相談:無申告を解消したい個人事業主です。開業届を提出していませんが、どうしたら良いでしょうか?

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開業届とは?

個人事業主として新たに事業を始めようとする方は、納税地(基本的には現住所)を管轄している税務署に対し、「個人事業の開業・廃業等届出書(以下「開業届」といいます)」という書類を提出しなければなりません。

開業届は、事業を開始した日から1ヵ月以内に提出する必要がありますが、提出しなかったからといって事業を始められなくなるものではなく、実際に開業届を提出せずに事業を始めている方も数多くいます。

開業届はいわゆる営業許可証のようなものではなく、税務署に対し、「私はこの場所で新たに事業を始めましたよ。なので書類の郵送や連絡はここにお願いします」といったことをお知らせする類の届け出なので、1ヶ月を過ぎて提出したり、提出を怠っていたとしても、何らペナルティはありません

開業届を提出しなかったとしても、確定申告が正しく行われていれば、税務署から問い合わせがあったりやクレームなどを言われることはありません。というのも、提出された確定申告書に記載されている項目は概ね開業届に記載されている項目と一致しますので、税務署側において特に運営上の弊害は生じないためです。

無申告の場合

弊所は無申告の方に対する支援を行っておりますが、その中で多くいただくご質問に、「開業届を提出していないけど大丈夫?今からでも提出したほうが良い?」というものがあります。

結論から申し上げると、提出しなくても問題ありません。ただし、ここで問題がないというのは、前述したように「税務上の罰則がない」という意味なので、状況によっては提出期限後であっても開業届を提出したほうが良い場合もあるので注意してください。

これらを踏まえて、開業届を提出することの実務上のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

開業届を提出するメリット

開業届を提出するメリットには次のようなものがあります。

屋号での銀行口座を開設できる

私は「世良税理士事務所」という屋号で仕事をしていますが、この屋号で銀行口座を開設するためには必ず開業届が必要になります。

個人事業主が預金口座を開設する場合、必ずしも屋号である必要はなく、個人名義の口座でも税務上は何も問題はありませんが、例えば作家さんや漫画家さんのようにビジネスネームで活動されている方であれば、相手方に報酬等の振込口座を知らせる際に、本名を知られてしまうというリスクが生じますので、開業届の提出は必須となるでしょう。

また銀行融資を受ける際にも、個人名ではなく「〇〇介護サービス」などといった屋号の付された銀行口座を継続して使っていることで、銀行に対して事業継続性を証明しやすく、融資条件が有利に働くことも多いと思われます。

クレジットカード等の審査や就労証明に必要

すべてのカード会社に当てはまることではありませんが、個人事業主がクレジットカードの申し込みをする際、事業を行っていることの証明として開業届の提出を求められることがあります。

また保育園などを利用する際に親の就労証明書が必要になりますが、個人事業主の場合、自分自身で就労証明書を作成することになるので、自治体によっては開業届の提出を求められることがあります。

小規模企業共済に開業初年度から加入できる

小規模企業共済とは、中小機構が運営する制度で、個人事業主でも自身の退職金として積み立てることができる制度です。

小規模企業共済の掛金は、その全額を所得から控除できるため節税対策にもなる制度ですが、加入に際しては確定申告書の控えが必要となるため、開業初年度から加入したい場合には、確定申告書に代えて開業届を提出することで、加入要件を満たすことができます。

補助金や助成金の申請ができる

新規に事業を開始した際、開業支援のための助成金や人材確保のための補助金など、国や地方自治体から様々な補助金や助成金を申請することができますが、申請するための必要書類に開業届を要する場合があるので注意が必要です。

例えば「小規模事業者持続化補助金」は個人事業主やフリーランスでも申請可能ですが、申請対象者は「開業届を提出している」個人事業主・フリーランスとなっています。その他の要件を満たしていても、書類1枚無いだけで申請できないこともあるので、補助金や助成金の申請を考えている方は必ず開業届を提出するようにしましょう。

開業届を提出するデメリット

開業届を提出するデメリットという言い方は少し語弊がありますが、開業届を提出することで注意すべき点がいくつかあります。

会社を退職して開業する人

会社勤めをしていた人が退職して独立開業する場合、開業届を提出するタイミングを間違えると雇用保険の失業給付を受けられなくなることがあるので注意しましょう。

失業保険の給付を受け取る条件として「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態であること」と定められているため、開業届を提出すると失業の状態ではないとみなされ、失業給付が受け取れなくなる可能性があります。

しかし、失業給付は受けられなくても、代わりに「再就職手当」を受給できるケースもありますので、諦めずに受給要件を調べるようにしてください。

健康保険の扶養に入れなくなる可能性がある

配偶者の扶養親族として健康保険組合に加入している場合、配偶者の扶養に入るための条件は各健康保険組合が独自に定めているため、加入している健康保険組合によっては、扶養親族が事業を始めた時点で扶養から外されてしまう可能性があります。

現時点で配偶者の扶養に入っている方については、開業届を提出する前に加入している健康保険組合の規約等を確認しておきましょう。もしもこれによって健康保険の扶養を外れた場合には、年金や健康保険料が自己負担となってしまうことに留意してください。

開業届と青色申告の関係

青色申告の承認申請において、開業届の提出は必須要件になっていません。一般的に、開業届と同時に青色申告の承認申請書を提出することが多いため誤解されている方がおられますが、開業届を提出していなくても、青色申告の承認申請はできますので安心してください。

最後に

今回は開業届について解説しましたが、この開業届が大きく注目されたのは、コロナ禍における持続化給付金の申請がきっかけだったように思われます。

当時、運悪く開業初年度にコロナ禍に見舞われた方は、個人事業主であることを証明するために開業届が必要であったこともあり、数多くのご相談をいただきました。

このように、何が起こるかわからない世の中ですので、これから開業される予定の方は、必ず開業届を提出するよう心がけてくださいませ。

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