定額減税:パート二重取り問題、なぜ起こる?(前半)

目次

制度の不備を突く「二重取り問題」

ここ最近ニュースで話題となっているものに、年収100万円~103万円のパート勤めをしている配偶者や扶養親族の「定額減税二重取り問題」があります。詳細はこのあと解説していきますが、7月12日の閣議後に行われた鈴木財務省の会見には度肝を抜かれました。

源泉徴収義務者である企業や地方自治体が、全ての控除対象配偶者について住民税の情報を網羅的に把握するには、膨大な事務コストが発生する

 ⇒ 始まる前から全国民がそう思ってました。

不公平という指摘があることは承知しているが、一時的な措置であることから、特段重複を認めないといった考え方に立たなかった

 ⇒ 一時的な措置だから税法を変更せず給付にすべきだったのでは?

一国の大臣とは思えない発言ですが、岸田政権が「一律給付」ではなく「減税」にこだわった結果がこの有り様です。

とはいえ、恨み言ばかりをつぶやいていては先に進めませんので、この問題が発生した原因と、どのような方が対象になるのかについて、前後半に分けて解説したいと思います。

控除対象配偶者や扶養親族になるための所得要件

主たる所得のある定額減税対象者の控除対象配偶者や扶養親族になるための要件の一つに「所得要件」がありますが、両者とも「所得金額48万円以下」と定められています。

これについては日頃からよく質問を受けますが、「所得」という表現と、「収入」という表現をしっかりと使い分ける必要があります。個人事業者であれば売上総額が「収入」であり、そこから諸経費を引いたものが「所得」となります。給与所得者の場合、給与額面総額が「収入」となりますが、個人事業者のように自由に経費を差し引くことが原則できませんので、不公平にならないように、経費に相当するものとして、給与収入に応じた「給与所得控除」というものを給与収入から差し引きます。この給与所得控除を差し引いた後の金額が、「所得」となります。

スクロールできます
給与収入給与所得控除額
1,625,000円まで550,000円
1,625,001円から 1,800,000円まで給与収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から 3,600,000円まで給与収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から 6,600,000円まで給与収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から 8,500,000円まで給与収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上1,950,000円(上限)

よく「パート収入は103万円以下に抑えろ」といわれるのは、103万円から上記の表に照らしわせた給与所得控除額55万円を差し引くと、所得金額が48万円となり、控除対象配偶者や扶養親族の所得要件を満たすことができるためです。

ただしこの所得要件ですが、あくまでも「パート収入のみ・かつ1か所のみ」を前提としているため、2か所以上からパート収入を得ていたり、雑貨販売や記事執筆などの副業収入、生命保険金の満期、外貨預金から生じた為替差益など他に所得がある場合には、それぞれの所得計算のルールに従って計算した後の各所得をすべて合算して判定することになりますので注意が必要です。

所得税と住民税の計算構造の違い

先ほどパート収入が103万円の人は控除対象配偶者や扶養親族になれると述べましたが、この要件については所得税も住民税も同じです。

ただし、所得税と住民税では基礎控除の金額に差があるため、下記の設例のように、税額の発生の仕方にも差が生じます。

設例

令和6年分のパート収入は103万円でした。基礎控除以外に所得金額から控除されるものはありません。

所得税の計算

給与収入1,030,000円 
給与所得控除額▲550,000円 
所得金額480,000円 
所得控除額(基礎控除のみ)▲480,000円 
課税所得金額0円 
所得税額0円 

住民税の計算(京都市の場合)

給与収入1,030,000円 
給与所得控除額▲550,000円 
所得金額480,000円 
所得控除額(基礎控除のみ)▲430,000円 
課税所得金額50,000円 
住民税額8,100円 
 ・所得割額2,500円 
 ・均等割額4,600円 
 ・森林環境税(国税)1,000円 

このように、一般的にパート収入103万円だと税金がかからないと言われているのは、あくまでも「所得税」の話であり、住民税においては、基礎控除額に5万円の差があることから、若干ですが所得が発生し、それに対する税金(住民税所得割)がかかっています。

では、次の例ではどうでしょうか?

設例

令和6年分のパート収入は100万円でした。基礎控除以外に所得金額から控除されるものはありません。

所得税についてはパート収入103万円の時点で所得税額がゼロでしたので、パート収入100万円でも当然ゼロとなります。したがって住民税のみ具体的に計算してみましょう。

給与収入1,000,000円 
給与所得控除額▲550,000円 
所得金額450,000円 
所得控除額(基礎控除のみ)▲430,000円 
課税所得金額20,000円 
住民税額0円 
 ・所得割額0円 
 ・均等割額0円 
 ・森林環境税(国税)0円 

上記の通り、住民税は均等割を含めてもゼロという結果になりました。では、パート収入を100万円~103万円の間に設定してみるとどうなるでしょうか?

設例

令和6年分のパート収入は102万円でした。基礎控除以外に所得金額から控除されるものはありません。

所得税は同様にゼロとなりますので、住民税だけ見ていきましょう。

給与収入1,020,000円 
給与所得控除額▲550,000円 
所得金額470,000円 
所得控除額(基礎控除のみ)▲430,000円 
課税所得金額40,000円 
住民税額7,600円 
 ・所得割額2,000円 
 ・均等割額4,600円 
 ・森林環境税(国税)1,000円 

このように、パート収入が100万円を超え103万円以下となる場合、「所得税は納税しないけど、住民税(所得割)は納税する」という状況になります。このことが定額減税に大きな影響を及ぼすことになるのですが、この続きは次回にお話させていただきます。

【後編はこちら】

目次