「事業主貸」と「事業主借」
個人事業主はその特性上、お仕事とプライベートが混在しているため、プライベートの支出や収入の中にお仕事に関係するものがあったり、お仕事用のクレジットカードでプライベートの買い物をしてしまったりすることが日常的に発生します。
「事業主」勘定は、お仕事に関係する預金通帳やクレジットカード上で、事業とは関係のない出金や入金があった場合に使用するもので、プライベートな出金があった場合には「事業主貸」、プライベートな入金があった場合には「事業主借」勘定を使って処理します。
事業主貸勘定で処理する例
プライベートな支出を現金で行った場合には、事業関係の帳簿に一切影響はないので、そのまま放置しておいて問題ないのですが、事業用の預金口座や、事業用として管理しているクレジットカードで以下のような支出があった場合に、事業主貸勘定を使います。
- 個人の趣味や家族のレジャーなどの支出
- 国民健康保険料や国民年金保険料
- iDeCoやNISAなどの投資
- 子供の学校や塾の授業料など
- 医療費や医薬品代など
- ふるさと納税などの寄附金
- 生命保険料
- 業務用ユニフォームではない衣料品全般
- 個人的な飲食費や食料品の購入
- 事業に関係のない諸会費(Netflixやゲームなどのサブスク)
- 住宅ローンの返済
- 家事按分する場合
思いつくままに書きましたが、他にも事業主勘定で処理すべきものはありますので、どうしても気になる場合は所轄の税務署や税理士の無料相談などで確認すると良いでしょう。
事業主借勘定で処理する例
同様に、事業主借勘定で処理すべきものの例として、以下のようなものがあります。
- 普通預金利息や配当金など
- 事業用の車や備品などを売却した場合の譲渡益
- プライベートのお金を事業用に拠出した場合
- 生命保険の満期解約金など
- 宝くじの当選金など
- お給料など事業以外の収入
- 事業用のものを、プライベートのお金で購入した場合
法人で経理をされた経験のある方であれば、普通預金利息は「受取利息」、株式などの配当金は「受取配当金」として処理したくなりますが、所得税法上、受取利息は「利子所得」、受取配当金は「配当所得」として、事業所得とは区別して処理することから、「事業主借」勘定を用います。
同様に、事業用の車両などを売却した場合には、「車両売却益」などの勘定科目を使いたくなりますが、所得税法上は車両などの資産の譲渡は「譲渡所得」に分類されるため、「事業主借」勘定で処理することで、事業所得から除外します。
確定申告が終わったら
これまで税理士が関与していなかった方の確定申告書を拝見すると、結構な確率で事業主勘定の精算が行われていません。
事業主勘定の精算とは、1年を通して計上された事業主貸勘定と事業主借勘定を、翌年に繰り越す際に「元入金」勘定に組み込んでいく作業のことを言います。元入金とは事業を始める際に用意した手元資金のことで、法人の資本金と異なり、毎年の利益や損失を加減算するため、一定の金額ではなく毎年変動するものです。
実際の計算例として、令和5年分の事業主勘定を精算し、元入金を令和6年に繰り越す場合を考えてみましょう。
令和5年末の元入金 + 令和5年分の所得金額(青色申告特別控除前)+ 令和5年分の「事業主借」勘定の合計額 - 令和5年分の「事業主貸」勘定の合計額 = 令和6年に繰り越す元入金の金額
- 令和5年末における元入金:50万円
- 令和5年分の損益計算書における所得金額:300万円(青色申告特別控除前)
- 令和5年分の貸借対照表における事業主貸勘定残高:75万円
- 令和5年分の貸借対照表における事業主借勘定残高:20万円
これを上記算式に当てはめると、50万円+300万円+20万円-75万円=295万円が令和6年に繰り越すべき元入金の額となります。
会計ソフトをお使いの方であれば、年度更新をするとこの処理を自動で行ってくれると思いますが、手書きの帳簿で確定申告をされている方は、必ずこの処理を行い、翌年に事業主勘定を繰り越さないよう注意してください。