マッサージチェアは経費になるか?
税理士は1日中パソコンの前で過ごすことが多いので、どうしても肩や腰に負担がかかりがちです。なので事務所のデスクの横には簡易的なマッサージチェアが置いてありますが、もちろん経費に落としたりはしていません。
なぜ経費にしていないのかは後ほど説明しますが、まずはマッサージチェアを購入金額の観点から、経費となるかならないのかを検証してみたいと思います。
いま、価格.comで良さそうなマッサージチェアを探してみたところ、1番人気の機種で税込450,500円というのがありましたので、これを例に解説します。
皆さんが個人事業者か法人組織かにかかわらず、青色申告の届出を行っているのであれば、税込30万円未満のものは原則購入金額の全額を経費として処理することができます。
この例の場合は購入金額が30万円以上となるので、全額経費として処理することはできず、一旦資産に計上し、減価償却費という形で毎年経費にしていきます。
ちなみに、減価償却する際の耐用年数ですが、用途により解釈が異なるものの、概ね6年とされることが多いので、この例の場合、1年間に経費にできる金額は約75,000円程度ということになります。
では、そもそもマッサージチェアの購入金額やその減価償却費が経費として計上できるのかについても考えていきましょう。
購入目的は?
福利厚生目的
法人や個人事業主がマッサージチェアを購入する動機として一番に考えられるものとして、「福利厚生」目的のものがあります。
福利厚生費として経費計上するためには、従業員全員が対象になること(機会の平等性)、社会通念上妥当な金額であること(金額の妥当性)、商品券など換金性の高いものでないこと(現物支給でないこと)といった要件を満たす必要があります。
したがって、従業員のいない会社や個人事業主は、福利厚生の概念からそもそも外れるため福利厚生費として経費計上することはできません。また、福利厚生目的としながら社長の自宅に置いてあったりすると、当然税務調査等で指摘されてしまいます。
実際税務調査の現場で起こったことですが、調査当日に従業員休憩所にマッサージチェアが置いてあったにも関わらず、購入時の納品書を調べられ、購入時に社長宅に搬入されていたことが判明し、従業員数名にいつからマッサージチェアが食堂にあったかヒアリングされたことがあります。最終的に役員報酬に認定され、結構な額の追徴税が課されましたが、心当たりのある方は要注意です。
業務上の必要性がある場合
例えば建設業や運送業といった肉体を酷使する業種では、従業員の安全や健康維持を図るため、継続的に体のメンテナンスをする必要があります。これをサポートするためにマッサージチェアを購入した場合には、経費として処理することができます。この場合は該当する業務に従事している従業員全員が利用できる状態であることが必須で、一般の従業員でも利用できるようにしておくと福利厚生費としても完璧です。
研究開発目的で購入する場合
自社の研究開発のためにマッサージチェアを購入した場合は、研究開発費等の経費として処理することができます。同業他社の製品の研究やマッサージチェアを利用したことによる影響を調査するなど、限られた状況ですが、経費計上しても問題ありません。なお、資産計上する場合には「研究用固定資産」として減価償却を通じて経費処理することになります。
「マッサージ代」は経費処理できる?
「そもそも無理」な場合
一人社長や個人事業主本人、家族のみの会社などはそもそも「福利厚生費」として処理する余地はありません。支出した個人の「医療費控除」として処理できる可能性はありますが、その場合、マッサージなどの施術が治療やリハビリといった医療目的である必要があります。したがってリラクゼーション目的の施術は医療費控除の対象にもなりません。
福利厚生目的で支出する場合
従業員全員を対象とした福利厚生目的で支出する場合は「福利厚生費」として処理することができます。
ただし、何でもかんでも経費にできるわけではなく、法人が契約した特定のマッサージ店で受けた施術や法人に柔道整復師などを呼んで施術を受けた場合の支出のみ、福利厚生費として経費計上することができます。
従業員研修や市場調査費として支出する場合
マッサージやエステサロンなどに従事している従業員に対し、技術習得や同業他社調査のために受けさせるマッサージ代は研修費や研究費として経費処理できます。
その他
限定された状況ではありますが、取引先の接待や饗応のためにマッサージ店を利用した場合は接待交際費として経費処理することができます。また、スポーツ選手など高負荷な運動を常に要求される業種に従事している者に対し、健康管理上不可欠な場合は「健康管理費」や「トレーニング費」として経費計上できます。
最後に
「どんな仕事をするにも体が資本!機械と一緒でメンテナンスのためのマッサージ代は経費!」
私自身の気持ちはこれに完全同意なのですが、実際に経費処理するためにはさまざまな要件をクリアする必要がありますので、思い込みで経理処理しないよう気をつけましょう。