架空経費と役員借入金

まだ私が大手税理士事務所に努めていたときのお話。

決算が終わり、確定申告の作業をしていると、思った以上に税額が発生することがあります。

もちろん、決算前には逐次決算予測を行い、納税額の見込みも立てているのですが、思わぬ売上があった場合など、どうしても予測しきれない場合があるんですね。

そんなとき、どこからともなく領収書を持ってこられ、『これを経費に突っ込んでおいて』などと仰る社長さんがいました。

経費を計上する場合には、会計仕訳として、『(借方)経費〇〇円/(貸方)現金預金〇〇円』という処理をしなければなりませんが、普通預金などは通帳等の明細がありますので、通帳に記載のない取引を仕訳することはできません。現金であればなんとかなりそうな感じですが、それでも10万円単位の領収書を処理すると、現金残高がマイナスになったりしますので、それもできません。

となると、最後に登場するのが『役員借入金』です。

 『(借方)経費〇〇円/(貸方)役員借入金〇〇円』 と仕訳しても、現金預金に影響はないので、いくらでも計上できてしまうんですね。

もしもこれが本当に精算し忘れた社長立替の経費領収書であれば、堂々と 『(借方)経費〇〇円/(貸方)未払金〇〇円』 と決算仕訳を切ればよいのですが、最終的に精算するつもりがないので、『役員借入金』で処理することになります。

問題は、この処理を行った領収書が、『架空経費』だった場合です。

令和となったこのご時世でも、相変わらず白紙の領収書をもらってくる社長がいます。この白紙の領収書に、『修繕費300万円』と記載し、 『(借方)修繕費300万円/(貸方)役員借入金300万円』 と 仕訳をすると、あら不思議!現預金を触らずに後付で経費を計上することができてしまいました。

税務調査では、総勘定元帳はすべてチェックされるので、役員借入金勘定にいろんな経費が計上されていれば、当然のことながら架空経費を疑います。例えば、個人名義のクレジットカードで会社経費を使った場合、会社の現金預金を通らないので、後付で役員借入金勘定で処理することがよくありますが、個人名義なだけに管理が杜撰になり、店舗での購入明細が添付されていないなど消費税の仕入税額控除を行うための要件を満たさないこともあります。銀行からの融資に際しても、異様に膨れ上がった役員借入金勘定が決算書にあれば、当然その中身や経緯の説明を求められます。

さらに問題なのは、運良く税務調査で指摘されず、役員借入金勘定を用いて長い間架空経費を計上していた場合、負債としての実態がないにも関わらず、社長の側から見れば、会社に貸し付けた事実のない、架空の『役員貸付金』という債権が発生することになります。

この『役員貸付金』という債権は、社長が亡くなって相続が発生した場合、当然被相続人である社長の相続財産に含まれますので、他の相続財産の金額によっては相続税が掛かることになります。

このように、役員借入金勘定を使って架空経費を計上することは脱税の常套手段であり、どんなに上手にやっても必ずどこかのタイミングで発覚するようになっていますので、そのような無駄なことは絶対にしないようにしましょうね。

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