「住宅ローン控除」を撤回して「居住用財産譲渡の3,000万円控除」を適用するには?

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「住宅ローン控除」と「居住用財産譲渡の3,000万円控除」

マイホームに係る税金の優遇措置として、「住宅ローン控除」と「居住用財産の譲渡所得の特別控除(以下「3,000万円控除」といいます)」の2つは一般にもよく知られたところだと思います。

「住宅ローン控除」とは、住宅ローンを利用して住宅を新築・取得・増改築する場合に、年末時点での住宅ローン残高の0.7%に相当する金額を、最大13年間所得税から控除することができる制度です。なお、所得税から控除しきれない場合には、翌年の住民税から控除されます。ただし、控除率や控除期間などは毎年改正されており、上記控除率および控除期間は、2024年中に居住した場合に適用されるものです。

また、「3,000万円控除」とは、居住用財産(マイホーム)を売却し譲渡益が発生した場合に、最大で3,000万円までをその譲渡益から控除することができる制度です。

両者の重複適用は「不可」

例えば令和6年2月にこれまで居住していたマイホームを売却し、令和6年10月に住宅ローンを組んで新しくマイホームを購入したような場合、令和6年の確定申告において売却したマイホームに3,000万円控除を適用し、新たに購入したマイホームに住宅ローン控除を適用することは認められておりません。

両者は「租税特別措置法」という特別な法律に規定されており、もととなる所得税法に優先して適用される優遇規定であるため、一部例外を除き、重複適用してはならないことになっています。

先程の例で言えば、令和6年分の確定申告においては、住宅ローン控除と3,000万円控除のどちらか有利な方を選択して申告することになりますが、もしも売却年と購入年が異なっている場合はどうなるのでしょうか?

設例1

令和5年に旧マイホームを売却し、売却益が発生したため居住用財産の譲渡所得の特例(3,000万円控除)を使い、確定申告しました。

令和6年に住宅ローンを組んで新居を購入し、住宅ローン控除の適用を受けたいと思いますが、可能でしょうか?

住宅ローン控除の特例は、居住の用に供した年とその前年およびその前々年の所得税について、居住用財産の譲渡所得の特例(3,000万円控除)の適用を受けている場合には適用できないという要件があります。したがってこの設例では、令和5年に3,000万円控除を受ける旨の確定申告書を既に提出しているため、令和6年において住宅ローン控除を受けることはできないということになります。

では、令和5年に適用した3,000万円控除の特例を取り消すための修正申告書を提出し、令和6年において住宅ローン控除を適用するという方法はどうでしょうか?

修正申告書を提出するには、当初提出した申告書において計算間違いなどがあり、所得金額や税額に変動が生じるなどの理由が必要ですが、残念ながら、上記の場合においては修正申告書を提出できる要件を満たしていません

3,000万円控除などの租税特別措置法の適用を受ける場合には、確定申告書に適用を受ける旨とその明細を添付する必要があります。つまり、自らの意思で適用を受ける旨を宣告し、計算も正しく行われているのであれば、これは適法に申告されたものであって、修正すべき要件にそもそも該当しないという解釈になります。

設例2

令和4年に旧マイホームを売却する予定で同年に住宅ローンを組み、新居を購入しました。

ところが旧マイホームの買い手が見つからないまま令和4年分の確定申告期限が来たため、やむを得ず新居に係る住宅ローン控除を適用して確定申告を行いました。

その後令和6年にインバウンド需要により高値で売却できたため、旧マイホームの売却益に対し3,000万円控除の特例を適用したほうが有利であることがわかりました。

この場合、令和6年分の確定申告において、3,000万円控除の特例の適用を受けることはできるでしょうか?

優良な不動産はすぐに買い手がついてしまうので、このように売却に先行して購入せざるを得ない状況は結構あるのではないかと思います。私自身もマイホームの買い替えを経験しておりますが、旧宅の買い手がつかないうちに新居を購入しました。幸い購入してから数ヶ月で旧宅を売却することができましたが、とても不安だったことを記憶しております。

それはさておき、この場合でも重複適用はできないため、令和4年に既に住宅ローン控除の適用を受けているのであれば、令和6年の確定申告において3,000万円控除の特例を受けることはできません。

ところが住宅ローン控除を適用した(居住を開始した)年から3年以内であれば、住宅ローン控除の特例の適用を受けない旨の修正申告書を提出し、既に受け取った住宅ローン控除による還付金を返納することで、住宅ローン控除の適用をなかったことにし、新たに3,000万円控除の特例を受けることができます

「あれ?先に3,000万円控除の特例を適用して申告した場合には修正申告でも撤回できないっていったのに・・・」

このように思われるかもしれませんが、確かに原則的にはどちらが先であっても、申告当初に「正しい確定申告」を行っているのであれば、修正申告する余地はないと思います。3,000万円控除の特例は居住の用に供さなくなった日から3年以内に売却したものまで適用されることから、元来不動産の売却は難しく、時間のかかるものであるという前提で立法されているように見受けられますので、売却に時間がかかった場合の一種の救済措置と見ることもできそうです。

租税特別措置法第41条の3住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の適用を受けた者が居住用財産に係る課税の特例を受ける場合の修正申告等

第四十一条第二十一項に規定する資産の譲渡をした個人で同項の規定に該当することとなつた者が当該譲渡をした日の属する年の前三年以内の各年分の所得税につき同条第一項又は前条第一項の規定の適用を受けている場合には、その者は、当該譲渡をした日の属する年分の所得税の確定申告期限までに、当該前三年以内の各年分の所得税についての修正申告書(略)を提出し、かつ、当該期限内にこれらの申告書の提出により納付すべき税額を納付しなければならない

最後に

不動産の売却が先に行われていれば、3,000万円控除と住宅ローン控除のどちらを適用すれば有利になるか判断しやすいですが、旧宅の売却が確定していない状況においては、住宅ローン控除と3,000万円控除のどちらの特例の適用を受けたほうが有利になるかわからないので、やむを得ず住宅ローンを選択することは往々にしてあると思います。

京都市内においてはここ数年の不動産価格の高騰により、大した金額で売却できないと思っていたマイホームにびっくりするような値が付くことがあります。その場合、新居に対して既に住宅ローン控除を適用していたとしても、挽回する手段があるということを是非覚えておいてください。

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