税抜経理を行っている青色申告者が少額減価償却資産を取得した場合
インボイス制度は消費税だけではなく、所得税や法人税の計算にも様々な影響を及ぼします。
青色申告を行っている中小事業者の特典の一つとして、取得価額が30万円未満の減価償却資産を取得した場合に、その全額を経費として処理することができる「少額減価償却資産の特例」がありますが、インボイス制度開始後は、誰から購入するかによってこの規定の適用要件に影響を及ぼす可能性がありますので、事例を見ながら考えていきたいと思います。
計算事例
前提
- 青色申告を行う中小法人
- 消費税の会計処理は税抜方式
- 1台あたり295,000円(税抜き)の医療用ベッド(耐用年数8年・定額法)を10台購入
- 他に少額減価償却資産の取得なし
インボイス登録事業者から購入した場合
これらのベッドをインボイス登録事業者から購入した場合は、従来通りの判定・仕訳を行って問題ありません。
【少額減価償却資産の判定】
1台あたりの税抜取得価額 295,000円 < 300,000円 ⇒ 少額減価償却資産
(税抜経理を行っている場合は、税抜金額で30万円未満の判定を行います)
【仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 2,950,000円 | 現金預金 | 3,245,000円 | 295,000円✕10台分 |
仮払消費税 | 295,000円 |
インボイス登録事業者以外から購入した場合
これらのベッドをインボイス登録事業者以外から購入した場合、インボイス制度における経過措置(令和8年9月30日までは80%控除)が適用されますので、少額減価償却資産の判定・仕訳は以下のようになります。
【少額減価償却資産の判定】
ベッドの購入金額に含まれる消費税額29,500円(295,000円の10%)のうち、経過措置により消費税額と認められない金額5,900円(29,500円✕20%)がベッドの取得価額に加算されます。
295,000円+5,900円=300,900円
300,900円 ≧ 300,000円 ⇒ 少額減価償却資産に該当しない
判定の結果少額減価償却資産に該当しないため、減価償却資産(器具備品)として処理します。
【仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
器具備品 | 3,009,000円 | 現金預金 | 3,245,000円 | 300,900円✕10台分 |
仮払消費税 | 236,000円 | 29,500円✕80%✕10台分 |
決算時に減価償却を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 376,125円 | 器具備品 | 376,125円 | 12ヶ月使用 |
インボイス登録事業者の確認をせず処理してしまったら・・・
上記の事例において、販売事業者がインボイス登録事業者でなかったにも関わらず、経理担当者が「この販売事業者はインボイスの登録事業者だ」と思いこんで経理処理をしたとしたら、会社の利益にどれくらいの影響が出るか考えてみましょう。
販売事業者 | 経費に計上できる金額 | 差異 | |
---|---|---|---|
インボイス登録あり | 消耗品費 | 2,950,000円 | 2,573,875円 |
インボイス登録なし | 減価償却費 | 376,125円 |
この事例では利益に約250万円、税額にすると約70万円ほどの差が出ることになります。同一資産を多数揃えないといけない業種は意外に多く、この事例のように最初の判定を間違えると、結果として利益に数百万円の差が生じる可能性があります。
最後に
「新しい事業所にノートパソコン20台購入しないといけないので、アマゾンで安いやつを購入しました。」といった場合、「アマゾンから購入したんだから、当然インボイス登録事業者でしょ」なんて思い込んでいませんか?アマゾンなどのECサイトに出品している事業者には、インボイス登録をしていない外国企業や個人事業主なども多く登録されています。しっかり確認して正しい処理をするよう日頃から気をつけてくださいね。