税務調査で社長の「カラ出張」が発覚!税務に及ぼす影響は?

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税務調査が多い時期になりました

ゴールデン・ウィークが終わり梅雨に入ろうとするこの時期は、税務調査が頻繁に行われる時期になります。

弊所でも既に数件の調査に立ち会いましたが、ありがたいことにどの調査でも大きな非違項目は発見されず、穏やかな感じで終えることができています。

税務調査の現場でよく指摘されがちな事項といえば、売上の計上漏れや架空在庫、交際費などが挙げられますが、同じくらいよく指摘されるのが「カラ出張」です。

カラ出張とは、実際にはかかっていない交通費や宿泊費、日当を不正に経費計上したり、そもそも行ってもいない出張をさも行ったかのように偽装する行為のことをいいます。大企業であれば就業規則や出張旅費規程に違反する行為であり、旅費に係る領収証を偽造するなど悪質な場合は、業務上横領罪や詐欺罪、背任罪、有印私文書偽造罪などといった刑事事件にまで発展する可能性があります。

税務調査においてこの「カラ出張」が発覚すると、単にその旅費交通費が否認されるだけではなく、消費税や所得税といった他の税目にも影響を及ぼすことになります。また、行為自体がそもそも悪質なので、重加算税が課されるなど罰則が厳しくなることが予想されます。

法人税の修正

カラ出張を行ったのが法人の役員であった場合、法人税法上は以下の修正が行われます。

「旅費交通費」の否認

旅費交通費として計上した交通費、宿泊費、日当などそのカラ出張に係るすべての経費が否認されます。ちなみに税務上否認するというのは、遡って法人の決算書から旅費交通費を削除するのではなく、法人税の修正申告書上で「旅費交通費否認」として課税所得を増やすことをいいます。

「役員貸付金」に認定

カラ出張に係る旅費交通費等は法人が負担すべきものではありませんので、その役員が負担すべきものを法人が立替えた(貸し付けた)と考えます。こちらも決算書自体を修正することはしませんが、イメージとして、損益計算書の「旅費交通費」を貸借対照表の「役員貸付金」に振り替えたと考えてください。

「役員貸付金」ということは、その期間に応じた「貸付金利息」をその役員から徴収する必要があります。これを「認定利息」といいますが、利率についてはカラ出張を行った年によって異なりますので、詳しくは国税庁のページを参照してください。

この「役員貸付金」に認定されるというのは、実はとても温情のある処分でして、ここで終わると、後述する消費税の修正までで修正処理は完了し、重加算税までは課されない可能性が高くなります。

非違の度合いが比較的軽微で金額も少なく、解釈の違いなど悪質とまではいえない場合にこのような処分がなされることが多いように思われます。

「役員賞与」に認定

カラ出張に係る旅費交通費が、役員に対する「貸付金」ではなく「利益供与」であると判断されると、その利益供与に相当する金額は役員に対する臨時の賞与、つまり「役員賞与」として認定されます

役員に対する賞与は事前に届けているものを除き、無条件で法人税法上の経費から除外されますが、もしもこのカラ出張がほぼ毎月恒常的に行われているものであった場合、毎月の給与、すなわち「役員報酬」に認定されることになります

役員報酬は原則として年に1回、株主総会等の時期に変更することが認められていますが、特別な事情がない限り、その決められた報酬額を1年間払い続けなければならないルールがあります。これを「定期同額給与」といいますが、このカラ出張が否認されて役員報酬に認定されると、この「定期同額」のルールから外れてしまうことになります。そうなると、この定期同額から外れた部分はすべて否認されることになりますので、事態はより深刻なものとなります。

役員賞与または役員報酬に認定されてしまうと、それらは文字通り給与に該当するため、源泉徴収の対象となりますが、これらのカラ出張費は支出時には当然給与と認識していなかった訳なので、源泉徴収はされていないはずです。

法人は給与の支払いの際に源泉徴収をする義務がありますので、それを怠ると、源泉所得税の本税だけでなく「不納付加算税」という罰金が課されます。税務調査の結果徴収される不納付加算税は、源泉徴収税額に対し10%となっていますが、これは役員ではなく法人側に課される点に注意してください。

消費税の修正

法人税において「旅費交通費」が否認されると、それに係る消費税が過大に仕入税額控除されていたことになりますので、連動して消費税の修正申告を行うことになります。

なお、「役員貸付金」に認定された場合の「認定利息(受取利息)」については、消費税の非課税取引となりますので、追徴される消費税額に影響を及ぼさないことが多いですが、金額によっては課税売上割合に影響を及ぼす可能性がありますので、どこまで影響するのか慎重に見極める必要があります。

源泉所得税および個人所得税の修正

カラ出張が否認され役員賞与等に認定されると、法人側で源泉所得税の納付が発生するとともに、役員側の給与所得が増加することになりますので、個人所得税の修正申告書を提出することになります。

なお、個人所得税について修正申告書を提出することで、税務署経由で各市区町村に修正情報が伝達され、併せて住民税の修正も行われます

法人事業税および法人住民税の修正

法人税の修正を行うことで、連動して法人に対して課される地方税であるところの「法人事業税」と「法人道府県民税」「法人市町村民税」も修正する必要があります

延滞税および各種加算税の賦課

上記の各税目において、それぞれ延滞税や各種加算金が付加されます。

延滞税は、本来納付すべき税金が調査終了時まで納付されなかったわけなので、その期間に応じた利息に相当する延滞税が課されます。なお余談ですが、住民税では「延滞金」と表記されますが、性格は全く同じものです。

次に、税務調査の結果納付すべき税額が実際に納付した税額よりも大きい場合、少なく申告したことに対する罰則として「過少申告加算税」(地方税に対しては「過少申告加算金」)が課されます

また、役員賞与等に認定された場合、源泉所得税を徴収しなかったことに対する罰則として「不納付加算税」が課されます

そして最後に、この一連の行為が悪質であると判断された場合、具体的には事実に対する仮装・隠蔽があったときは、過少申告加算税や不納付加算税に代えて、「重加算税」という重い罰則が課されることになります。

過少申告加算税​または​不納付加算税に​代えて​重加算税を​徴収される​場合、重加算税は、​増差税額​(本来納めるべき​税額 - 当初申告していた​税額)に対し、35%となっています。

最後に

公共交通機関の利用に際しては基本的に領収証が貰えないですし、インボイス制度においても「出張旅費等特例」により、帳簿の記載のみで領収証が不要とされています。これをいいことにカラ出張を繰り返す経営者が後をたたないわけですが、税務署は必要があれば出張先とされている取引先や施設、ホテル等を当たり前に調べますので、税務調査でカラ出張の疑いが掛けられた場合、十中八九バレると思って間違いないでしょう。

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