奨学金利用者は年々増加しています
皆さんは奨学金制度を利用されたことはありますか?
私は大学1回生のときから日本育英会の第一種奨学金(無利息)の支援を受けていて、月額約3万円、大学4年間で140万円ほどの借金を背負って社会人人生をスタートさせました。卒業後は1年の猶予期間を経て、毎月1万円を返済に充てなければならなかったのですが、当時の私の給与は手取りで14万円程度でしたので、返済に大変苦労したのを覚えています。
このような奨学金制度は日本学生支援機構(JASSO)が行っており、最新の資料を調べてみると、令和5年12月末時点で高等教育機関の学生等のうち、32.6%(約3人に1人)がJASSOの奨学金を利用しているそうです。
このような状況で就職活動をする学生にとっては、給与面での待遇や拘束時間(副業をせざるを得ない場合は重要です)が有力な志望動機となります。企業側が学生に対して魅力的な条件を提示できないとなると、若手人材の確保に苦戦したり、離職者の増加に歯止めが効かなくなるおそれがあります。
ちなみに2023年度の「人材不足倒産」を調査したところ、2022年度から2.1倍とまさに倍増しており、件数も過去最多の313件となっています(帝国データバンク調べ)。このように人材の確保が企業存続の命綱となっている中で、少しでも優秀な人材を確保するための制度として、「企業奨学金返還支援制度」というものがあることをご存知でしょうか?
企業の奨学金返還支援(代理返還)制度とは
企業の奨学金返還支援制度とは、自社の従業員がJASSOより貸与を受けていた奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)に対し、企業が返還残額の一部または全額を支援する制度です。以前から各企業は独自の判断で自社の従業員に対し、貸与奨学金の返還額の一部または全額を支援する取り組みを行っていましたが、2021年4月以降は、企業からJASSOへ直接送金することが可能になっています。
奨学金返還支援制度を利用する場合の課税上のメリット
奨学金返還支援制度を利用することにより、以下のような課税上または社会保険上のメリットがあります。
従業員に係る所得税の課税関係
企業が直接日本学生支援機構に送金する場合は、社員の給与と奨学金の返還額が明確に区分され、かつ奨学金の返還であることが明らかであることから、所得税法第9条第1項第15号により、学資に充てるために給付される金品として給与所得の非課税となります。
なお、企業が直接JASSOに振り込むのではなく、従業員を経由して奨学金の返還に充てる場合であっても、従業員が奨学金を貸与していた事実と、返還金に確実に充当していることが明らかである場合には、上記と同様に給与所得の非課税として取り扱われます。
法人の役員や個人事業主の親族などに対するものである場合は、非課税として取り扱われず、通常通り給与として課税されます。
企業における法人税の課税関係
法人税法上、代理返還は社員の奨学金の返済に充てるための給付にあたるので、給与として損金(経費)算入することができます。
また重要なメリットとして、本制度を利用した代理返還に係る給付金は、賃上げ促進税制の給与等支給額の対象となります。
賃上げ促進税制については令和6年度に重要な改正がありましたので改めて解説したいと思いますが、両者を絡めて対策することで、企業にとってはかなり大きなメリットを享受できると思われます。
社会保険料との関係
奨学金返還支援(代理返還)による返還金は、社会保険における標準報酬月額の算定の基礎となる報酬に含まれません。したがって、従業員の社会保険料の負担を軽減することができるとともに、企業においても同様に社会保険料の負担を減らすことができ、キャッシュフローの改善が期待されます。