基づいています。最終的な要件や数値は、今後国会に提出される法案および政省令により確定します。

目次

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の見直し

ポイント
  • 対象となる減価償却資産の取得価額の「40万円未満」への引き上げ
  • 適用期限の延長と対象法人の要件見直し

本改正における大きな変更点が、この特例措置の基準額引き上げです。大綱では、従来「30万円未満」だった損金算入の基準額を「40万円未満」へと引き上げる方向性が示されました。これにより、物価上昇で30万円を超えてしまっていたPCやサーバー、業務用機械なども即時償却の対象に含まれる可能性が高まりました。

以下、示された変更案と実務上の留意点について詳しく解説します。

対象となる減価償却資産の取得価額の「40万円未満」への引き上げ

この特例の最大の変更点は、即時償却が可能な取得価額の基準が、現行の「30万円未満」から「40万円未満」へ引き上げられる見通しであることです。昨今の物価上昇により、従来の30万円基準では一括経費計上が難しいケースが増えていましたが、この上限が見直されます。

今回の改正により、例えば35万円のPCやドローンなどを購入した場合でも、購入年度に全額を損金算入できる方向で調整が進んでいます。なお、現行制度にある「年間合計300万円まで」という上限枠については、今回の大綱本文には特段の記述がありません。したがって、40万円未満への単価引き上げ後も、年間の総枠(300万円)は現行ルールのまま維持される公算が高いと考えられます

適用期限の延長と対象法人の要件見直し

本特例の適用期限について、大綱では「3年延長」とする方針が示されました。現行の期限が2026年(令和8年)3月31日であることを踏まえると、法案が成立すれば2029年(令和11年)3月31日まで延長される見込みです。

一方で、対象法人の要件には厳格化の方向性が示されています。本特例を含む中小企業向け租税特別措置全体について、従来の資本金要件等に加え、新たに「常時使用する従業員の数が400人を超える法人を除外する」という方針が盛り込まれました

つまり、資本金1億円以下であっても、従業員数が400人を超える法人は、令和8年4月1日以後の開始事業年度から本特例の適用対象外となる可能性があります。また、「適用除外事業者(過去3年間の平均所得金額が15億円超)」の要件も継続される見込みです。

特定生産性向上設備等投資促進税制の創設

ポイント
  • 制度の概要と「特定生産性向上設備等」の定義
  • 特別償却および税額控除の適用要件

本改正では、産業競争力を強化するため、大規模な設備投資を支援する「特定生産性向上設備等投資促進税制」の創設が予定されています。従来の制度とは異なり、全業種を対象に「生産等設備」への投資を支援する点が特徴です。事前に計画認定を受ける必要がありますが、要件を満たせば「特別償却」や「税額控除」の適用が可能となります。

以下、対象範囲や要件の概要について解説します。

制度の概要と「特定生産性向上設備等」の定義

本制度の適用対象法人は、青色申告書を提出する全法人となる見込みです。

対象となる資産は「特定生産性向上設備等」とされ、機械装置に加え、一定規模以上の建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアが含まれる方向です。ただし、大綱には「生産等設備(事業の用に直接供される減価償却資産)に限る」との注記があり、事務用器具備品、本店、寄宿舎、福利厚生施設などは対象外とされています。

したがって、単なるオフィスPCの入れ替え等は対象にならず、あくまで工場のライン増設や物流倉庫、事業用システムなどの「生産活動に直結する設備」が対象となる点に注意が必要です。

なお、適用を受けるためには、事前に事業適応計画(仮称)を策定し、経済産業大臣の確認を受けるスキームとなる予定です。具体的な生産性向上の数値要件等は、今後の産業競争力強化法の改正や政省令で具体化されます。

特別償却および税額控除の適用要件

認定を受けた計画に基づいて取得した設備については、「特別償却」または「税額控除」のいずれかを選択適用できる見込みです。

大綱の記述によれば、中小企業者等については、特別償却(即時償却を含む方向で調整中)、または取得価額の一定割合(原則7%、建物等は4%などが検討されています)の税額控除が認められる方向です。

また、本税制の税額控除については、控除しきれなかった金額を3年間繰り越すことができる旨が大綱に明記されています。大規模投資を行った年度が赤字であっても、翌期以降の黒字と相殺できるため、中長期的な投資判断において重要な制度となります。

賃上げ促進税制の見直し

ポイント
  • 中小企業向け措置の維持と適用期限の延長
  • 税額控除の繰越措置と教育訓練費等の扱い

物価高騰と人手不足が続く中、賃上げ促進税制についても見直しが行われます。本改正では、制度の簡素化・重点化の観点から、企業規模ごとの区分の廃止や整理が進められます。大企業を含む「全法人向け」および「中堅企業(従業員2,000人以下)向け」の措置は、それぞれの適用期限到来をもって廃止される方向性が示されました。

以下、中小企業向け措置の変更点と、廃止が予定される項目について解説します。

中小企業向け措置の維持と適用期限の延長

「全法人向け」の措置が令和8年3月31日で廃止される一方、中小企業者等向けの措置については、適用期限を3年延長(令和11年3月31日まで)する方向です。

中小企業については、現行の要件(給与総額の前年度比増加率など)をベースとした枠組みが維持される見込みですが、他の税制と同様に「従業員数400人超の法人」が対象から除外される可能性があります

大綱では、大企業・中堅企業向けの制度が順次終了するスケジュールが明記されており、中小企業向け措置だけが延長される形となります。ただし、手放しで「現状維持」とは言えず、次項で解説するように加算措置(上乗せ要件)には縮小の動きがあります。

税額控除の繰越措置と教育訓練費等の扱い

実務上、特に注意が必要なのが「上乗せ措置」の廃止です。

大綱には、「教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置を廃止する」旨が明記されました。これは大企業向けだけでなく、中小企業向け措置においても同様の扱いとなる見込みです。

これまで「賃上げ+教育訓練費の増額」によって最大控除率を目指していた企業にとっては、実質的な控除率の上限が下がる(現行の最大45%から引き下げられる)形となるため、改正後の具体的な控除率を確認する必要があります。

また、一部で期待されていた賃上げ税制自体の「繰越控除措置」については、今回の大綱の該当箇所には明記されていません(※前述の「特定生産性向上設備等投資促進税制」には3年繰越の記載がありますが、賃上げ税制とは区別が必要です)。

その他の法人課税等に関する主な改正項目

ここまで、特に実務への影響が大きい3つの改正点を解説してきました。これらに加え、既存の優遇税制についても適用期限の延長や要件の見直しが行われる方向です。

以下、主要な改正項目をリスト形式で整理します。なお、延長期間や詳細な要件は制度ごとに異なります。

主な改正項目
  • オープンイノベーション促進税制の拡充と延長スタートアップ企業との協業を促すM&A型において、対象株式の保有期間要件などが緩和され、適用期限が延長される見込みです。
  • 特定の事業用資産の買換えの場合の課税の特例の見直し土地や建物の買い替えによる課税の繰り延べ措置について、適用期限の延長(概ね2〜3年)が図られます。ただし、対象となる資産や区域の要件は厳格化される方向です。
  • カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の見直し脱炭素化投資を支援する本制度は、対象設備の要件を見直した上で、適用期限が延長される予定です。
  • 研究開発税制の見直し戦略分野への重点化が進められるほか、試験研究費の定義見直し等が検討されています。
  • 戦略分野国内生産促進税制の見直し半導体などの戦略分野における国内生産を支援するため、対象品目の精査等が行われます。
  • グループ通算制度における調整勘定対応金額の加算措置の見直し企業グループ内の組織再編に関する税務処理について、所要の整備が行われます。

まとめ

最後に、令和8年度税制改正大綱における法人課税のポイントを振り返ります。

ポイント
  • 少額減価償却資産の特例基準が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられる方向。ただし、300万円の上限枠に関する記述はない(現行維持の公算)。
  • 全業種を対象とした「特定生産性向上設備等投資促進税制」が新設されるが、対象は「生産等設備」に限定され、事務用備品等は含まれない。
  • 賃上げ促進税制は、中小企業向けを除き順次廃止の方向。中小企業向けも「教育訓練費の上乗せ」は廃止される見通し。
  • 中小企業特例全体の枠組みとして、新たに「従業員数400人等の規模要件」が導入される可能性がある。
  • 各種投資減税の適用期限は延長されるが、全体的に適用要件は厳格化される傾向にある。

令和8年度は、中小企業の「生産設備への投資」を強く後押しする一方で、漫然とした賃上げや事務用機器の購入に対する優遇は見直されるメリハリの効いた改正となります。3月決算や新年度予算の策定に向けて、大綱の方向性を正しく理解し、今後の法案情報を注視しましょう。

この記事を書いた人

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